最終更新: 2020年11月26日

関西を中心に活動するインディー・ポップ・バンド LADY FLASH がDead Funny Recordsよりアルバム『恋するビルマーレイ』をリリース、東京の盟友For Tracy Hydeと共にスプリット・ツアーをおこなう。

そのタイミングで今回、両バンドの対談を企画した。LADY FLASHのギター、ヴォーカルnicoflashは、「バンド名の由来はThe Go! Teamの曲名からで、彼らのように多様な音楽性を取り入れたい」と語る。

一方、For Tracy Hydeのギター夏botもThe Go! Teamのサンプリング感覚に影響を受け、RIDEやART-SCHOOLやGalileo Galileiといったロック・バンド加え、アニメ・ソングの要素も取り入れた曲作りを目指しているという。

地理的、ないし文化的「辺境」からこそ新しいものが生まれる。

独自のスタンスで活動する彼らに、新作についてだけでなく、自身の音楽的ルーツ、インディー・シーンの動向など気の向くままに語り合って頂いた。

LADY FLASH:nicoflash(Vo./Gt.)、ハッピー(Dr.) For Tracy Hyde:夏bot(Gt.)、eureka(Vo.)、Mav. (Ba.) インタビュー:Toyokazu Mori

―LADY FLASH『恋するビルマーレイ』のレコ発として、2バンドのスプリット・ツアーを行うことになりましたが、その経緯について教えていただけませんか?
nicoflash:現メンバーになってより活動しやすくなって、CD出すことになったからツアーもまわろう、せっかくだから東京の友達とまわろう、関西にあまり来たことのないバンドを呼ぼう!となってFor Tracy Hyde(以下 フォトハイ)を誘いました。

―フォトハイのどんなところに惹かれます?
nicoflash:全部好きです。クオリティーが高く、インディー感もありつつ、一般のリスナーにも受けるフックがある。どれも僕らには無い要素なのですごく憧れます。
夏bot:嘘やん!
一同:(笑)。
nicoflash:いや、僕らにはない、ない、ない!

―マニアックな要素があったうえでキャッチーなことをやっているのは両バンド共通する事だと思います。先行曲「とらばーゆ」はまさに好例。この曲ではnicoflashさんに代わって女性メンバーが歌われてますね。
nicoflash:フォトハイがeurekaさんをヴォーカルに招いたように、僕ももうあまり歌いたくないんです。女性メンバー2人に歌ってもらって、僕はコーラスをたまに歌うくらいにしていきたい。そういう意味でもフォトハイに影響を受けているかもしれない。夏bot君がメインで歌ってた頃から知ってるので。

―でも本作『恋するビルマーレイ』の他の収録曲ではいくつか歌われていますよね?
nicoflash:今回は仕方なく。これから作る曲は着々と女性ヴォーカルを増やしてます。カセットで発表したリード・シングル「とらばーゆ」を女性ヴォーカル曲にしたのも、これからそういう方向に持って行きたいから。その意思表明です。

-夏botさんから見たLADY FLASH像というのはどのようなものでしょうか。
夏bot:LADY FLASHについて、「マニアックな部分がありつつポップ」というのはすごく感じています。あとは、お互い悪ノリする部分がたくさんある。
一同:(笑)。
夏bot:つまり反骨心のようなものが根底にあったうえでポップな部分があるんです。フォトハイとLADY FLASHは相乗効果で良くなろうとする悪友みたいな関係です。うちらになくてLADY FLASHにあるものといったら、やはりユーモアのセンス。語感がキャッチーだったり、歌詞が面白かったりというのがありつつ、音楽的なクオリティーや曲の勢い、パワーも凄い。うちはけっこう堅苦しい部分があるので。

―長所と短所は表裏一体だったりしますね。新作『恋するビルマーレイ』の印象は?
夏bot:女性ヴォーカルが入った割に、良い意味で従来のLADY FLASHの発展形ではないかと思います。相変わらずコーラスはすごいシンガロングできるし、ドラムは激しいし。今の編成になってからライブはたくさん見てるんですけど、相変わらず悪ノリしてるし(笑)。最高だなと。
一同:(笑)。

―女性ヴォーカルと言えば、フォトハイが新ヴォーカルeurekaさんを加えた経緯も教えていただけますか。
夏bot:私が歌っていた結成当初から、元々女性ヴォーカルを据えた音楽をやりたいと思っていたので、女性ヴォーカルを加えること自体は自然な流れでした。前任のヴォーカル(ラブリーサマーちゃん)が脱退しまして、代わりを探していて、身近な人でこの子が歌ったら面白いかもという人、何人かに声かけて、たまたま彼女がすごく良かったんです。

