最終更新: 2019年8月13日


とびっきりライトでメロウなサウンドの中に泥臭いグルーヴィーなギターカッティング、ドラマチックな構成、そりゃシティポップとも言われるだろう。フォークロック的なバンドアンサンブルにサイケデリックなフレーバーが香り、独特の耳に残る声からは踊ってばかりの国やらフィッシュマンズともそりゃ並び称されるだろう。

しかしこんなにサイケで夢見心地なサウンドにまみれているにも関わらず、Yogee New Waves(ヨギー・ニュー・ウェーブス)待望の1stアルバムである本作の中には、風街のような幻想的な世界やロマンも、永井博や鈴木英人のようなトロピカルな要素も、細野晴臣の文字通り『はらいそ』が描いたエギゾチックな天国の風景も皆無だ。彼らの音からはあらゆるものが標準化されたオフィスビルが立ち並ぶ、西新宿の臭いがするのである。都庁のお膝元でビジネスマンの巣窟、全国からは深夜バスが往来。『PARAISO』(=楽園)とは対極にあるような無機質な現代人の“戦う場所”だ。しかし彼らはそんな土地から生まれたバンド。ここの水でしか生きられないという自分たちの環境を重々承知しながら、2014年に東京で音楽を鳴らすという行為を真正面から捉えようとしている。

「Climax Night」、「Hello Ethiopia」、「Earth」、「Dreamin Boy」…と“夜”や“夢”について描かれた陶酔的な楽曲が並ぶが、その奥には朝となり目が覚めいつもの一日が始まるという現実が常にちらついている。かつて新宿に集結した70年代のヒッピーのようにははみ出しきれない、今の若者の将来を案ずる不安とこれまでの後悔が常にある。だからこそ“今夜だけは踊らせて”と束の間の安息の場所としての楽園を彼らは音楽で作り出そうとしている。

煌びやかに日常を描けば描くほどデカダンに響くのは現代の東京の若者のリアルが忠実に描かれ、また現状を変えようとしている証拠だ。cero以降乱用される「シティポップ」の語彙の変容を体現し、再定義するような重要な一枚である。(峯 大貴)