最終更新: 2020年12月6日
BELONGをご覧の皆さんこんにちは。毎度毎度、わたしの気になる国内インディーバンドを紹介する本コーナー、今回は、書こう書こうと思っているうちにメジャーデビューしてしまったため、厳密に言うとインディーバンドとは呼べないのかもしれませんが、かの”めざましテレビ”において「2016年にブレイクしそうなアーティスト」という胡散臭くもフレッシュなランキングで1位を取得、カウントダウンジャパンのステージでも入場規制という、押しも押されぬ勢いを、これまでお茶の間には存在しなかったであろう鋭角ポストパンク・サウンドで勝ち取りつつある京都出身の4人組、”夜の本気ダンス”、通称”夜ダン”を紹介させて下さい。
わたしの記憶が正しければ、所謂「鋭角サウンド」という言葉を世に広めたのは、昨年の紅白歌合戦でも椎名林檎さんのゲストとして登場したことも記憶に新しい、向井秀徳さんが前世紀末に結成したNUMBER GIRLだったと思いますが、”夜ダン”の音楽も正しく初期NUMBER GIRLを彷彿とさせる、ピクシーズ直系、キラキラ輝くノコギリのような乾いたギターが陽性にサーフするようなポップ・パンクです(眼鏡がトレードマークのフロントマン、異様にキャラが立っているドラマーというパーソナリティ的な相似点も加筆しておきます)。それに加えて、2000年代初頭に流行したDFA系のダンス・パンクバンド、ザ・ラプチャーやLCDサウンドシステムを筆頭に、CSSやティン・ティンズで隆盛を極め、サンシャイン・アンダーグラウンドあたりで終焉していったポストパンク・リバイバルの影響を色濃く感じるため、全体の輪郭としてはJ-POPの範疇でありながら、非常に洋楽的な要素を強く感じ取ることができます。
洋楽的なバンドというと、例えば現代におけるYkiki BeatやThe fin.、YOUR ROMANCEといった英語詞でそのまま輸出できるような、欧米のシーンとシンプルな同時代性を持つバンドがまず浮かびますが、かつてのMO’SOME TONEBENDERやSUPERCARのように、洋楽的要素を日本人向けにローカライズした、邦楽的でありながら洋楽ファンも納得の味、というタイプのバンドもまた別のラインとして存在しており、夜の本気ダンスは完全に後者の潮流にあると考えます。
特筆すべきは、これまでそうしたバンドはある種、限られた人たちに愛好され、ジワジワとポピュラリティの裾野を広げていった歴史があった中、先述した通り、夜の本気ダンスはいきなり(とは言え彼らもインディ時代の確かな下積みはあるのですが)メインストリームで人気、という状況です。「踊ろうぜ」「君が好きだ」「気持ちいいね」の3大テーマしか存在しないような振り切れた歌詞もまた、享楽的で即物的なものを求めがちな若きオーディエンスたちにぴったりであり、同時にかつてのビートルズだって、同じようなことを歌っていた以上、全くロックンロールではありませんか。
懸念されうる、過度のローカライズによって食い荒らされた末に閉店に追い込まれてしまった悲劇のディスコ・パンクバンドという未来を、彼らは避けることができるはずです。このポストパンクとJ-POPの奇跡的な出会いともいえる灯火は、決して絶やしてはならないのです。
といったところで、2013年4月の第3号より3年連載して参りました本コラムは、BELONGのコンセプトに似つかわしくないバンドに触れてしまったために今回で打ち切りとなりました。曰く、誰も知らないようなバンドを紹介しないのであれば、本コラムは不要なのだそうです。皆様のご愛読ありがとうございました。音楽は続いていきます。スノビズムの奴隷にならないことをお祈り申し上げます。
【Writer】
加藤マニ(manifilms)
1985年東京生まれ。インディーズ、メジャーを問わずミュージックビデオ等の映像制作、広告デザインやウェブデザインによって口を糊する他、ロックバンドPILLS EMPIREおよびLowtideのキーボード兼にぎやかし担当、及びDJやVJ、レビューやエッセイ執筆等のオファーは来るもの拒まず、インディ精神を忘れない、立派な大人を目指して自活中。