最終更新: 2015年2月8日
パワフルでソリッド、且つ統一感がとれた素晴らしいロックンロールアルバムだ。
俺たちのカールバラーが帰ってきた!
2ビートのザクザクしたギターとシャウトで、ロックンロールに染め上げてくれる先行シングル曲「Glory Days」(最高!)で幕を開け、「来るぞ、来るぞ」という余韻を一気に解放してくれる爽快な展開のアンセム曲「Summer In The Trenches」(最高!!)を流し、前ソロ作の世界をストレッチさせたような美メロなアコースティック曲「Beginning To See](最高!)、え?本当にカールの曲?と思わせる西海岸的なメロディック・パンク・ナンバー「The Gears」(驚き!)でまた上げておいて、最後は壮大な展開と震え立つようなジャッカルズ達のバックコーラスが一層際立たせるバラードのタイトル曲「Let It Reign」(最高!)できっちり〆てくれる。
本人が「パーソナルな作品だよ」と言うように、カール・バラーの”個”として、インテリジェンスでセクシー、且つ情熱的な曲が揃い、バンド素人なジャッカルズ達を認めつつも引っ張っていく、背中の広い頼れる兄貴。まさに俺たちが求める”俺たちのカールバラー”じゃないか!
さらにコーラスや演奏面でジャッカルズのメンバーが不可欠な曲もいくつかあり、「バンド」を全面に押し出した特徴もある。くしくも、リリース日近くには、OASISで同じくインテリジェンス担当だったノエル・ギャラガーの新譜もリリースされる。こちらが弟を冷ややかに見切って、ソロ作品で”究極”の楽曲を突き詰める、割と人(バンド)を信じていない石眼な人物であるのに対して、一方カールは、リバティーンズをやっぱり必要とし、また別の方法でロックバンドとしての”至高”を追い求める星眼な人だ。リアルタイムとしてはこの”美味しんぼ”みたいな図式もまた面白い。
2010年にカールはソロアルバム「Carl Barat」をリリースした。
過去のバンドとは変わって、ポップな傑作曲が揃い、新たな才能を垣間見せた作品ではあったが、作品全体としては統一感がなく、コンピレーション的な印象を拭えなかった。
本人も当時「パーソナルな曲を好きに作ってたら、周りがほっとかなかった」と語っており、リリース自体は乗り気でなかったようだ。
2012年には仕切り直しの2ndソロアルバムに着手したニュースが流れた。
この時点で「ギター主体でヘヴィー」とビジョンを語っており、ソロシンガーのEd Harcourt 、フランス歌手のBenjamin Biolayの助けでバラード曲を作曲。さらにThe BronxのJoby J Fordプロデュースで元レイザーライトのAndy BurrowsとJohnny Marr(!)を迎えて1曲をレコーディングしたことが報じられた。
2014年1月には「もうソロはしない。いい曲揃ってるから、これで別のバンドをやる」と宣言。Facebookでバンドメンバーを募集し、素人オーディションを決行した。1,000通以上の応募の中からスタイリッシュな3人が絞られ、2014年2月にザ・ジャッカルズが結成された。
すでにソロ作品で録っていた分に加えジャッカルズ演奏でレコーディングも進められた。
しかし順調に行っていた矢先に、ピート・ドハーティが「ハイドパークでリバティーンズGIGするよ」とメディアで勝手にリークしたニュースを他人事のように知ったカール。リバティーンズの立上げで手をとられてしまう。一方、ジャッカルズには「ジャッカルズの活動はリバティーンズと同じくらいに重要だ」と伝え続け士気を高めたという。ソロ作品でなくカールバラー・アンド・ザ・ジャッカルズとしてのリリースとなった本作。つまりは、2年以上も前からリリースを見据えたプロセスを経て、カールバラーが計画的に理性的に主導して進めてきたプロジェクトなのだ。ソリッドなのに何回も聴ける。確かにそれだけの質の作品に仕上がった。
リバティーンズの活動は相当な負荷になるであろうが、それでも2つのバンドを同時に進めた理由は、これからのキャリアを見据えた上で優先度が高かったことだろう。それだけ、カールバラーにとって夢と未来が詰まった作品なのだ。
【Writer】TJ(@indierockrepo)