最終更新: 2022年1月23日

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BELONG をご覧の皆さんこんにちは。国内の気になるインディバンドをご紹介する本コーナーですが、今回はそうしたバンド以上に(残念ながら悪い意味で) 気になるフレーズを見つけてしまいましたので、ツッコミを入れつつ論じて参 りたいと思います。そのフレーズとは、そうです。“YOUTHWAVE” です。

前号のBELONG にて鳴り物入りで特集された「世界レベルで進行する音楽ジャ ンル」を指す言葉だそうです。曰く「デジタルネイティブなのでインターネッ トや MP3 で音楽を聞くなんて当たり前。だからこそ出会った音楽は全て新しいと捉えるボーダレスな音楽的感性」を持つ人たちとありますが、それは「そ ういう人たち」なので「ジャンル」と呼ぶべきものではなさそうです。

BELONG の用意した “YOUTHWAVE” に関する Q&Aを見ても、回答1では「判断基準は実は曖昧で」とか「ユニークでグッドメロディ」など、ジャンルとして の音楽的な定義がほとんど存在していないことが伺えます。それは当然のこと で、”YOUTHWAVE” という言葉を定義する「デジタルネイティブ」や「ボーダ レスな時代観」というのは作品ではなく、前述の通り、あくまでも制作者側の特性を示すべ き言葉だからです。あえて横文字で呼ぶなら「トライブ」なのです。

にも関わらず、回答 2 では「音が対象なので」と、あくまでも音楽ジャンルと して扱おうとしているため、最終的に「リスナーが YOUTHWAVE と感じれば、 それは YOUTHWAVE なのです」というインチキ教祖のような表現に終始する ことになります。音楽を言語化していくメディアである以上、言葉の選定はしっ かりお願いしたいのです。繰り返しますが、”YOUTHWAVE” は音楽ジャンルではありません。制作者のタイプを指すべき言葉です。

その言葉の由来がメディア発信ではなく、元々あるバンドが “Dark Wave” や “Chill Wave” といった矢鱈に細分化されるジャンルに辟易しつつ、自身の音楽を示すためにへの皮肉としてつけた、ある種の言葉遊びから生まれたものであ ることも、首を傾げざるを得ません。いつの世も、ミュージシャンはメディアが勝手につけた新しいジャンル名を押し付けられることを嫌い続けてきたはず なのに、こともあろうか、メディア自身ではなく、他のバンドが創造したジャ ンル名を拝借したメディアに、押し付けられるなんて、ぞっとしません。

勿論 “YOUTHWAVE” という本来の単語自体の意味や、それを考案したバンドに罪はなく、前号の特 集で紹介されたバンドはいずれも秀でていると思います。それ故、大メディア の真似事のような、ハイプじみた意味のない新しいジャンルを紹介すること に、彼らを利用しないで欲しいです。

とは言え、ジャンルではなくトライブとしての “YOUTHWAVE” であれば、本特 集はより実のあるものになったのではないかと悔しくも思っています。ただし「YouTube が当たり前の存在としてある」から「音楽を時代で分けない」 というのは正直ちょっと疑問というか、それもそうなのですが、例えばレコー ド店に行って、棚を見ると往々にして ABC 順に並んでいます。ビートルズもビースティー・ボーイズもバトルスも同じ B の棚に並ぶ以上、既に年表的な意識を 持たないままアクセスできていたとは言えないでしょうか。

それ以上に、この「YouTube が当たり前の存在としてある」ということは、(もしかしたらあえて 明文化していないのかもしれませんが)「音楽が即座に無料で聞けることが当 たり前としてある」世代と言えるのではないでしょうか。こちらの方がファク ターとして大きいと思います。勿論、全ての若いミュージシャンが一切音楽にお金を使っていないと言うつもりは毛頭ありません。けれど「ディスクガイドや新作のレビューを見て、すぐに、タダで聞くことが できる世代」こそ、BELONG が本来特集したかったであろう、新しいミュージシャンたちの実像に、より迫れたのではないかと思っています。

maniP

加藤マニ(manifilms)
1985年東京生まれ。インディーズ、メジャーを問わずミュージックビデオ等の映像制作、広告デザインやウェブデザインによって口を糊する他、ロックバンドPILLS EMPIREのキーボード兼にぎやかし担当、及びDJやVJ、レビューやエッセイ執筆等のオファーは来るもの拒まず、インディ精神を忘れない、立派な大人を目指して自活中。
HP:http://manifilms.net/
ブログ:http://blog.livedoor.jp/manism/

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