最終更新: 2020年6月7日



テキスト:pikumin 撮影:Bunta Igarashi

11月7日、心斎橋CONPASSにて行われたWOMAN presents “Soul #3”。
魂を売ることなく音楽を鳴らす人を招き、切磋琢磨しようと銘打ったこの自主企画は、夏にsébuhirokoを招いた “Soul#2”に続き、早くも3回目を迎えた。
今夜の注目のゲストは、2年2ヵ月ぶりの来阪となるオルタナティヴバンド・ROTH BART BARON。この日は彼らの新作アルバム『HEX』のリリース日だった。新作を引っ提げ、勢いに乗るROTH BART BARONとの共演を、予てから心待ちしていたというWOMANも負けてはいない。Spotify主催の「Early Noise Night」への出演や、YOUNG DREAMSのジャパンツアーと台北公演に同行し、初の海外公演を経験するなど、夏以降もさらに活動の幅を広げ、多くの経験を積んできた。
多重なアナログ・サウンドと電子的エッセンスで壮大なサウンド・スケープを創るROTH BART BARONと、デジタルを駆使したエレクトロ・ミュージックに生音で斬り込むWOMAN。両者がアナログとデジタルの垣根を越えて、オルタナティヴな魂を共鳴させた“Soul #3”をレポートしたいと思う。

キーボードから地面を伝い、アンプ、バスドラへと飾り付けられたイルミネーションライトが、暗がりのステージをしっぽりと照らしている。
今夜のROTH BART BARONは、都合により三船雅也(Vo./Gt.)と中原鉄也(Dr.)と西池達也(Key.)の3人体制でライブに挑む。
定刻を回り、メンバーはライトの電線を潜り抜けて登場。三船がアコースティックギターを静かに肩にかけると勢いよくストロークを鳴らし、一曲目「JUMP」が始まった。暗闇に朝の訪れを告げるように、三船の清らかなハイトーンが響き渡ると、場内がじんわりと温められてゆく。
本日は新譜『HEX』の楽曲を中心としたセットリスト。ROTH BART BARONのシンボルといえば、管楽器をはじめとした多彩なアナログ・サウンドを重ねる壮大なスケールと、エレクトロ・サウンドをエッセンスに創り上げる幽玄な音像美である。シガー・ロスを引き合いに出されるのも頷けるだろう。新譜ではよりポップなメロディラインが増え、曲ごとの異なる世界観がより強く浮かび上がるようになった印象が伺える。
そんな華やかな楽曲たちを、今宵は3つの楽器だけで演奏する特別仕様だ。手数は極シンプルに。ストレートなアプローチに的を絞った彼らのパフォーマンスは、よりバンドらしくエネルギッシュなプレイを見せた。

まずはすべてに彩を描くフロントマン・三船。身体を左右に揺らして、マイクに向かって熱く歌う姿は、街角で自由のままに歌うストリートミュージシャンを彷彿とさせるようなエネルギッシュな印象だった。しかし、持ち前の耽美なファルセットは、まるで賛美歌を歌っているかの如く美しく響き、時には消え入るような儚げに揺れる。汗を滲ませながらストロークを掻き鳴らしながら、繊細な声色使いで楽曲に花を咲かせる。
そして、中原のドラミング。和太鼓を叩くようにしなやかなスナップを効かせつつも、反動を許さないように力強く落とすため、とびきり重たく分厚いアタック音が場内を駆け巡る。大地から湧き上がるエネルギーのような底知れぬ力強さを漂わせ、彼らの音楽の礎となり、3人という少人数の演奏に迫力をもたらしている。
サポートである西池のキーボードさばきは多彩で、穏やかな伴奏からサイケデリズムに歪むシンセサウンド、はたまたベース・フレーズに至るまで、あらゆる音をカバーし、多様に変化しつつ、すべての楽曲の支えとなっていた。
メンバーはアイコンタクトを積極的に取っては小さな呼吸までも合わせ、音の反応を楽しみながら、音楽に宿る命の炎を燃え上がらせていった。それに合わせ、オーディエンスからは歓声と大きな拍手が飛び交った。旅人が集い、船上でギターを弾き、村人が燃え上がる火を囲み、自然の命をに包まれながら愉快に踊る。そんな一夜の特別な祭りを見ているかのような、楽しみが溢れる光景だった。

三船は曲の間に「2年も待たせてごめんね。WOMAN、呼んでくれてありがとう。」と、さらりと挨拶をし、立て続けに躍動感に満ちた4曲を披露。アカペラでしっとりと聴かせる「Skiffle Song」の弾き語りスタイルから、指パッチンをイントロに新譜のタイトルナンバー「HEX」がはじまると、全体の照明が消え、再びイルミネーションライトだけが光り出した。光を灯すような鍵盤の音色に合わせ、言葉を添えるように三船の清らかな歌声が紡がれていくと共に、観客はステージを見入る。軽やかに飛ぶように、でも勢い良く地面を駆けるようなたくましさもある。原曲の涙を誘う多幸感に満ちた音像に力強さを感じるパフォーマンスは、今夜一のハイライトだった。

その後、一度中原がステージを去り、ギターボーカルとキーボードのみで「Hollow」、「HAL」を披露。繊細なギターアルペジオと伴奏のみを背景に、詩的な歌詞の世界観が際立たせるよう、三船は自らの吐息や呟くような小さな声までも巧みに使いながら、しっとりと聴かせた。最後に「死ぬまでワクワクしたいわ」と、原曲にはないフレーズを添えて、アコースティック・タイムを締めくくった。
再び中原がステージに戻り、3人で後半を駆け抜ける。
リズミカルで華やかな「GREAT ESCAPE」、蛇行するメロディでムーディーな空気を漂わせる「SPEAK SILENCE」、重厚な音で祭りのフィナーレを飾る「dying for」と続き、最後は全員が汗を拭き飛ばしながら全力で「化け物山と合唱団」を披露。三船がギターを掲げるのに合わせて観客は手を挙げて応える。最後は場内が一体となって、晴れやかな躍動感に身を任せて楽しんでいる。高らかに伸びる三船のファルセットが消え行ったところで、大きな拍手が巻き起こり、ライヴは終了。「まるで自分のレコ発のように楽しんでいるよ」と朗らかに話した三船の言葉通り、3人とも楽しげな顔つきでステージを後にした。

【Set List】
2018年11月7日(水)@心斎橋CONPASS
1 JUMP
2 Demian
3 Innocence
4 Skiffle Song
5 HEX
6 Hollow
7 HAL
8 GREAT ESCAPE
9 SPEAK SILENCE
10 dying for
11 化け物山と合唱団