最終更新: 2020年3月8日

今あるポップミュージックのほとんどがコンピューターで人工的に作られた音でしょ?でもその音楽にはその人工的な音が必要なわけで、今はいろんな音楽があるから、デジタルを否定するわけではなく、その音楽に合った音であればいいんじゃないかな。

アーティスト:キティー Kity(Vo/G)、デイジー(Dr/Vo)、ルイス(G/Piano/Vo) インタビュアー:yabori

−今作は『Kitty, Daisy & Lewis The Third』というタイトルですが、どうしてこのタイトルにしたのでしょうか。
Daisy(以下D): このアルバムのタイトルは、アルバムジャケットのアートワークにインスパイアされてできたの。ジャケットのデザインは王冠をかぶった3人の横顔が写っているんだけど、“the third”という言葉には「3世」という王室をイメージする意味があるし、このアルバムは3枚目だし、私達は3人組だし、あ、いいんじゃない!って感じで決めたの(笑)。

−トランプを思わせる印象的なジャケットですが、このジャケットにはどのような意味を込めているのでしょうか。
Lewis(以下L): iTunes とかネットで音楽を選ぶ時ってアルバムのジャケットがメチャクチャ小ちゃくなっちゃってるでしょ? そこで、なんとか自分達を良く見せる方法はないかって考えて、最初の案はボツになったんだけど、3人並んで横顔で撮ってみたら、あ、これいいね!ってなって。
D: そうそう。ちょうどiTunes とかのジャケット写真のサイズが切手ぐらいで、イギリスの切手といえば女王の横顔が描かれているものが有名だから、私達も王冠をかぶって…。そしたらとってもいいアートワークになったの!

−では、ジャケットには特別な意味は・・・?
全員: うーん、特にないかな(笑)

−今作は元クラッシュのミック・ジョーンズがプロデューサーを担当したようですね。彼とのレコーディングはいかがでしたか?
KItty(以下K): 最高だったわ!レコーディングする前に、5ヶ月ぐらい一緒にリハーサルをしたんだけど、ミックがいることで今までとは違うアイディアが生まれるしね!これまで私達3人と父と母の5人でやっていたんだけど、そうすると意見の食い違いがけっこうあって、それがストレスになったりしてたの。でも彼が加わってくれたことで、とても良い雰囲気になったし、音楽を生み出す良い環境を作ってくれた。そういう意味でもとっても良かったわ。
D: ミックは自分の考えを押しつけることは決してしなくて、「無理に変えることはしなくていい、君達のスタイルでやり続ければいいんだよ」って言ってくれたの。
L: そう、ポジティブなエネルギーをくれたよね。

−自分達のスタイルは変えていないけれど、ミック・ジョーンズの存在は大きかったんですね?
D: うん、そう。このアルバムは新しいスタジオでレコーディングしたんだけど、アルバム制作にあたって、すでにできている曲がたくさんあったの。その曲達をこれまでとは違う、さらに進化したものにしたかった。そのためにはプロデューサーが必要だってことになって…。
K: もし、ああしろこうしろと、いろいろ言うプロデューサーだったら絶対にうまくいってなかった。私達の音楽を理解してくれて、楽しみながらできる人、一緒にいて心地よい人じゃなきゃ良いものは作れないよね。だから、ミックとのレコーディングは最高だったわ。

