国内ロックシーンにおける異端児、クラン・アイリーン。
ダイナミックなノイズミュージック、身体を射抜くような鋭いビート感、圧倒的サウンドの暴力。 ギターとドラムの2人編成とは思えないほどの底知れないパワーを見せつけてきた彼ら。
昨年には、オルタナティヴロック界のキング的存在であるクラウド・ナッシングスや、グランジムーブメントの代表格であるソニック・ユースのフロントマンであるサーストン・ムーアやマイ・ブラッディ・バレンタインのデビー・グッギが一堂を会すサーストン・ムーア・バンドというロック界の大御所たちのサポートアクトを務めるという大役を果たした。
その豪快かつエネルギッシュなパフォーマンスや脳みそを震わせるエネルギッシュな爆音は、あらゆるリスナーを虜にしてきた彼ら。 その功績が話題を集め、ライヴ・アクトとしての印象が強くなった今。
前作となるセカンドアルバム『Klan Aileen』より約2年経った今年5月23日に、サードアルバムとなる『Milk』を発売することが決まった。
今作は、前作までのイメージを大きく塗り替え、新生クラン・アイリーン爆誕の瞬間を収めた作品である。

荒々しいノイズとストレートなアプローチを武器として、がむしゃらに叩き出す。前作『Klan Aileen』を経て、攻撃的な音像やパフォーマンスが彼らのイメージとなっていたし、それが彼らの音楽と思い込んでいた。
しかし、今作を聴いてどうだろう。そのイメージは大きく覆されることとなった。
何よりも驚いたのは、幽玄なサウンドスケープ。
それはアルバムの一曲目となる「脱獄」のイントロが始まった時から見え始める。
ギターアルペジオやスネアの音が紡がれるたびに、まるで果てが見えない空間の奥の方まで響いては、溶けて消えていく。
やわらかな音は丸みを帯びて立体感を持ち、曲後半からやってくるノイズギターはセンチメンタルなリフを奏で、以前までの耳にぐんとくるような圧はない。
その代わりに、まるでノイズの渦にじっくりと呑み込まれてゆくような気持ち良さがある。
この良さは、おそらく的確な音選びにある。
全体的にノイズを撒き散らすわけではなく、出し引きのバランスや展開を細分化し、自分の出す音へ役割を決めて並べているように思える。
また、ギターアルペジオやドラミング、パーカッションなど、すべての細かく小さな音まで忠実に救い上げ、重ねていく。
この連なりが、後半にかけてレンジが広がり、奥行きを拡大させていく展開のキーポイントである。
こういったアプローチが今作では多く、今までのクラン・アイリーンには見えなかった奥深さ、サウンドスケールの拡張を感じることができる。

幽玄さは楽器の音像だけではなく、Ryo Matsuyama(Vo./Gt.)の歌にもある。
緻密に作られた音の世界をゆったりと伸びてゆく無機質な歌声は、ダウニーの青木ロビンを彷彿とさせ、 一方「Ovni」では、エリオット・スミスやスパークル・ホースのマーク・リンカスのようにどこか切なくノスタルジーに響く歌声も見られ、 彼の歌声が持つ表情の違いも、幽玄な印象の一端を担っている。
そんなミステリアスな歌声で歌うのは、怒りと無関心を孕ませた歌詞。
言葉遊びで韻を踏み、タイムリーな話題や現世に蔓延る愚かなモノを取り上げては「しょうもねぇ」とツバを吐くように並べている。そこには延々と同じことを取り上げては盛り上げようとするメディアへの不満や、あらゆる人間、常識への怒りが込められている。
それと同時に、「まあ、どうでもいいけど」と投げ捨てるような無関心さも秘められている。
対となり得るであろう2つの感情だが、本来は誰しもが胸の内に共存させているものではないだろうか。納得がいかず怒っている、でもどうでもいいと投げ捨てられる。
それを等身大に歌っているのが清々しくもあるし、最も彼ららしいと感じる。 悪態をつく歌詞を追って、殺気や怒りを静かに感じながら聴くのもこのアルバムの楽しみのひとつだ。

幽玄なサウンドスケープに加え、構築的な音楽へ進化していることも、今作の聴きどころだ。
以前までは破壊衝動でひねり出された鋭利なサウンドとパワーに圧倒される音楽だったのが、今作では曲の始まりから終わりまで繊細に構築することで、まるで大自然を彷彿とさせるようなサウンドスケールを感じさせ、広大な世界を見せてくれるのだ。
インスト楽曲である「元旦」では、10分という長い時間をかけてルーティンワークが続く中、メロディラインが変わると、シンセや環境音が重なり合っていき、次はドラムのリズムが変わっていく。そういったあらゆる手法を使っては様々な変化を織り交ぜた展開そのものがとても美しく、聴き心地も良い。広大な景色という名の迷路に迷い込んで行くように、引き込まれていく。
今までのクラン・アイリーンを覆していく曲が続くなか、最後を飾る「Masturbation」では、ビートを刻むヘヴィーなドラミングや乾いたノイズサウンド、歪み出すボーカルと、クラン・アイリーンらしい一面もしっかり感じることができる。
適材適所の音選び、サウンドテクスチャー、Ryo Matsuyamaのボーカルとしての表現の広さ。新しい手法を取り入れたことで、以前のクラン・アイリーンとは別物となっている。
このアルバムはまさしく、新生クラン・アイリーンが生まれた瞬間であり、新しい彼らを象徴する作品といえるだろう。(pikumin)

【Release】

『Milk』
5月23日発売

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