―元々お知り合いですか?
夏bot:ええ、私が中学の頃に家族ぐるみで付き合いがあって。彼女、バンドは未経験なんですが、合唱やミュージカルをしていたんです。誘った後で知ったのですが。
eureka:ミュージカルといっても男役ばかりでしたけど・・・。

―男装の麗人も似合いそうです。では加入の決め手になった彼女の魅力は?
夏bot:そういうことを言い出すと照れくささがあるので・・・。Mav.君(フォトハイのBa.)、うまいこと言ってくれや(笑)。
Mav.:俺なの?そうですね、何の捻りもなく良い声だからです。正統派のポップ・シンガーとして良い声。僕らがまともにポップなことをやろうとしたときに、彼女の声は武器になるなぁと思ったんです。一般層にがっつりアピールするためには、良い声のヴォーカリストが必要だから。

―捻くれている楽曲にはまっすぐな声が必要ということですか?
夏bot:そうです。やっぱりアニメ・ソングへの意識が強いんです。裏でどんな変なことをやっていても、声優やアニソン歌手が歌うと成立する。それがアニソンの強みじゃないですか。我々もそれを狙いたい。ディーパーズ(COALTAR OF THE DEEPERS)のNARASAKIさんがアニメ主題歌に提供している曲とか分かりやすい例です。
nicoflash:家でライヴしている動画を観たんですけど。eurekaさんは容姿とか、声の存在感自体がキャッチーというか、eurekaさんが入って締まったというか。あと、ライヴのMCで、この曲の元ネタはこれとこれでって言って演奏する感じ、むっちゃ好きです。
(注:メンバーの自宅ではなく、レコーディングを手がけているこいち氏[Nakanoise]のベッドルーム・スタジオ)

―元ネタといえば「恋するビルマーレイ」の題名は『Lost In Translation』の主演俳優からでしょうか?
nicoflash:はい。『Lost In Translation』が好きなのでその俳優の名前から拝借しました。曲自体はすごく昔からあって、ハッピーも居なかった頃、僕以外のメンバーが全員違う頃からある曲です。セッションで作っていて、ずっとほったらかしになっていたのを引っ張り出して、僕一人で宅録してまとめて、メンバー・チェンジを期にライヴでやり始めました。音楽的な元ネタ的としては、ちょうど曲を作り始めたころTHE DRUMSとか流行ってたんで。

―THE DRUMSはオレンジ・ジュースに影響された黒人のリズム感を感じます。LADY FLASHもやはり同じ感じがある。一方でフォトハイは白人のロックに近い。同じネオアコでもアズテック・カメラ寄りというか、そこは2バンドの相違点ではないでしょうか?
夏bot:ああ、うちはどちらかといえば真っ白ですね。わたしは渋谷系やネオアコから遡ってソウルを聴いたりもするんですが、コンピを流し聴きする程度で詳しくはありません。
nicoflash:そこはあまり意識はしていなかったです。もちろんTHE DRUMSのルーツにあたる音楽も聴いたりはしてるんですが、それよりも現行のバンドを色々聴いているうちに、そのバンドのルーツの部分が自然に僕らの音楽にも反映されてるのかもしれません。影響を受けたのは一世代前のバンドだけど、それを介してさらにそのルーツが見えるような。

―熱心に聴いているのは現行インディーだけど、The SmithsやThe Cureの影響を感じさせる音楽になってしまう、みたいな感じでしょうか。それではLADY FLASHのルーツになっている音楽を教えていただけませんか?
nicoflash:Born RuffiansというかつてWARPに所属していたロック・バンドから影響を受けています。彼らの音楽をもっとスマートにポップに分かりやすくしたのがVampire Weekendで、実際売れてからも彼らはBorn Ruffiansが好きだと言い続けているんです。僕は雑味があるほうが好きだからBorn Ruffiansの方を好んで聴いています。2013年作『Birthmarks』がすごい良くて、アルバム制作中もよく聴いてましたね。今のメンバーになる前からBorn Ruffiansは一つのキーワードでした。あと、「とらばーゆ」1曲に関してはもちろんBeach Fossilsですね。
夏bot:Beach Fossilsミーツ相対性理論だよね。
nicoflash:それはズバリ(笑)。

―あえて分かりやすいことをやっているのでしょうか?
nicoflash:今までは何をやっているのか訳の分からないバンドってイメージでした。自分たちで聴いても訳が分からない曲が多かったくらいで(笑)。今回は女性が歌うってこともあって、分かりやすさは意識しました。今はポップに寄せていく過渡期なのかなと思います。曲の棲み分けをしたいんですよ。僕が歌う曲は変な曲で、女性メンバーが歌う曲は分かりやすいストレートなポップにして。

