最終更新: 2022年1月23日


ノスタルジックでとことんゆるく、ちょっぴりファジーでサイケ。シンプルでキャッチー極まりない、国籍不明のようで、実は日本という署名がこっそり入ったメロディーを鳴らす。

“僕はただ君をからかっていただけ(I was only teasing you)”。中世ヨーロッパ風の衣装の少年が、涙にハンカチを濡らす少女の前で啖呵を切っている。草原が広がり、遠くにうっそうとした森。ベック『ステレオパセティック・ソウルマニュレ』 のブックレットにはそんな漫画が描かれている。ベックが自身のルーツ・ミュージックを好き放題詰め込んだアルバムだ。

「見つめないで(Don’t Gazing Me)」と歌う宅録アシッド・フォーク・デュオBoys Ageの新作『Calm Time』からベックと似たスタンスを私は感じた。シンプルでキャッチー極まりない、国籍不明のようで、実は日本という署名がこっそり入ったメロディーを鳴らす彼らは、時代の空気を鋭敏に反映したその音楽性ゆえにジャップ・デマルコと揶揄されたこともあるという。もちろんマック・デマルコの日本版という意味だ。

甘いギター・リフに虫声のようなコーラスと戯れる「Honeypie」を始めMTRと創意工夫で録音された楽曲からは、密室的でどこかスピリチュアルな香りが漂う。特にスロー・テンポのファンク・チューン「Come Quick」はプリンス『パレード』を思わせる世界観だし、続く清涼なインスト・ナンバー「Before/After Party」を挟み、ユニコーン「自転車泥棒」を彷彿とさせるメロディアスな佳曲「Today is a Lucky Day」への流れはたまらない。

全編通してノスタルジックにとことんゆるく、わずかにファジーでサイケ。ホラー・ゲームの実況動画にインスパイアされたというのに、一聴してこの緊張感の無さはどうしたことだろう。しかしよくよく耳を澄まして聴きこめば、ヴォーカルの切迫した息遣いや、迫りくるドラミング、細やかなギター・リフ等から伝わってくる。圧倒的な殺意は時として静かで穏やかなものであるし、絶望的な社会状況に直面してしまったら、僕らはただ歌い、笑い、騒ぐしかないのだと。その観点でもやはり文明の功罪に言及した『モダン・ギルト』を始めとするベックの近作と共振するかもしれない。

ところで、その『モダン・ギルト』がリリースされた2008年、SNOOZERが立てた大胆な仮説によれば、世界各地で同時多発的に発生するインターネット以降の音楽、その先駆者はベックだったというが、『メロウ・ゴールド』において、フォーク、ブルース、カントリー、ファンク、全ての影響元をヒップホップのトラックに突っ込んだ彼の手法も、よりベーシックな部分、時代精神をなんでも貪欲に飲み込み、自身の音楽にしてしまう姿勢といってしまえば普遍的だ。そもそもロック自体に雑多な異種交配から生まれてきた、思春期心性を表す音楽という側面がある。年齢も人種も宗教も関係なく、我々は常に“少年期”(Boys Age)にいる。目をつぶれば浮かぶ永遠の場所。しかしBoys Ageの二人はそこに安住したいわけではないようだ。

様々なスタイルの名曲をさらりと書けてしまう彼らが、より絶対的で固有の“文体”を手に入れてしまったとき、我々は目撃することになるだろう。グラストンベリーのメイン・ステージで夕陽を背に、ザ・スミスよろしく観客をステージに上げて抱き合う、そんな彼らの雄姿を。

【Writer】Toyokazu Mori (@toyokazu_mori)

【Live Event】BELONG Magazine Presents “Make It Scene Vol.1”

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