最終更新: 2019年8月13日

dan
D.A.N. – EP

シンセサイザーも操るギター・ヴォーカルの桜木大悟に加え、ベース市川仁也とドラムス川上輝によるスリー・ピースD.A.N.(ダン)は、編成が最小なら目指す音楽もミニマルかつメロウだ。歌いまわしやメロディーの端々からはOGRE YOU ASSHOLEの影響が感じられ、アンビエントなオウガというか、サイケデリックとAORをクラブ・ミュージックに落とし込んだかのような折衷サウンド。The xxを連想させる荘厳なシンセサイザーの響きとユニゾン・コーラス、音数を絞った冷たく鋭利なギターと心地よく転がるリズム隊には不思議な中毒性があり、一度聴けば頭から離れず何度もリピートされてしまう。DJ感覚で様々な要素を繋ぎ合わせた音楽性は、下手なミュージシャンが真似すればフランケンシュタイン博士が作った人造人間よろしく、いびつでツギハギのぎこちないものになってしまうだろう。しかし彼らは影響元の楽曲の最良のエッセンスを取り出して野菜の新種でも作るみたいに掛け合わせ、瑞々しい音楽を作り出してしまう。

彼らが掛け合わせた遺伝子の中には90年代以降の歌謡曲、J-POPも含まれる。クールなサウンドだけではなくフックとなる人懐っこいメロディーが前面に押し出されているのはYogee New Wavesnever young beachらRoman Labelの先輩バンドと同じだ。彼らとのもう一つの共通点は細野晴臣からの影響で、やや乱暴ではあるが、Yogee New Wavesがはっぴいえんどだとしたら、never young beachはトロピカル三部作に代表される細野ソロ、残るD.A.N.は細野のテクノ、アンビエント・ワークスに例えられるかもしれない。

ところで筆者は先日名古屋で、その細野晴臣のライヴを観てきたが、50年代以前のポピュラー・ソング、カントリー、ウエスタン・スイング、ロカビリーを次々に演奏し、映画の影響でジェームス・ブラウンをカヴァーして激しく踊る姿は生きるレジェンドそのもので、バンド・メンバーと本気で楽しんで演奏する姿勢はD.A.N.ら若手ミュージシャンとなんら変わりなかった。

自分の生まれる以前の様々な音楽をカヴァーし、その過程で新曲も書いて演奏する現在の細野晴臣と、彼に対する敬意を持った上で同時代の音楽を幅広く吸収して演奏するRoman Labelの若手ミュージシャン達、どちらも私に同質の感動をもたらしてくれる。特に3組中最年少であり、徹底的にミニマルかつ心地よくメロウに今を突き詰めたサウンドを奏でるD.A.N.がどこまで進化するのかは楽しみだ。細野晴臣と対等の立場で共演する日が来るかもしれないし、いっそのこと、近々『NO NUKES 2012』のライヴ盤をリリースするYMOが彼らをまとめてイベントに誘ってしまえばいいじゃないか。

【Writer】Toyokazu Mori (@toyokazu_mori)
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