最終更新: 2020年5月16日

栃木県の小さな城下町、那須烏山市出身。3兄弟を含めメンバー5人全員が同じ工場で今も働きながらルーツミュージックに根差したサウンドを鳴らすロックンロールバンド、と言われればそこはかとなく香るアメリカ南部の芳醇なブルースの臭い。ロッキング・オン主催のバンド・コンテスト「RO69 JACK 2012」の入賞経験もあり、長らく正式音源が待たれていたTHE SMITH&WESSON(以下S&W)、初の正式音源が本作である。

ジャック・ホワイトに通ずるモダンガレージなギターにリッキー・リー・ジョーンズやエイミー・ワインハウスの退廃的な空気を持ち合わせる彼らだが、どこか日本的。冒頭「ブラックハット」や「限りなく自由に近く」に見られる日本語のグルーヴを活かすリズムの置き方や田代瑞生(Vo)の声からは上田正樹とサウス・トゥ・サウスを始め、関西ソウル・ブルースバンドの要素が感じられる。また金子マリやシーナを彷彿とするもう一人のボーカル三森優奈(Key,Vo)のハスキーな声はまだハタチそこそこのものとは思えない年輪の深さだ。

本作からは毎日工場で働く中、昼休みに倉庫の隅で作業着のままジャムっている姿が目に浮かぶ。しかしそこには苦労の滲む悲壮感があるわけでも、労働者階級の歌というわけでもない。黒人奴隷の歌としてのブルースの起こりを熟知したうえで、仕事という負荷のある生活の中にある音楽を鳴らすよさを彼らは知っている。それゆえに彼らからはすでにベテランの域に達しているかのような落ち着きと粋な雰囲気が滲み出ている。

若き日本のブルースバンドといえば、同じHelter Skelter RecordsのレーベルメイトThe Foglandsがいる。彼らがジェイク・バグやザ・ストライプスなど洋楽シーンに日本から動きを同じくする存在として打って出るならば、S&Wは日本において長らく空白期間が続いている現代の“ジャパニーズ・ブルース”を定義づけることが出来る存在になるのではないだろうか。

【Writer】峯大貴(@mine_cism)