最終更新: 2020年5月16日

ジェイク・ワンとのユニット、Tuxedoでここ日本でも確かな人気を獲得したメイヤー・ホーソーンのライブレポートをお届け。

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 台風7号直撃の予報が出た8月16日。傘も刺せぬほど風も強く、嵐の中辿り着いたビルボードライブ東京。ずぶ濡れた体で開始15分前に到着し、会場を見回すとラグジュアリーな様相に身を包んだ20~30代の女性二人や、カップルを中心に比較的若い客層がお酒を楽しみながら開演を待っている。さっきまで天候に恵まれなかった野外フェスの気分がようやく極上のソウル・サウンドをじっくり堪能する方により戻された。昨年のJake Oneとのディスコ・ファンク・ユニット、Tuxedoが時流にマッチし予想を超えたブレイクを経たことによる期待もある。またTuxedoブレイク以前はどちらかと言えばブルーアイド・ソウルに軸足を置いたソウルであったが、続く今年のソロに戻っての最新作『Man About Town』はTuxedoの余韻を引き継ぐとことんメロウなディスコ・ポップ・サウンドに仕上がり、現代のソウル・スターであることを背負う覚悟の見えた作品であった。

 そんな中での来日公演。登場したホーソーンは中央のテーブルに置かれたウィスキーグラスに口を付け、『Man About Town』からフィリーソウルナンバー「Breakfast In Bed」にて開演した。Tuxedoバンドでも参加していたChristian Wunderlich(G)、Joe Abrams(Ba)、 Quentin Joseph(Dr)、ホーンサウンドも担うTyler Cash(Key)とタイトな編成の中で、ゴージャスな彩りを加えるのは紅一点のJimi Jamesによるコーラスだ。過度にグルーヴが重たくなりすぎないアーバンかつカジュアルなホーソーンのソウル・スタイルの表現において若く瑞々しいJimiの声は重要なスパイスを担っていた。全キャリアから満遍なく演奏される惜しみない選曲にはイントロがなる度に歓声と拍手が上がるが、「Crime」のラストで一斉にバックを向いてフィニッシュをキメたり、「I Wish It Would Rain」ではコーラス部分で手を突き出しひらひら降ろしていくモーションなど、動きの揃った振り付けを入れている箇所も多く、エンタテインメントとして隙が無い。

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 そんなうっとりしている間に象徴的なイントロが飛び込んできた、Tuxedoの「Do It」だ。メンバーの見せ場となるソロも入りつつ盛り上がりのピークかと思いきや、ここでは終わらない。続けざまにホーソーンが弾いたフレーズはAerosmithの「Walk This Way」。誰もが一発でわかる意外な選曲に驚きつつ、その勢いのままに「The Walk」に流れ込む。なるほど“Walk”でかけたホーソーンもしてやったり顔のメドレー。本編ラストは「Love Like That」。ここでステージ後方のカーテンが開くと、夜景も見えぬほどさらに勢いを増す台風。ガラスにあたる土砂降りの雨粒が、会場の証明に照らされる。しかしそれが本曲のサスペンスチックなムードに絶妙にマッチし、最悪な天候が最高のステージを演出した。

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 アンコールはTears For Fearsのカバー「Everybody wants to rule the world」。合唱必至のマスターチューンであり、A.O.Rの爽やかにループするギターとシンセフレーズはホーソーンが去った後もいつまでも余韻が残る曲として絶妙の選曲で幕を下ろした。今まさにエンターテイナーとして脂が乗り切った状態であることを感じさせるステージであった。

【Writer】峯大貴(@mine_cism)

【撮影】Masanori Naruse