−古い建物を改装して、アナログ・スタジオを建てたそうですね。しかもそのスタジオは古いインディアン・レストランだとか。どうしてここに新しくスタジオを作ろうと思ったのでしょうか。
K: 私達はずっとロンドンのカムデンという街に住んでいて、そのインディアン・レストランもカムデンにあって両親もよく行っていたの。閉店してからは何年もそのままになっていたんだけど、とっても素敵な古い建物だから実はずっと目をつけてて(笑)。それで、ある日その建物がオークションに出されたので真っ先に飛びついたのよ。でも15年も放置されていたから、すごい状況になっていて。まず掃除しなきゃいけないし、スタジオにするにはとても大がかりなプロジェクトだったわ。でも作業が終わって、以前よりずっと広いスタジオになってみんな満足してるの。
L: それにニューアルバムは今までよりも、もっと厚みのあるサウンドにしたかったから、いろんな楽器を演奏するスペースもいるし、より大きなスタジオが必要だったんだ。これまでのアルバム2作品は、母親の家の小さな空き部屋でレコーディングしたから、それが伝わる音になっているよね。
K: 新しいスタジオは古い建物だから歴史を感じるし、そういう趣のある雰囲気の中レコーディングできるっていうのは、なんかいいよね。

2015/4/24 (Fri) Shibuya CLUB QUATTRO 、Photograph by Ishida Masataka
2015/4/24 (Fri) Shibuya CLUB QUATTRO 、Photograph by Ishida Masataka

−そのスタジオでは、16トラック録音のテープ・マシーンを使用しているようですが、それを使ってどのようなことに挑戦したのでしょうか。
L: これまでは8トラックだったものが倍の16トラックになったわけだから、いろんなことができるようになったよ。ストリングスの音を重ねてより厚みをもたせたりとかね。
D: あとバックコーラスね。以前は8トラックだったから、なかなか厚みのあるハーモニーって作れなかったけどできるようになった。
K: そう、今はコーラスをどんどん重ねることができるものね。
L: レコーディングの仕方も変わったよ。それぞれのパートが別々に録音できるようになったから、ドラムの音だけ残して、あと全部変えたりとか、またさらに音を重ねたりとか、これまでできなかったことができるようになって、より厚みのあるサウンドが作れるようになったんだ。
K: そう、だから、よりクリアなサウンドになってるの。以前は同時に演奏して録音していたけど、別々に録音できるようになって音が混ざることがなくなったから。

−今回のアルバムはドラムの音が素晴らしいと思います。音作りにはこだわりを持っていると思いますが、音作りではどのような部分を工夫されたのでしょうか。
K: ドラムはまず最初に録音したんだけど、一番時間をかけたわ。いろんなマイクを試してみたり、ドラムを置く位置をいろいろ変えてみたり・・・。例えば、天窓があるところにドラムを置いて音の響き方を試したりね。あと、スティービー・ワンダーのアルバム『Talking Book』もよく聴いたわ。私は、あのアルバムのドラムの音は世界一だと思っているから、どうやったらあんな音がクリアに出せるんだろうって何度も聴いた。

L: 僕達は3人ともドラムを叩くから、それぞれの持ち味やスタイルが合って、それが曲に合っていることも大事だよね。だから固定せず、曲によってそれぞれの楽器を交替しながら演奏するスタイルを取っているんだ。

−コーラスやストリングスが入って、音のレイヤーが前にも増して厚みがあると思います。これは前から温めていたアイデアを16トラックで実践してみた感じなのでしょうか。
L: そうだね。以前からもっと厚みのあるサウンドにしたいって思いがあったから。「新しく16トラックを手に入れたから、じゃあこういうサウンドを作ってみよう」っていうのではなくて、あくまで音楽が先。温めてきた音楽に必要だったから、16トラックを取り入れたんだ。

−他のインタビューではアナログ録音にこだわる理由について、デジタルで録音した場合はたまに失われてしまうフィーリングがあるとおっしゃってましたが、このフィーリングとはどのようなものか詳しく教えてください。
L: アナログ録音の場合、そのレコーディングの空気感みたいなものが伝わるよね。
D: そうね、実際演奏した音により近いというか・・・。
K: 今あるポップミュージックのほとんどがコンピューターで人工的に作られた音でしょ?でもその音楽にはその人工的な音が必要なわけで、今はいろんな音楽があるから、デジタルを否定するわけではなく、その音楽に合った音であればいいんじゃないかな。

