2年半前の2014年9月、前作『PARAISO』リリース時に本サイトで私が書いたレビューでは、次のように締めた。

“煌びやかに日常を描けば描くほどデカダンに響くのは現代の東京の若者のリアルが忠実に描かれ、また現状を変えようとしている証拠だ。cero以降乱用される「シティポップ」の語彙の変容を体現し、再定義するような重要な一枚である。”

その後の彼らの活躍は周知の通りで本当に現状を変えてしまった。その数年前から胎動していた東京インディーシーンの盛り上がりは『PARAISO』が契機になったかのようにSuchmos、never young beachらが続々と飛び出した。この3組で撮影されたNO MUSIC,NO LIFE!ポスターや、雑誌EYESCREAM 2015年8月号では彼らに加えコムアイ(水曜日のカンパネラ)、D.A.N、KANDYTOWNなど20代のミュージシャン57人が渋谷に集合した写真(ヨギーは角舘のみ参加)が掲載され、2010年代の音楽やユースカルチャーは彼らが担っていくような予感をビシビシ感じたし、そこから2年たった2017年現在その予感は現実のものとなっている。

その中でもフロントマン角舘健悟は根っからの人たらしな性格と心の底からピースフルな現代の理想を語れる稀有な20代のミュージシャンとして先頭を引き受ける存在になっていった。一方でヨギー本体としては2015年以降「Fantastic Show」、『SUNSET TOWN e.p.』のリリースはあったもののなかなか体制が固まらず、次作の報が届かなかった。

『PARAISO』という作品は東京で生まれ、東京で生きるしかない当時大学卒業直後22~23歳の彼らが様々な迷いや判断を迫られる時期の中で見つけた、つかの間の楽園(=PARAISO)をエモーショナルに描いている。就職したメンバーもいる中で、当時の彼らは仕事と音楽の天秤を常に揺れ動かしていたバンドであり、その状況をそのまま作品に反映したゆえのリアルさが、体制が変わった今聴くとより切実にわかる。人気の急上昇に伴って主に平日のライヴでは角舘が一人弾き語りやDJなどで出演し、上記EYESCREAMやメディアでも一人で対応し、語る姿は飛び切りに艶っぽくも、“CLIMAX NIGHT”が明けず、角舘一人がまだ“PARAISO”の中にいるのではないかという心配すら感じていた。その中で2015年5月の松田光弘(Gt.)、今年1月のオリジナルメンバー矢澤直紀(Ba.)の脱退はさらに角舘の理解者が減っていくと不安にさせるものだったが、すぐさま竹村郁哉(Gt.)、上野恒星(Ba.)加入。そして本作『WAVES』の発表と急展開で浮上したのがこれまでの境遇だ。

本作を聴くとその不安は杞憂だったようで、ヨギーないし角舘は桃源郷から抜け出せずにいたのではなかった。急激に名声を得ていくバンドは“PARAISO”に安住することを許さず、むしろメンバー一人一人に対して音楽への向き合い方に決断を迫っていたのだ。その中で松田、矢澤とは袂を分かつことになったが、出会い別れを経て精神的にも実力的にも名声に追いつき、その成長の結果から生まれた視点で描かれた作品となっている。本作には東京で生きる一人の若者としての歌はない。収録曲「World is Mine」というタイトルにも表れている通り2010年代に生きる若者を先導し包み込む視点の広がりと音楽家としての自我の芽生えを感じさせる。

まず耳を惹かれるのは彼らを押し上げた代表曲「CLIMAX NIGHT」の冒頭歌詞“目が見えなくとも 姿形色が分かるようなことを 探し求めコーラを飲み泣きじゃくった日々よ”と呼応するが、ぐっと懐が広がり“息もできないくらい 心あらずで待ってたよ ハロー”で始まる8分近くの長尺曲「HOW DO YOU FEEL?」。同じように“もう終わりなの?まだ踊ってたいのに”とモラトリアムを歌っていた彼らが“だんだん時は経ってくよ もうもう止められないよ”とすっかり未来を見据え、他者に“HOW DO YOU FEEL?”と何度も問いかけ鼓舞し、それに応じて仲間が集まるかのようにブラスの音が入ってくるドラマチックな高揚感。唐突かもしれないがこの2曲の間での成長の間にSMAP「夜空ノムコウ」を挟むと、酩酊の夜が追憶の彼方へ向かい今の時代を生きるまでのストーリーが完成するような、ポジティブなオーラを身にまといかつポピュラリティーを持った大名曲を生み出している。

全11曲風通しのよいエヴァーグリーンなメロディの楽曲が並ぶが「World is Mine」、「C.A.M.P」での弾き語りから軽快なブギーやファンクアンサンブルへの移行、「Dive Into the Honeytime」の8ビート・ロックンロールからスワンプにグルーヴする間奏のジャムセッションなど、開放感のあるダイナミックな展開の妙によって曲を推進させるものも大半を占めている。どんな手段を使っても聴衆と繋がろうとし、さらっと聴き流させないという意志が見える角舘のソングライティングの柔軟さと、そこに対応していくバンドの結束の強さを感じさせる。

また前作から言われ続けているはっぴいえんど、ティン・パン・アレイ、山下達郎、サニーデイ・サービスらいわゆるシティポップの系譜にいる先人への敬意はもちろん、またHi-STANDARDだってTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTだって、もっとオールディーズ・サウンドも本作の中には確実にいる。物心ついた時からyoutubeがあった世代の音楽ジャンキーである彼らだからこそ過去の素養は溢れだしそうだが、意図的に影響源からのインスパイア・オマージュ・引用を嫌悪し、抑え込む姿勢で現代のロックミュージックを試みているところは頼もしさを感じる。過去から引っ張り出した従来のシティポップが当てはまるのは、身体がグルーヴするたびにこぼれ落ちるほんの上澄み部分だろう。

孤高の桃源郷だった『PARAISO』から、自分だけではなく仲間たちと共に時代を動かし始めた『WAVE“S”』へ。サチモスやネバヤンら盟友たちの活躍も含めて「な?面白い時代が来るって言っただろう。待たせたな!」と大口を叩いているだろうか、そんな姿も様になる。まだまだヨギーは私たちを先導してくれる。(峯 大貴)

【リリース】

『WAVES』
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