現在のUKロックシーンは勢いがある。独自のポップミュージックを世界規模で成功させたThe xxをはじめ、The Rolling StonesのO.A.を務めたサイケデリックロックバンドTemlpes、音楽賞の受賞やタイアップなど確実なステップアップを重ねるオルタナバンドWolf AliceなどUK出身バンドの活躍は目まぐるしく、確実に彼らが今ロックシーンに良い波を起こしている。その最中、その波に勢いを与えるようにやってきたのは、9月22日にリリースされたThe Horrors(ザ・ホラーズ)の新譜『V(ヴィ)』。

長年在籍したXL Recordingsを離れ、アデルやポール・マッカートニーなどの曲を手掛けるポール・エプワースが主催するWolf Toneに移籍した後の初のアルバムとなる。メンバー全員の徹底されたゴシックスタイルとダークサイドな世界観が注目され、デビュー前にも関わらずNME誌の表紙を飾るなど彼らの今後の飛躍を見越した各メディアが”UKバンドシーンの新しい風”として取り上げた2006年。11年後の今、ホラーズが再びUKロックシーンに”新しい風”を巻き起こす。

荒れ狂う女性とクールなメンバーが交互に映し出されるMVが世界的に話題となった「Sheena Is A Parasite」を含むデビューアルバム『Strange House』をはじめ、彼らはガレージロックを軸に置き、その上をこれでもかというくらい自由に遊びまわるボーカルやメロディラインが作る音楽はとびきり攻撃的かつ斬新だった。その後2作目となる『Primary Colours』では濃密なシューゲイズサウンドを、続く3作目『Skying』ではシンセの多用によるサイケデリアにフィーチャー、そして4作目の『Luminous』ではライトなポップさとダンスミュージックの融合といったように、アルバムを出す毎にいろんな姿を見せてきたと同時に全英ランキングも上位へと上り詰めた。

多彩な変化がある分、しっくりとこないこともあった。初期の頃のハチャメチャな展開や荒削りのファリス・バドワンのボーカルはとてもクセが強く、聴きづらく感じることも多かった。しかし、最近の作品では耳馴染みは良くなったが彼らの魅力であるダークさが抜けて軽やかさが主体となってしまったところに物足りなさを感じていた。変化をし続けるからこそ、リスナーとしてわがままであるが期待をしてしまうところ。そして、そんな期待を見事叶えるだけでなく予想のはるか上を越えてやってきたのだ。

発売前から日本語のフォントが使用された奇妙でグロテスクなアートワークが話題を呼んでいた『V』。今作のファーストナンバーである「Hologramt」からダークスタイルへの回帰が強く投影されている。限界のない暗闇の世界に響き渡るディストーショナルなサウンドが主体なのに、宙を浮遊するような抜け感まである。サイケデリックなエフェクトが漂いながらもサビ直前で目が覚めるように一瞬息を呑む瞬間がやってくるのがたまらない。これまた奇妙なMVが公開されている「Machine」はリード曲を担っているだけあり、インパクトが強烈。最初から最後までダークネスなヘヴィーサウンドが貫かれていて、魅惑の闇に突き落とされるようだ。粗いノイズを引き連れるギターサウンドに酔いしれる。

そしてこのアルバムの魅力は進化したインダストリアルロックにある。Nine Inch Nailsをはじめとした機械音や金属音、電子音といった恒常的な音を多用する音楽がインダストリアルとして称されている。近年インダストリアルという言葉を聞く機会も減り、消滅しかけていた節もあるが、今このアルバムを機に再び話題となるのではないだろうか。今作では実践的に取り入れられているが、聴き辛さ・やかましさなどなくノイズと同じように心地よく感じる。 特に、4:00から渦巻く電子音の嵐からの沈黙と再稼働する劇的な展開を見せる「Press Enter To Exit」、ものすごくかっこいい。エフェクトたちが一つずつデザインされていているからこそだ。そこに加わるクールなポストパンクスタイル。前作と比較するとNew OrderからJoy Divisionに寄せた感覚。ミステリアスさや重さを主体に持ちながら、「Something To Remember Me By」のような煌びやかなサウンドやダンスチューンを損なわず、ホラーズなりのインダストリアル×ポストパンクの解釈・展開で仕上がった独自性の高いアルバムとなっている。

そしてアルバム全体を通して感じたことは、本来のダーク思考を生かした上でファリスのボーカルが歌として非常に聴きやすくなったこと。そして留まることのない響き方に彼らのサウンドスケールの大きさが格段に広がったことだ。その理由の一つにはプロデューサーであるポール・エプワースの力があるだろう。プロデュースした楽曲数々の名誉ある賞を受賞してきた彼が培ったメジャーにも通用するスケールや展開・表現の的確さが、今までセルフプロデュース主体だったホラーズの音楽の突破口となったのではないだろうか。

ボーカルはとても聴きやすくなり、サウンドの展開もごちゃごちゃすることもない。というアーティストの変化は快く思われないことも多い。大概が商業化するか劣化するからだ。あらゆる変化を遂げてきたホラーズの今の姿はもちろん過去のものとはどれも違う。しかし、絶対に良くなっていると確信を持って言える。聴きやすいといってもクセはかなり強いのだが、ここにはいい音楽がある。今までの変化があってこその現在と、今もなお変化し続けるホラーズは”音楽”として確実な成長を遂げている。『V』は世界的に彼らのポテンシャルの高さを見せつけたアルバムになっているのではないだろうか。(pikumin)

【リリース】

『V』
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