最終更新: 2020年5月16日

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BELONGをご覧の皆さんこんにちは。毎度毎度、わたしの気になる国内インディーバンドを紹介する本コーナー、2015年も暮れ行く師走となり、今年を振り返ってみると、11月には我が国において初めてポストパンク由来のニューレイヴサウンドをお茶の間レベルまで轟かしたThe Telephonesが、そして今月は2000年代の国内ガレージロック~シティポップまで欧米のロックシーンと並走するように牽引してきたQUATTRO、福岡発パワーポップシーンの雄、HOLIDAYS OF SEVENTEENがそれぞれ10年以上の活動を休止するという、ある意味、ディケイドの区切りを感じざるを得ない年末という方は多いのではないでしょうか。

当初はこの辺りを思い出話的に総括していこうかと思いつつ、ロックンロールトレインに終点はなく、ロールする以上は走り続けねばならないので、それらはまたの機会にして、今回は大阪を中心に活動する4人組パワーポップバンド、ナードマグネットをご紹介させて下さい。

彼らを初めて知ったのは昨年秋、Nahavandの宮内くんによるツイートで紹介されていた「Mixtape」という曲のビデオです。これは白い部屋の中でメンバー4人がザ・ジャム、ザ・フーをはじめ、チリペッパーズやウィーザーまで、彼らのルーツと思しきバンドの名盤ジャケットをハンドメイドな小道具で仮装しつつ構図を再現していくという名作ですが、一聴して心を掴まれるパワーポップサウンドによる初めて聞いたにも関わらず感じる甘酸っぱい郷愁もまた印象的でした。

パワーポップというジャンルを乱暴に定義すると、ありとあらゆる思春期の不安や、取り戻せない過去への悔恨、そして叶いっこない将来の恋など、いずれも青春性ゆえの狂おしい感情を、あえて陽性のメロディにのせ、性急ではなく力強いギターコードとビートで牽引するタイプの音楽です。情けなさや不都合や挫折感に爆発寸前、しかしながら不良になることもできない少年少女に対して笑い飛ばすように肩を叩き、一緒に泣きながら笑ってくれる灯火と言ってもいいかもしれません。

この対義語をさらに乱暴な言い方で申し上げれば、同じテーマが歌われようとも、それが陰性のメロディならば、俗に言うところの”鬱ロック”、テンポの速い裏打ち16ビートになると、かつての”青春パンク”となるかもしれません。つまるところ、これらのジャンルと比べ、我が国において爆発的に流行したことがないジャンルとも言えます。逆に申し上げれば、パワーポップは大人の玩具になることもなく、メンヘラの慰みものになることもなく、ヤンキーのスポーツになることもなく、ほぼ変わらない姿で、いつでもそこにあったのです。どうでしょうか。何だか信頼できそうじゃないですかパワーポップ。

ナードマグネットは、まるでHOLIDAYS OF SEVENTEENからパワーポップ牽引のバトンを受け取るように(偶然ですがフロントマンの眼鏡も含めて)2016年春に初の1stアルバムをリリースするそうです。この新たなるパワーポップの夜明けが、現代の、そしてかつての少年少女の心と共にあらんことを祈っています。

【ナードマグネット – C.S.L.(監督:加藤マニ、出演:荒井愛花(Manaka Arai))】

【Writer】

加藤マニ(manifilms)
1985年東京生まれ。インディーズ、メジャーを問わずミュージックビデオ等の映像制作、広告デザインやウェブデザインによって口を糊する他、ロックバンドPILLS EMPIREおよびLowtideのキーボード兼にぎやかし担当、及びDJやVJ、レビューやエッセイ執筆等のオファーは来るもの拒まず、インディ精神を忘れない、立派な大人を目指して自活中。

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