最終更新: 2020年5月16日

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地元長野を活動拠点として構え、石原洋・中村宗一郎という絶対的な信頼をおけるパートナーがいて…とインディペンデントに「音楽作品」を作ることに関して、2010年代以降のインディーズバンドの理想形としてリスペクトを集める彼ら。シニカルで達観的な終末観を描いたここ2作『homely』,『100年後』に続いて本作もコンセプチュアルな作品ではあるが、聴いていく内にドンドン何も感じなくなっていく心地がなんとも不気味である。「他人の夢」のメロウな音像、出戸学(Vo,G)によるラブソングのような甘い歌い方にも何故か感情は全く動かない。「ムダがないって素晴らしい」で感じられるアフロビートも体を揺らすことに全く機能しない。

ここ2作にあったクラウトロックやA.O.R色は後退し、全体を包む雰囲気は「他人の夢」の歌詞にあるよう正しく“ここにある全てが少し変”なのである。ソウル・ボサノヴァの要素を感じてもグルーヴは能面的で、サウンドはカラッカラに乾燥、歌は恋人にも社会にも自らにも向けておらず、ただ坦々と進むつくりとなっている。ラストを飾る「誰もいない」でこそホーンセクションを入れた豪華でキャッチーな楽曲で安心するのだが、ピリピリとしたアナログ音だと思っていたものが、次第に存在感を高めてノイズとなり、そのままアルバムは終わりを迎える。やっぱり最後まで違和感で終わるハリボテの世界。

日々確実に何かが起こりうる世界において、空虚・匿名性・平熱・無関心というコトナカレは一番恐ろしくて寂しい。右傾化し言いたいことがたくさんあるこの世の中では、せめてtofubeatsのように終わらないダンスタイムを描き出したり、踊ってばかりの国のように時に感情的に毒を吐き出して現実逃避をさせてくれた方がずっと楽なのである。何が皮肉で何が現実かすらわからなくなる『ペーパークラフト』の世界は、無意識的に今の時代を真正面から忠実に表現しているという皮肉に満ち溢れている。そういう意味でも今年を象徴する傑作に違いない。

【Writer】峯大貴(@mine_cism)