最終更新: 2020年3月19日



テキスト:pikumin 撮影:Bunta Igarashi
全4公演に渡り繰り広げた「”首” tour OCT 2018」。最後を飾るのは、10月22日、京都・磔磔。築101年ならではの趣深いつくりと緑あふれる内装で、その独特な雰囲気は多くのミュージシャンを虜にしてきた。追悼の意を込めて小林が選曲したというエリオット・スミスが流れ続けるフロアは、会場後方までぎっしりの詰まるほどの賑い様だ。
「自分たちで、素晴らしいと思える確かなものを実現させる。」自らが見たいと思うアーティストを招き、豪華な面々で熱い夜を刻んできた“首”。ツアーラストは、ワンマン公演。今夜、閑静な住宅地の一角が、世界一アツい場所となる。命を燃やし、魂を鳴らす。耽美なロックと共に。
場内が暗くなると、THE NOVEMBERSのメンバーはステージ後方の階段から姿を現し、拍手で迎える観客の隣を通ってステージへと向かう。揃ったところで、「終わらない境界」から今宵は幕を明けた。
あたたかなアルペジオから、奥行きあるバンド・アンサンブルへと壮大に展開していく中、小林は目を閉じ、穏やかな顔つきで伸び伸びと歌っている。
「エメラルド」「Romancé」と、静かなナンバーが続く。ステージ背後にある緑のツタと青緑の照明が相まって、ライヴハウスにいながら大自然の中に揺れる彼らを見ているような錯覚を覚える。水の流れに身を任せながら、ゆったりと弦を鳴らし、軽やかに叩く。まるでMVを見ているような光景だと思った。一息空く間もなく「出る傷を探す血」へ繋ぐと、THE NOVEMBERSならではのノイジーなダークサウンドへシフトチェンジ。高松のスラップベースに鼓動が跳ね、オーディエンスは身体を揺らしはじめる。吉木の叩き出す音がひとつずつ重くなるたびに、どんどん加速していく。全体の音がよりヘヴィーに、より肉厚を増していく。重たくなればなるほど、歪めば歪むほど心地よさが芽生える。それがTHE NOVEMBERSの進化する魅力だ。

今夜のライヴでは、THE NOVEMBERSの“静”と“動”が一体化していた。極端な二面性という印象が強い彼らだが、両曲が並んでも音や空気は一切揺らがず、途絶えない。続く「1000年」「Sturm und Drang」と、歪んだ鉄の音が疾走感とともに駆け巡っては叫び散るのに、凶暴なノイズはゆっくりと不穏な空気に変わり、艶やかに蠢き「Cradle」へ生まれ変わる。本編全15曲を通して、起承転結はあるものの、すべてが同じ脳を持ち、ぴったりと繋がっているのだ。
また、場内が轟音で埋め尽くされた時にだけ感じられる美しさが、ふっと浮かび上がってくる瞬間がたまらない。「Journey」や「彼岸で散る青」など、轟音で満ちる時間は、My Bloody Valentineの「You Made Me Realise」に見られるような濃密なノイズピットを彷彿させ、その空間すべてがノイズ一色になるのだ。地面も壁も轟音に揺れ、耳が麻痺したように熱くなる。そして歪みの波を掻き分けて、煌びやかな音やハイトーンの音だけがすっと浮かび上がる。余分な歪みや濁りのないノイズを求めたゆえ、辿りつく真の美だ。
また、ケンゴマツモトの手数が著しく増えたのも印象深い。錆びた音に色気あるフレーズを鳴らすというスパイスが彼らしさではあるが、「ひとつにならずに」ではノイズモンスターと化し、足元にしゃがみ込んで機材を忙しなくいじり、多彩なノイズを作り出す。彼の産物によってより凶暴で邪悪になり、想像しえない姿へ進化していくのだ。

「鉄の夢」がはじまると、場内は今夜一番の盛り上がりを見せた。
メンバーのテンションもさらにあがり、ラウドな叫びと共に全員が大きく体をしならせ爆音を繰り出していた。特に、高松が長い髪を振り乱しながら全身で弾く姿には目を奪われた。一曲目からフロアを何度も見ては、場内の空気をまるごと楽しんでいたのだろう。一見クールに見える高松が、今日はとても情熱に溢れたプレイを見せていた。
身体を射抜くような鋭利でヘヴィーなバンド・アンサンブルと小林の迫力あるシャウトに歓声があがる。拍手喝采の中、Suicideのカバー「Ghost Rider」「Xeno」「黒い虹」と、立て続けにラウドで激しいナンバーを披露し、ラストスパートをかける。
「改めて、今日は集まってくれてありがとう。」小林は“首”に携わったアーティストへ感謝を述べ、今夜唯一のMCを挟んだあと「いこうよ」で本編を締める。同じフレーズを奏でるベースがすべてを支え、ギターとドラムが華やかに盛り上げるフィナーレは、轟音が重なるたびに違う景色に変わっていく。重なりひとつでまだまだ音楽は生まれるのだと言うように、高らかに響き渡っていた。

一度ステージを去ったあと、鳴り止まないアンコールに応えて再び登場し、「Gilmore guilt more」を披露。不穏なグルーヴと目が眩むほどの爆音に、オーディエンスは圧倒されながらも歓声を上げる。本来はここで終了の予定だったが、ライヴハウス営業終了までの残り15分を前に、「ギリギリですけど、もう一曲やります。」と小林は言う。「またいい顔で、いい未来で会いましょう。」その言葉とともに、「今日も生きたね」を披露。轟音を出し尽くしたあとの、きれいな音と柔らかな歌声。優しい照明に包まれ、穏やかな顔つきで奏でるメンバー。その光景は、あまりに美しく誰もが見惚れていた。最後は彼らの本質である“静かな情緒”を代表する楽曲で締めくくり、「”首” tour OCT 2018」は終焉を迎えた。

“首”2daysの前にはGEZAN主催の“全感覚祭”にも出演した彼ら。このイベントを経て小林は、自分と違う他人がいることの面白さを学んだという。
「僕らとGEZANはどこまでも違うままなんですよね。でも、“これが自分なんだ”って思ってやってきた結果、学んだものを持ち寄って同じ場所にいる。これが本当のオルタナティヴだなって思います。」
自分とは違う存在とひとつにならずにいたから、彼らは今も変化し続けている。
“首”を通して、自身が思う素晴らしいと思う人たちを招き、良い刺激を受けて自分に反映させる。良いと思うものから良い影響を受けることが、彼らの進化を促しているのだ。
この企画は彼らの自己満足であるからこそ、誰もが認める“素晴らしい夜”となる。だからこそ、私達観客も、自信を持って「今夜はここが、世界で一番アツい場所だ」と断言できるのだ。


【Set List】
2018年10月23日(火)@京都磔磔
1. 終わらない境界
2. エメラルド
3. Romancé
4.出る傷を探す血
5. 1000年
6. Sturm und Drang
7. Journey
8. Cradle(L’Arc-en-Ciel cover)
9. ひとつにならずに
10. 彼岸で散る青
11. 鉄の夢
12. Ghost Rider(Suicide cover)
13. Xeno
14. 黒い虹
15. いこうよ
En1.Gilmore guilt more
En2.今日も生きたね
【Live】
・2018/11/11(Sun)@恵比寿LIQUIDROOM
November Spawned A Monster(ONEMAN GIG)
・2018/12/7(Fri)@品川教会グローリアチャペル
「HOLY」THE NOVEMBERS Live at Shinagawa Gloria Chapel