−今年のFUJI ROCK FESTIVALに出演されますね。5年前にも出演されたことがあったと思いますが、その時の思い出について教えてください。
D: FUJI ROCKに出演するのは初めてだったんだけど最高だったわ!日本のオーディエンスは、みんな本当に音楽を楽しんでいて、ハッピーなオーラでいっぱいで最高だと思う。
K: そう、それに、みんなリズム感がいいの!手拍子してもちゃんとリズムがぴったり合ってるし。いろんなところでライブをしてるけど、手拍子がバラバラで合わない時もけっこうあるし、世界で一番リズム感がいいオーディエンスなんじゃないかな(笑)。
L: あとフェスと言えば、初めて来日した時に出演した朝霧JAMも最高に楽しかったよ。演奏しながらステージから富士山が見れたしね。
D: あの時は雨が降っていたんだけど、私達がステージに立ったら太陽が出てきて、良い天気になったんだよね。最高だった。

−FUJI ROCK FESTIVALの魅力について教えてください。
K: なんと言ってもいい音楽がいっぱい聴けるとこかな。前回、ちょっと会場を歩いてみたんだけど、みんなとてもハッピーでフレンドリーで、すごく良い雰囲気だったわ。
L: あと会場がキレイだよね。
K: そう!イギリスのフェスとか本当に汚いけど(笑)、FUJI ROCKはゴミも落ちてなくてキレイだったわ。

−BELONGには、“Roots Rock Media”というコンセプトがあるので、KITTY,DAISY & LEWISのルーツに当たるアルバムについて3枚教えて欲しいです。またその3枚はどのような部分であなた方の音楽とつながっていますか?
K: そうね、まず1枚目はインストゥルメンタルなんだけど、ベルト・ケンプフェルトの『Swinging Safari』。

D: ベルト・ケンプフェルトはドイツの作曲家で、このアルバムは両親がよく聴いていて、私が小さい頃、曲に合わせてベッドの上で踊ったりしてたの(笑)。どの曲もメロディーが素晴らしくて、ハッピーな気持ちにさせてくれるの。
L: たしか僕らのおじさんが60年代に買ったアルバムで、それを父親が気に入って聴いていて、それで僕らも聴くようになったんだよね。
D: 私達の2枚目のアルバム『Smoking in Heaven』の中に、ルイスが作った「I’m Coming Home」って曲があるんだけど、ベルト・ケンプフェルトのスウィングをこの曲に取り入れたくって、レコーディング前のリハーサルで練習したわ。

L: そうそう、あのベースのサウンドを再現したかったんだよね。
D: そして私達のルーツに当たるアルバムの2枚目は、The Velvet Undergroundの『The Velvet Underground and Nico』。家族で旅行する時、母親がいつも車で聴く音楽を買っていたんだけど、その一つがこのアルバムだった。だから、旅行する時のドライブミュージックとしてよく聴いていたわ。とにかく大好きなアルバム。私が9才か10才頃、車でよく聴いていたから、ルイスやキティーはもっと小さかったわよね(笑)。

L: 3枚目は、T・REXの『The Slider』。T・REXも母親が好きでよく聴いていたんだ。僕達も好きで本当によく聴いてたから、僕らの音楽に大きな影響を与えてることはまちがいないし、それが色濃く出てる曲も多いと思うよ。

−最後に今回のアルバムはどのような人に聴いてほしいと思いますか?
全員: みんなに聴いてほしいわ!
K: メロディーやサウンドで何かを感じてもらえると思うし、歌詞に関しても、どの人も共感してもらえる部分があると思うから、とにかくいろんな人に聴いてもらいたいわ。

◆来日公演◆
FUJI ROCK FESTIVAL’15(2015年7月24日(金)、25日(土)、26日(日))
※KITTY,DAISY & LEWISは7月24日(金)に出演!

『Kitty, Daisy & Lewis The Third』