最終更新: 2020年3月8日

明るさMAX
ソニック・ユースは不協和音を多用するんですけど、それは僕らが不協和音だと思っているだけで。音楽そのものというか、白い鍵盤と黒い鍵盤で作っているものって単なる思い込みだと思うんですよね。

インタビュー:小林祐介 インタビュアー:yabori

-THE NOVEMBERSのルーツに当たるアルバムを教えてください。
小林:自分の表現に結びついたというか、音楽的なきっかけになった5枚を選びました。他にも挙げろと言われたらキリがないんですけど、洋楽への扉になるよう聴きやすいアルバムを持ってきました。

dip – TIME ACID NO CRY AIR

日本で一番影響を受けたギタリストはディップのヤマジカズヒデさんなんですよ。年を取ってくると良くも悪くもこなれてくるものだと思うんですけど、いつでも現役だと思うしギターも一聴してヤマジさんのものだと分かるんですよね。歌詞も示唆に富んでいて、色んな比喩を使ってるんですよ。何が良いか悪いかを言わないっていう。何がここにあるとか、こういう風景があるとか、映画のような描き方をするんですよね。感情の起伏に寄り添ったものではない所に感銘を受けました。メッセージ性がなければ歌ってはいけないってイメージを払拭できたのが、素晴らしい所ですね。このアルバムはディップのファズサウンドに傾倒していた時期の作品で、一曲目の『SERIAL』はもろWireってバンドのオマージュをやっているんですよ。ヤマジさんなりにリスペクトを込めてわざとやってるんですけど、そのあからさまな所にも影響を受けてるんですよ。

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The Cure – Disintegration

キュアー中期の3部作の中で一番ドリームポップというか、深遠な世界観があるというか。ボーカルのロバート・スミスって年を取ろうが太ってぶよぶよになろうが、髪の毛ボサボサで白塗りのメイクをしてるじゃないですか。そこに彼のブレなさを感じるんですよね。歌詞に関しても海外のバンドって自分の弱さをさらけ出せる人たちってあんまりいなかったらしいんですよ。だけどロバート・スミスって「僕はこんなに情けないんだけど、こんな歌を歌えるんだよ」とか、「こんなに恋人の事が好きだけど、それが上手くいかなくて悲しい思いをしてる。でもそれを歌い飛ばす事ができるよ」とか、ポジティブな目線があるのが良くて。歌詞を和訳してより好きになりましたね。あとはこの時代のニューウェーブサウンドが大好きなんですよね。

The Smiths – Queen Is Dead

ボックスセットの紙ジャケットのものを持って来ました。音楽だけじゃなくてデザインやジャケット写真まで含めて全部好きですね。ジャケットは映画のスチール写真を使っていると思うんですけど、このフォントにこのカラーがまさにスミスカラーじゃないですか。彼らはネオ・アコースティック寄りのバンドだったんですけど、これはちょっとニューウェーブに接近してるというか。このアルバムだけ独立し過ぎてて、シーンの中では語れない特殊な作品という気がしますね。モリッシーのカリスマ性にも、もの凄く影響を受けています。彼は一種の象徴だったと思っていて。当時の鬱屈した若者たちの苦悩を彼は体現しているんですけど、社会的にマイノリティであるゲイという事もカミングアウトして、ステージでは花束を振り回したりするんですよね。普通だったらモッシュとかするような年代の若い男の子がステージに上がってモリッシーに抱きついたり、手を握ったりして降りて行くという・・・。これって一種の儀式じゃないですか。それをモリッシーは一切拒まなかったんですよね。ステージの妨げになるようなものは普通スタッフが止めるじゃないですか、それでも彼はハグされたり、キスされたりしながらも歌い続けてて。そこはキリストと一緒なんですよね。カリスマ性はモリッシーに憧れたというのもありつつ、ギタリストとしてはジョニー・マーの珠玉のフレーズの嵐に感銘を受けましたね。

Sonic Youth – Sonic Nurse

僕はニルヴァーナやダイナソーJr.とか、同じ時代のバンドも大好きなんですけど、ソニック・ユースは開拓者だなと思っていて。彼らは不協和音を多用するんですけど、それは僕らが不協和音だと思っているだけで。音楽そのものというか、白い鍵盤と黒い鍵盤で作っているものって単なる思い込みだと思うんですよね。ドとドシャープの間って本当は音階がある訳じゃないですか。それをみんなが音楽として扱わないという不思議があって。ソニック・ユースは意図的かどうかは分からないんですけど、普通の人が聴いたら不快に思う違和感のある音をふんだんに盛り込んでいるんですよ。ノイズそのものに美意識を見出したという意味では、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインにも通ずるものがあるというか。何よりもストリートの匂いを感じる所が大好きです。アーティスティックだから後続のミュージシャンにも多大な影響を与えているんですよね。このアルバムはメンバーにジム・オルークがいた時期で、音楽的にも頂点に辿りついたかなと思いますね。今のロックってミックスで過剰に激しい音を出してるバンドが多いと思うんですけど、それってめっちゃイキってると思うんですよね。そういうのってヤンキーみたいなものだと思っていて。でも彼らはそういうハッタリに頼らない所に凄味がありますよね。

The La’s – La’s

人生の中で珠玉の名曲を一曲を挙げるとするなら「There She Goes」なんですね。僕の人生の中での目標の一つに「There She Goes」を作るというものがあって。このバンドの事はよく知らないけど、この曲は知ってるっていう。下世話な言い方をするとヒット曲でもあるし、心の歌とも言い換えれるんですよね。僕は色んな曲で評価されたいと思っているんですが、この曲だったらみんな知ってるというものを残せたら凄く意味があると思っていて。今Charaのサポートをしていて、彼女がヒット曲を歌って会場がワァーってなってるのを見ると、あの当時にこんな独特な事をやってて未だに人に愛されてるっていうのが凄く輝いて見えたんですよね。ヒット曲って下世話なものが多かったりするんですけど、「There She Goes」のように世の中に印象付けるような曲ができたら良いなと思いますね。お客さんがそれを求めてて自分たちもステージ上で演奏する喜びがあるっていう。バンドと曲とお客さんとの健全な関係が生まれたら素敵だなって思いますね。