最終更新: 2019年6月2日

レコード店のフロアやインターネットでは、新しい音楽情報が日々乱れ飛ぶ。そんな現況は、3分間のポップ・ミュージックが持ちうる情報量を増加させ、<マニアック>の範疇に収まらない曲としてアウトプットできる者をも生み出した。そういった流れの一つとして、管弦楽楽器を巧みに使った多人数ユニットや90年代以前の音楽を組み入れたバンドが続々と表れ、新たなインディーミュージックとして盛り上がりを見せている。これとそれ、あれとどれ、いくつかのジャンルを軽やかに越境して生まれる彼らの音楽には、一種の批評性が宿っている。

そんなインテリらしさとアート気質が強い彼らに比べれば、本作の主人公Kalan Ya Heidi(カラン・ヤ・ヘイディ)のシンプルさはひどく新しく響いてくる。Kalan Ya Heidiの『mofu EP』は3月に発売されている。福岡の正体不明音楽ユニットである彼ら、メンバーは男性4人に女性2人の6人だ。幻想的なアンビエント/シューゲイザー、グロッケン/バンジョー/アコーディオンを用いた軽やかなアイリッシュ系のトラッド・フォーク、ローファイかつフォーキーなギターソング、コロコロとリズムを変わっていきながら見せる音の数々。ハンバートハンバートや星野源を思い出させるような、ロック・ミュージックに擦り寄りすぎないソフトな音色・音使い、シンプルさと軽快さを失わないKalan Ya Heidiの音楽は、まさにインディー・ミュージックのお手本のようだ。

無邪気な女の子の表情のように変わっていく本作のサウンドは、2人の女性ボーカルの柔らかくナイーヴな歌声と重なり、夢見がちな少女を描いた人物像とファンタジーめいた詞をよりいっそう光らせるものとして広がっていく。学理的ではない文学的な余韻が、なぜこんなに切なく響くのか、正直言ってよく分からない。分からないのに書いてるのかってツッコミは致し方ないのだが、僕は僕でもよく分からない情景のために、何度も再生ボタンを押してしまうのは確かなようだ。

【Writer】草野 虹(@grassrainbow)
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