最終更新: 2014年12月31日
10.Teen Runnings『NOW』
2013年にはSXSWにも出演を果たしている3人組バンドによる2nd。永井博によるジャケですっかりジャンクフジヤマ的な…とこわごわ聴いてみれば、爽やかな80’sギターポップでびっくり。チャカポコ打ち込みサウンドやわざとらしいリヴァーブの効いたスネアに“節操のなさ”を感じていたのですが、聴き続けていると「何でもできるよ!だって若者だもの」という威勢の良いメッセージを受け取り、無条件に楽しくなって下半期愛聴していた。東京拠点であるがThe fin.・HAPPYや、THE FULL TEENZの生き埋めレコーズの面々とも共鳴しそうな“何でもあり”な感じがさらに今後も期待できる。
9.古川麦『far/close』
ceroのサポートメンバーにも名を連ねる表現のメンバーによるソロ1st。Special Favorite Musicや王舟など良質チェンバーポップが豊作であった本年(くるりの『THE PIRE』も含めることが出来るだろう)。一つ挙げるとすれば最も多国籍な音楽をとりながら、あくまでSSWの作品としてまとめ上げた本作か。ボサノヴァやカントリーウエスタンの息吹を吹き込み、細野晴臣のトロピカルなサウンド構成も見られるが、聴いていると常に雪がちらついている光景が見えるのが何とも彼らしい。
8.クレイジーケンバンド『SPARK PLUG』
彼らの持ち味の一つであった昭和歌謡や中華アジアンテイストの部分がそぎ落とされ、ひたすらソウルファンク・メロウに振り切ることで、奇しくも前述のPPPの面々を始め今の若手ミュージシャンからリスペクトを集めている部分が押し出される形となった15th。「ハートブレイクBBQ」、「あせだく」、「モータータウン・ストリート」などポップスメーカーとしての横山剣の手腕が堪能できる楽曲が多く“日本のアイズレーブラザーズ”というフレーズが頭に何度も浮かびました。
7.JINTANA&EMERALDS『Destiny』
一十三十一や、BTBらPAN PACIFIC PLAYAの他の作品も素晴らしかったが今年はやはりこれ。PPP所属のJINTANAとKashif を中心に(((さらうんど))))のDJ CRYSTAL、一十三十一が参加し、LUVRAW & BTBもゲストとしてクレジット。現代日本ポップスのマエストロ的人材が集結したような本作。フィル・スペクターサウンドにビーチ・ボーイズ、山下達郎やクレイジーケンバンドなど、天候も人生にも一点の曇りもない日のサンセットからナイトタイムを表現したエヴァーグリーンなリア充ポップス。大瀧詠一が聴いたらなんていうのだろうなぁ。
6.シャムキャッツ『AFTER HOURS』
なんだかやる気が出ないのは世知辛いせいだと他に押し付ける思考に慣れてしまったな、何とかしないといけないなぁと蒲団の中で丸まる若者の歌。しかし楽しいことは大好きで、もう少し仕事のことは忘れさせてと、ただただ恋人を愛することに没頭する若者の歌。欲望を丸出しにしながら、不平不満を言いながら、それでも現状を打開したいと思っている若者は恐らく半数以上だろう。ベースを軸にしたグルーヴはよりマッチョになり、夏目知幸(Vo,G)のボーカルはより生意気に愛おしい。「HOTEL」、「AFTER HOURS」は2014年における“青春”を定義づけたラブソングとなった。
5.ソウル・フラワー・ユニオン『UNDERGROUND RAILROAD』
結成20周年を超え、メンバーチェンジなど新たなフェーズに入ったSFU。久々のアルバムはニューエスト・モデル時代を彷彿する、やんちゃなサイケデリック・ファンクが軸。しかし原点回帰ではなく、中川敬の中にある音楽を2014年のものとして再解釈し表現されているので、その引き出しの多さに相変わらず新鮮さを感じさせる。議員におちおち任せられない政治の中で、音楽は社会・世間の上に成り立っているということを常に思い起させる、人としてのあるべき姿・生活・娯楽の全てがここに詰まっている気がしてならない。
4.北園みなみ『promenade』
2012年よりSoundCloud上で話題となっていた24歳男性宅録ミュージシャンの1stミニ。Lampやtofubeatsが絶賛しているそのメロディセンス、音の構成の巧みさは冒頭「ソフトポップ」のイントロを聴いただけでも明らか。A.O.R・ブラコン・ファンクと言えばcero、宅録と言えばtofubeatsを浮かべる昨今。しかし彼はそれをハイブリッドした上で、目まぐるしく転調を使いながらまるでディズニー映画に飛び込んだような物語性を楽曲の中に織り交ぜ、耳馴染みの良いポップスに着地させている器用さったら。鈴木茂『BAND WAGON』、佐藤博『Awakening』に並ぶ、日本が世界に誇るポップマスターアルバム。
3.本日休演『本日休演』
京都大学在学中の5人組バンド。近年全国的に注目を集めるようになった京都シーンの中でも、ようやく純血の京都バンドが出てきたという衝撃の点では今年一番だ。くるり~ボ・ガンボスときて、行きつくルーツはフォーク・クルセダースのニヒルな遊び心とアイデアの巧みさが45年の時を経て思い起こされた。それだけではなくフリーソウル・童謡・民謡を通過したと見られるサウンドがそっけなくも器用に織り交ぜられている末恐ろしさ。2010年代の京都を代表するバンドになるとの期待を込めて。
2.Especia『GUSTO』
大阪堀江を拠点とする6人組アイドル。2年前の結成時から一貫した80’sブラコン・ディスコサウンドは全世界的なシティポップ・A.O.R回帰の時代に対して偶発的に合致。シンデレラストーリーorストイックなドキュメンタリー性が重要視されるアイドルブームの中では意外と異色と言える、「常に自分達の数歩前を行くアーバンな楽曲」とそれに食らいつくグレートアマチュアリズムによって生まれた日本アイドルソング史に刻まれる大名盤。杉本暁音の脱退とメジャーデビュー発表により来年は新たな立ち位置での表現を求められるため、この体制でのアルバムが本作一枚のみとなったこともあり、まさに2014年の彼女たちにしか生み出せない作品となった。
1.AZUMI『夜なし』
関西重鎮ブルースシンガーによる2枚組。近年彼が取り組んでいる河内音頭・浪曲やライブの定番曲を収録した、彼の入門編として相応しい一枚。作中に登場するあべのぼる、実父含め、藤井裕に送るレクイエム。遠藤ミチロウの復活を祝う歌、木村充揮の復活を願う歌。いやでも病・命について考えざるを得ない時代に、彼の歌はまるでイタコのように魂に火をくべ、時に沈めさせるような魅力がある。今年上京一年目の筆者にとっては帰省から、東京へ戻る深夜バスに乗り込み、本作を聴いては涙しておりました。
<総評>私が参加しているもう一つのサイトki-ft(http://ki-ft.com/)にもベストとして3作品選びましたので、そちらは除いております。総評もそちらに任せますが、ki-ft+BELONG併せて13作品が私のベストなんだなと思っていただけると幸いです。その他cero「Orphans」、平賀さち枝とホームカミングス「白い光の朝に」、Awesome City Club 「children」、清竜人25「Will♡You♡Marry♡Me?」、Lucky Tapes『Peace And Magic』、Manners『Facies』などに2014年を彩っていただきました。東京に拠点を移しながらも関西を忘れず、2015年はより精力的に音楽評論取り組んでいければと思います。2014年に出会った全ての方に感謝。