―分かりやすい女性ヴォーカル曲で注目され、でもマニアックな曲もあるからコアな音楽ファンも唸らせる。
nicoflash:そうあれたらと思っています。

-今のお話、フォトハイ側はどう思われましたか?
夏bot:うちらはLADY FLASHより露骨に元ネタを提示したい、というのはあります。例えば最近はThe 1975が好きと言い続けてますけど。彼らは根っこにシガー・ロス、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインがありつつも、マイケル・ジャクソンやTears For Fearsとか、80年代のポップスやソウルもあり、Boards of Canadaやブライアン・イーノも好きだったり。マニアックな所をある程度踏襲した上でポップな音楽をやっているのが強み。あと美学があってメディア戦略が巧みで、バンドのイメージを完全にコントロールしている。我々もそういう風になれたらいいなと思います。他のみんなも一言お願い。
Mav.:The Depreciation Guildを今さら聴いています。チップ・チューンとシューゲイザーを融合して、ファミコン風の打ち込み音を入れるという、ちょっと変わったバンド。フォトハイはどんどん同期を増やしていっているので、その参考にしたいと思っています。
夏bot:eurekaはPredawnとかbjörk、Radioheadが好きだよね。
eureka:はい。『OK Compuer』をお父さんが聴いていて。

―でも「お父さん、辛気臭いもの聴いてるなあ」、とはならなかったんですか?
eureka:キラキラしたものも好きだけど、私自身が暗い感じなので、暗めなものにも惹かれるからだと思います(笑)。

―美しい音楽には常に光と影の両面があるのかもしれませんね。それでは最後に、東京と大阪のバンドの対談ということで、東西のシーンの違いについて語っていただけませんか?
夏bot:NAISHOの徳やん(ギター・ヴォーカルの徳山氏)にLADY FLASHを紹介され、わたしがヴォーカルだった頃に大阪で共演したのが、交流の始まりでした。
Mav.:僕とギターのU-1はBoyishというバンドもやってるんですが、関西にツアー来ると必ず対バンに何らかの形でハッピーさん(LADY FLASHのDr.)がいて(笑)。
ハッピー:関西のシーンはとても狭いんです(笑)。

―バンド・メンバーが掛け持ちしていたり、イベンター同士がつながっていたり、それは大阪に限らず他の都市でもあるでしょうね。
ハッピー:それが最近ようやく広がり出したというか、例えば最近、京都のバンドが頑張っていますね。簡単に地域を越えていく。

―Home comingsとかmy letterとか。She saidは名古屋と京都のメンバーで構成されていますね。
ハッピー:ええ、昔と比べて地域性が大事じゃないというか、もっと別の所に向かっている。ネットで繋がって、そのままバンド組んだり、対バンしたり、ツアーに行くとか.

―前回のインタビューでTwitterバンドと言っていたフォトハイとして何かご意見はありませんか?
夏bot:わたしはネットでシーンを見ているわけではないですね。Twitterでメンバーを集めたり、ネットのおかげで情報が入って出会いやすくはなりましたけど。インディー・シーンを見ていて一番意識しているのは言語の問題です。やっぱり日本語での表現にこだわりがあったので。周りに日本語で歌うバンドが全然いない中で孤独に戦ってきた感じがありました。最近やっと日本語詞のバンドがいろんな音楽性で出てきたので楽しいなって。ファンク方面だとSuchmos、あと英語の曲もあるけどLucky Tapes。シューゲイザーだとgroup2とか。Yogee New WavesやNever Young Beach、Tempalayが台頭し始めたり。北海道にもAncient Youth ClubというThe 1975を日本語詞にしたような凄く良いバンドが居たり、それと比べると大阪だと日本語詞の若手で目立つのはBalloon at dawnくらいでしょうか。渋谷系の時代でも洋楽から影響を受けた英語詞のバンドからだんだん日本語詞に移行していくというのがあったじゃないですか。今はそういう過渡期にあるのかなと。

― まさに夏botさんならではの視点ですね。
夏bot:音楽の20周年周期説というのが、自分の中でこだわりがあって、今は頃合いかと思います。
Mav.:日本語の歌詞といえば、夏botの場合、まず英語が母語だったわけじゃない?
夏bot:そう、わたしは7歳まで英語しかしゃべれなかった。苦労して日本語を話せるようになったので、なおさら日本語の響きを大切にしたいと思うんです。

―日本のバンドの話が出たので、実はnicoflashさんに聞いておきたかったことがあって、歌い方に、良い意味で初期ART-SCHOOLを感じるんですが。
nicoflash:はい、18歳くらいのころから聴いています。『Boys Don’t cry』というライヴ盤を一度売って、また買い戻しました・・・(笑)。

―(笑)。そのライヴ盤のタイトルはThe Cure の曲名からですよね。
nicoflash:実は(The Cureの)「In Between Days」を今日のライヴでもやります。

『恋するビルマーレイ』
2016年2月3日発売

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