最終更新: 2022年1月23日


スフィアン・スティーヴンスの新作に対する日本からの回答

ウォッシュト・アウト以降の淡くドリーミーな音響に、レディオヘッドのグルーヴ感、フォー・テットが描く心象風景、ここではないどこか、懐かしい場所を映し出す。もしあなたが幼い頃、サイモン&ガーファンクルのレコードを子守唄代わりに聞かされていたとしたら、tigerMos(タイガーモス)という名古屋のユニットを気に入るかもしれない。帰国子女であり、アメリカン・トラッドをこよなく愛するシンガー・ソングライターのイケダユウスケと、企業のCM音楽も手がけるトラック・メイカー荒木正比呂が出会い、その衝突から生み出された本作は、フォークとエレクトロニカの理想的な結婚だ。

レコーディングは様々な場所、編成で行われたという。ギター、ベース、パーカッション、ドラムのサポート・メンバーと共に地元スタジオで録音した「Brute」は室内交響楽のようだが、八ヶ岳、大自然の中にある“星と虹スタジオ”での2曲「Santamonica」と「Bison」はアーシーで大陸的な音の広がりを感じさせる。一方で「HolyRover」のようにイケダと荒木の二人で自宅録音された曲が閉鎖的かと言えばそうではない。むしろ時空を超えた広がりを感じさせる。レディオヘッド『イディオテック』の彼ら流解釈のような「flaaat」で精神が踊らされ、80年代ニュー・ウェイヴなシンセ音が印象的な「Phone Call」で最後に泣く赤ん坊の声を聴いた時、はるか過去、あるいは未来に行き着いたような不思議な感覚を覚えた。さらにアルバム後半、「tetete」はエレクトロニカによる子守唄のようで、続くバンド編成による「2step」はグランジ期のニール・ヤングからTHE BACK HORNのような日本的な節回しのヴォーカルへ移行していく。本作を通して聴いて、幼児期、少年期の子どもたちのやんちゃな成長を歌っているかのように感じた。実際にイケダは海外メディアbeehypeの取材に応じて“私たちの世代だけでなく次の世代へ向けた作品”だと話している。

ところで、女性シンガーを擁する荒木のもう一つのユニット、レミ街が先日行ったホール・コンサートを観たが、オーケストラ編成でトライバルなビートを打ち出すシティー・ポップに、中学生コーラス隊を伴うミュージカル仕立てで、やはり次世代の子ども達へ夢を託すかのようだった。イケダはそのレミ街でもギターを弾くことがあり、サポート・ミュージシャンも重複する。つまりこの二つは対なのだろう。実際に荒木は“tigerMosでの活動はレミ街の音楽性にも影響を与えた”と語っている。

“男と女”、“自然と人工”、“有機と無機”。荒木の作るトラックを基に音数を増やしていくレミ街に対して、tigerMosはあえて音数を減らし、イケダのあたたかい声とアコギの響きをミニマルなエレクトロニカへ落とし込んでいく。涼しげな川の流れが台風で一転、街を呑み込む濁流となるように、静謐さの中に情念が底流するアンビエント・フォーク。その世界観は、前述のサイモン&ガーファンクルやレディオヘッドよりむしろ、管弦楽による過度な装飾を剥ぎ取り新しいフェイズに入った新作を上梓したスフィアン・スティーヴンスに近い。tigerMosのファースト・アルバムは、彼に対する日本からの回答だと言い切りたい。

文中の発言は筆者によるメールインタビューより。
web http://tigermos.tumblr.com/
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【Writer】Toyokazu Mori (@toyokazu_mori)

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