最終更新: 2020年6月7日

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BELONGをご覧の皆さんこんにちは。毎度毎度、わたしの気になる国内インディーバンドを紹介する本コーナー。

EYESCREAM誌でも「20代がつくる新しい音楽」という特集が組まれるほど、若くして優れた演奏力と新しい感性を持ち、既に完成されている感を漂わせるバンドが隆盛する幸福な2015年、Ykiki BeatにNever Young Beach、D.A.N.、それからOrca Shoreと、こちらでご紹介したいバンドは枚挙に暇がありません。

こうした潮流は、数年前から現在まで継続的に流行している、いかに聴衆をダンスさせるかに念頭を置いたシステマチックなデザインド・ロック、俗に言うところの4つ打ちギターロックへの同時多発的なカウンターに見えつつ、最早そうした国内の流行は相手にしていない雰囲気すら感じる、趣味の世界に通ずるような、ビジネスを超越した余裕のクリエイションによって生み出されたものと想像しつつ、決して同人指向というわけではなく、世田谷ベースのように、良き趣味はエンターテイメントとして、産業たり得る、ということがこれから再証明されていくように思います。

今年のフジロックのルーキー・ア・ゴー・ゴーも、正にこうした時代性を反映したブッキングで3日間とも大変充実しつつ、ステージのあるパレス・オブ・ワンダーで約束もしていないのに毎晩出くわし、最終日のトップバッターを飾ったバンドこそ、本稿の主役、ということで、今回ご紹介するバンドは、東京・埼玉を中心に活動する3ピースバンド、Tempalayです。

BELONGが今号で新人アーティスト特集を組みながら、このローファイ・ソフトサイケを何故紹介しないんだ、という正に「ちょっと後ろの方」(彼らがバンドとして、ちょっと後ろの方、というわけではありません)らしい立ち位置ですが、彼らの音楽が持つ大きなファクターである「心地良さ」というのは、例えばNever Young Beachの”西海岸のはっぴいえんど”や、D.A.N.の”ジャパニーズ・ミニマル・メロウ”と言った、キャッチーなフレーズだけでは説明できないところがあります。

9月にリリースされた『Instant Hawaii』というデビューEPのタイトルからも想像できる通り、彼らの音楽もまた“海”といっていいでしょう。

これは近年のトレンドとも言えますが、彼らの海は、雨がしとしと降るような、もしくは思っていた暑さではなかったり、つまるところ、リゾート的な海ではありません。

言葉で読むと、そんな海、ちょっと嫌だ。と思うかもしれませんが、びしょ濡れで体温が下がることや、家に帰らなければならない、といった世俗の事情を一切無視した上で想像して下さい。

美しく広い海岸に降り注ぐ春の雨を浴びながら寄せては返す穏やかな波の音に耳をやり、我々の代わりに急いでくれているかのように上空を流れ行く雲を眺めて過ごすことを。

これは相当に気持ち良いでしょう。

実際にやったら、たぶん風邪を引きますが、そこが音楽の素晴らしいところで、我々は屋根のある部屋にいながら、こうした地球規模のホスピタリティを想起できるのです。

Tempalayの音楽は、濡れた後のことを考えなくていい雨であり、畢竟、水なのです。

人々は雨に濡れることを嫌がります。わたしもあまり好きではありません。

けれどそれは濡れた後、色々な問題が発生するからでしょう。

入浴の幸福感もまた、のぼせることや、ふやけ過ぎるといった事後の問題のせいで、早々に切り上げなくてはなりません。

それでも大体わたしたちは、生まれる前はずーっと胎内の水に浸かっていたのです。

Tempalayの音楽がもつ心地よさとは、恐らくそれです。沐浴の世界へようこそ。湯当たりはありませんので、ごゆっくり。

【Writer】

加藤マニ(manifilms)
1985年東京生まれ。インディーズ、メジャーを問わずミュージックビデオ等の映像制作、広告デザインやウェブデザインによって口を糊する他、ロックバンドPILLS EMPIREおよびLowtideのキーボード兼にぎやかし担当、及びDJやVJ、レビューやエッセイ執筆等のオファーは来るもの拒まず、インディ精神を忘れない、立派な大人を目指して自活中。

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