最終更新: 2015年7月17日

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映画監督、小林達夫の最新作『合葬』の公開を記念し、京都の立誠シネマにて2005年から2008年までの貴重な短編3作を一挙上映する。その3作品の中から『ZAZEN BOYS アメリカ・レコーディング・ドキュメント』の劇場公開が決定した。その公開を記念して今回、音楽という視点から小林監督のドキュメンタリー作品に迫った。

アーティスト:小林達夫 インタビュアー:桃井かおる子

-『ZAZEN BOYS アメリカ・レコーディング・ドキュメント(以下、ZAZEN BOYS アメリカ〜)』は7年前の作品で、当時監督は23才とのことですが、その若さでどのように制作に至ったのか、経緯を教えて下さい。
小林:まず2007年の京都国際学生映画祭の直後に、何人かのプロデューサーに自作を見ていただく機会がありました。おもに映画祭に入った『少年と町』を見せていたのですが、そのなかで積極的に「他の作品も見たい」と言ってくださったのが『ZAZEN BOYS アメリカ〜』のプロデューサーでした。そこで今回一緒に上映される『無伴奏ヴァイオリン組曲第6番』を見てもらい、お会いしました。この短編はストーリーはあるのですが『少年と町』よりも音楽的というか、画と音の実験的要素が強い作品です。自分自身、以前バンドでラジオを使ったノイズの即興をやっていたこともあり、最初にお会いしたときは音楽の話ばかりしてましたね。そこから2ヶ月後くらいに急に連絡があって、「アメリカに行けますか?」と。デイヴ・フリッドマンのTarbox Road Studioでレコーディングを行なうZAZEN BOYSの制作過程を追う番組でした。本当にビックリしましたが、映画での音の扱いからミュージシャンのドキュメントに誘っていただいたことは嬉しかったです。

-監督ご自身は、当時ZAZEN BOYSの音楽についてどう思いましたか?
もちろん聴いていましたし、CDも持っていましたが、リアルタイムの活動を熱心に追っていた訳ではなかったです。しかし、現場で新作アルバムに打ち込みの曲があることを知っても、まったく驚きはなかったというか、むしろ自然に、今までもあったような気さえしていました。それくらい…なんでしょう。音楽を聴いている人、特に自分たち世代の人間にとってのZAZEN BOYSは、意識せずともその動向を感じられるような存在だったと言えるのではないでしょうか。

-多くのドキュメンタリーは、ナレーションは監督自身やプロデューサーといった方が務められる印象があるのですが、なぜこの作品のナレーションはバンドのフロントマンである向井さんが担当しているのですか?
僕自身、フレデリック・ワイズマンや小川紳介といった映画作家の仕事に憧れがあったので、まずナレーションを使わなくとも成立する作品にしたいという思いがありました。それに番組の放送時期がアルバムの発売前だったので、内容を言葉で説明するような見え方は避けたかったのです。画の連なりで、音楽が生まれる場の空気感を捉えたい、と。演奏シーンや、オフショット、ミックス作業中の会話など、ナレーションがなくとも十分伝えられる素材だったと思うのですが、最終的に「なぜ今回、アメリカでレコーディングすることを選んだのか?」ということだけは向井さんの想いが聞きたかったので、全体の導入という役割で向井さんのナレーションから始めることにしました。結果向井さんの視点で進んで行くストーリーは、今回の構成に合っていたのではないかと思います。

-ドキュメンタリーを制作するにあたって、撮る側と撮られる側の距離感はとても重要だと思います。その辺りのことも含め、この作品を作る中で一番大変だったことはどんなことでしたか?
映画の現場で役者よければすべて良し、と言われるように、被写体としてZAZEN BOYSを撮ることは、いい役者を撮るときのような興奮があり、ただただ楽しい経験でした。大変なことといえば、OKテイクとそれ以外のテイクの差異って明確に映像として映る訳ではないので、どういう音を目指しているのか・何に向かって進んでいるのか、を向井さんとデイヴとのコミュニケーションのなかで感じられるように構成しました。

-今回、7年前にテレビ放映された作品が映画館で上映されることとなったのですが、スクリーンにこのドキュメンタリーが上映されることに関して今どのようなことを感じられていますか?
やはり音楽と映画という違いはあれど、じかに見たZAZEN BOYSの姿から自分は大きな影響を受けていたのだな、と今回改めて思いました。音楽でのミックスの行程は、レコーディングした音をどのように配置し楽曲として仕上げるか、という部分で映画でいう編集・ダビングの作業と近いですが、そこでの向井さんのアプローチといいますか、向かう姿勢は自分のベースにあって、映画の現場でもちょっと真似しようとしてる部分があるかもしれないですね。場の緊張感やストイックさもすごいと思うし、ユニークな言葉のなかに的確な指示が含まれていることもさすがだなと。そして、『ZAZEN BOYS アメリカ〜』のプロデューサーの齋見さんには最新作の『合葬』にも音楽プロデューサーとして関わっていただいているので、色んな意味で現在の自分に繋がっている作品です。画と音楽に対する考え方も自分の原点といえる3作なので、この機会に是非見ていただきたいと思います。

【イベント】
『合葬』公開記念 小林達夫監督作品集 2005-2008
7/18(土) 13:30~
■会場/3F 立誠シネマ
■料金/一般1,200円(学生・立誠シネマ会員1,000円)
■上映作品:少年と町/無伴奏ヴァイオリン組曲第6番/ZAZEN BOYS アメリカ・レコーディング・ドキュメント
*上映後、監督トーク

【合葬】
9月26日(土)全国ロードショー!江戸から明治へ・・・
幕末、将軍と江戸市中を守る為に結成された「彰義隊」
混乱の中で生き、翻弄されていく三人の若者たち
恋も、友情も、志も、人知れず儚く散る青春最後の一ヶ月
『合葬』9月26日(土)全国ロードショー!
公式HP:http://gassoh.jp/

【プロフィール】
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小林達夫
1985年京都生まれ。2007年、『少年と町』で第10回京都国際学生映画祭グランプリを受賞。その後、京都を舞台にした『カントリーガール』(10)『カサブランカの探偵』(13)を監督する。2013年には京都市芸術文化特別奨励者に認定。最新作『合葬』(15)は自身初の劇場用公開作品となる。