インディペンデントな音楽に宿る力は凄まじい。そこにはメジャーシーンのパワーに転がされた音楽とは比べ物にならない程のえぐるような脅威、己の美学、そして無垢な感情がこれほどまでかと思う程に焼き付いている。

18歳という若さで”BBC サウンド・オブ・2013”にノミネートされたことで注目を集めたKing Krule(キング・クルール)は今のインディペンデントシーンにおける重要人物に違いない。デビュー前にも関わらずTAICOCLUB’12に出演したことで日本でも話題となった彼は、のちのデビュー作『Six Feet Beneath the Moon』が世界中で絶賛されたことでさらに人気を獲得した。そして別名義の活動やプロデュース業などさまざまな活動を繰り広げてきた”孤高の天才”は休止期間を経て、『The Ooz』というアルバムと共に帰還する。印象的なタイトルについて本人は「耳垢や鼻水や体液や皮膚など、日常的に自分自身から出てくるものについてだ」と言う。このアルバムはまさに日常的に見える当たり前のように流れていくものを閉じ込めた詩集なのだ。

休止期間にもクリエイティブな活動に費やしていたという彼が今作で見せるものは、彼の音楽を取り巻く広大な闇と彼自身が見ようとする光が共存する世界。全体を通してジャズに本腰を置きつつも、バンドアンサンブルにも力を入れている。ソウルやブルース・ニューウェイブまでも織り交ぜたサウンドは常に不穏な空気を漂わせている。いきなりガツンとくる衝撃や高揚する感動というよりは、じっくりゆったりと惑わされて、呑み込まれていくよう。そして、まさに一冊の詩集のように曲ごとに別のシーンに移り変わる。19曲を通して同じ思想を根底に持ち歌っていることがわかる楽曲たちが並ぶ。それは、彼にとっての日々の流れや当然のように過ぎていく情景や気持ちを切り取った音楽。こういった部分に、彼の敬愛するチャールズ・ブコウスキーの魂が強く感じられる。詩的でロマンチックな歌詞に込められているのは怒り、混沌、孤独、美しいものへの憧憬。取り囲むようなダークサウンドと打って変わって優しくたゆたうライン、そして随所に打ち込まれるヘヴィな音がリスナーの視界にさえ滲み出てくるようだ。ぼけっとしていると、身体と心を覆い尽くされてしまいそうな程のパワーがある。

トップナンバーである「Biscuit Town」から、その強力な力は発揮されている。一見おしゃれなジャズミュージックに乗せるのは、奇妙に響かせるローファイなメロディラインとまるで独り言を語りかけるようなボーカル。ハスキーながらも沈む歌声と孤独や絶望を歌う姿はポストパンクの代表格Joy Divisionのイアン・カーティスを想起させる。しかし、キング・クルールはより生気と熱をくっきりと宿している。その熱の根源は怒りの類。怒りという部分と切り離せない深い闇はRadioheadの『Hail To The Thief』と通底する部分が感じられる。特に「The Ooz」のきれいで優しい音色に包まれるどうにも悲しくて切ない音楽はRadiohead同アルバムの名曲「Sail To The Moon」と共鳴している。といっても沈むばかりの曲調ばかりでなく、場面が切り変わるように色が変化するのもこのアルバムの楽しみどころ。各メディアで披露されている「Dum Surfer」はとても華やかで巧みなジャズアンサンブルが際立ち、「Emergency Blimp」や「Vidual」ではニューウェイブ・パンク色が強くキング・クルールの動の部分を飛躍させている。一方「Midnight 01(Deep Sea Driver)」や「The Cadet Leaps」はブルージーなボーカルは哀愁を漂わせ、ノスタルジーなメロディが雫のようにひとつひとつ零れ落ちていくようだ。今作のラストナンバーである「Czech One」は甘いギターアルペジオが夢遊病を描いて、雨音の中に吸い込まれて消えていく。この終わり方がとびきり切なくて、救いがない。しかし随所に散りばめられた歌詞、そして温かみあるサウンドに彼自身が作った希望や光をちらつかせる。それは日々の中に救いを探す日常を映している。それを吐き出したり、苦笑いを増せながら語りかけるようにキング・クルールは歌うのだ。

自身を投影しながらもこれほどまでに“作品”として成立しているアルバムは少ない。ましてや23歳という若さで実現している。彼は23年間をかけて自分の持つ劣等感・怒り・悲しみ・痛みを噛み砕き、向き合った。インディペンデントを貫き、日常的に滲み出る感情や自身のすべてを余すことなく投影したことで完成された『The Ooz』。ぜひ、詩集の言葉をなぞるように、このアルバムをひとつなぞってはその痛みに触れてほしい。(pikumin)

【リリース】

『The Ooz』
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