現役高校生だった当時、著名なMCバトルの大会を制覇しながらも引退し、自主レーベルを立ち上げて活動を行っている新世代のヒップホップ・アーティストLick-Gが、初の全編英語詞の新曲「Takoyaki」をリリースした。さらにこの曲は彼の父親であり、宅録アーティスト・琵琶ウード演奏家でもあるHoodoo Fushimiと初の共同プロデュース作。様々な肩書を持つ彼の父親は一体何者なのか?初にして独占親子対談でその真相を明らかにする。

アーティスト:Lick-G(伏見絃)、Hoodoo Fushimi(伏見稔) インタビュアー:矢部友宏 撮影:樋口 隆宏

-それでは今日は親子対談ということで、絃(Lick-G:伏見絃)さんと稔(Hoodoo Fushimi:伏見稔)さんと呼ばせてもらいますね。まずは絃さんが音楽を始めたきっかけについて伺いたいのですが、稔さんからの影響はありますか?
Lick-G:自宅で音楽はかかっていたんですけど、「これを聴け。」って言われたことはほとんどなくて。そのかわりかかっている音楽のレベルは高くて洋楽をしっかり聴けるっていう耳は知らない間に鍛えられたのかもしれないですね。

-では当時、家でかかっていた音楽ってどのようなものだったのでしょうか。
Lick-G:(稔さんを見ながら)どうだろうね。
Hoodoo Fushimi:子供が小さい時はNHK教育の幼児番組を見たり、彼には姉がいるんですけど、幼稚園に入る前に面白がってザ・ビートルズやカーペンターズを聴かせたりしたら二人とも楽しそうにしていたんで、子供でもわかる西欧ポップ・ミュージックもあるんだなと思って。その後も自分からは音楽を聴かせることもなかったし、本人も音楽には興味がなくてずっとスポーツ大好き少年だったので。もしかしたら私の部屋でかかっていたファンクやUSラップは聴こえていたのかもしれないですね。

-ちなみに絃さんはどのようなスポーツをされていたんですか?
Lick-G:陸上とレスリングですね。

-レスリングをされていたんですか!スポーツの道に進むのではなくて、音楽をやってみようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
Lick-G:自分は基本的に飽き性なのでもしかしたらラップを始めた時も、いつかは飽きるのかなと思っていたんですけど、2~3年やっていく中で飽きがこないぞって自覚し始めて。デビューアルバムを出した後にこれ一本でやっていこうっていう気持ちになりました。それまでは飽きてないから続けているっていうだけでしたね。なので音楽は自分が進むべき道だって分かったのは最近です。

-では音楽でやっていこうって気持ちになれたきっかけはありましたか?
Lick-G:ふとした瞬間に、「今自分がこの場所に居るのは音楽があるからこそなんじゃないか?」って思う時があって。“Lick-G” というものがなかったら、自分を応援してくれているファンもいないわけだし、そう考えたら音楽がないと自己が確立できないなと思ってきて。
「この音楽で何か大きいことを成し遂げよう。」っていう覚悟が生まれたのがきっかけです。

-それではヒップホップを聴き始めたきっかけについても聞きたいと思うんですが、まずは稔さんって80年代に音楽活動と並行して歌詞の翻訳もされていたと聞きましたが。
Hoodoo Fushimi:私はもともと高校の英語教師をやっていて、帰宅後の夜中に宅録をやっていまして。学校現場でいろいろ感じる矛盾を歌詞にしたりしていたんです。ブルース・インターアクションズ(現在はP-VINE)でギル・スコット・ヘロンなどのブラックミュージックの歌詞も音楽活動と並行して翻訳も依頼されてやっていてました。当時のラップは政治的なメッセージも発信していましたし、とても新しい音楽で面白かったんです。シュガーヒル・ギャングやグランドマスター・フラッシュが出てきた頃ですね。

-その当時、日本のヒップホップカルチャーってどれくらいの知名度だったのでしょうか。
Hoodoo Fushimi:USラップを聴く人は少しはいたとは思うんですけど、当時はまだかなりマニアックな音楽でしたね。

-絃さんは稔さんがこういう活動をしていることを知っていましたか?
Lick-G:音楽を聴き始めた時に歌詞の翻訳をしているっていうのは聞かされたことがあって。
Hoodoo Fushimi:ヒップホップを聴き始めた頃で、レコードとCDをあげたんだよね。

-それはどういうレコードだったんですか?
Lick-G:それが中学2年のときだったんですけど、その時は2パックを始め、USヒップホップが中心でしたね。もらったものは全部パソコンに入れたんですけど、その頃はフリースタイルばっかやってたので、最初は敷居が高くて全部は聴けなかったです。気に入った一部の曲を聴く、みたいな感じだったかな。

-絃さんが最初にフリースタイルをやろうと思ったきっかけの曲ってありましたか?
Lick-G:実はそういうのはなくて。ラップを始めてから半年後くらいに最初に買った日本語ラップのCDも『24 HOUR KARATE SCHOOL JAPAN』っていうもので、コンピレーションなんですよ。なのであまり影響を受けたという感覚がなくて、面白そうだから自分でやり始めたという感覚が強いですね。

-それにしても中学生でよくフリースタイルを始めようと思いましたね。自分の中学生の頃はまだ音楽にあまり興味がなかった頃でしたよ。聴いていたのはゆずとか(笑)。
Lick-G:自分もそこまで音楽は聴いてなかったんですよ。小学校4年生の時にレディー・ガガを中心に一部の洋楽は聴いていたんですけど、ラップは楽器を使わないという意味では喋りの延長線にあるものだと思っているので、よくその歳で始めたねって言われることも多いんですけど、始めるのに知識が必要ないし喋るのが好きだから自然な流れで始められましたね。自分は面白いと思ったことはすぐにやってみるタイプなんで、次の日にはフリースタイルを始めてみるんですけど、いざやってみると言葉が詰まってしまったのを今でも覚えています。

-小学校で既にレディー・ガガを聴いていたんですか!!それでは稔さんが宅録を始めたきっかけについても伺いたいんですが、あるインタビューで宅録を始められたきっかけはポール・マッカートニー『マッカートニー』だそうで。
Hoodoo Fushimi:はい。話すと長いんですけど、学生時代は音楽の授業が苦手だったんですけど、中学に入って音楽を聴くようになって高校時代にバンドをやり始めて。もともと演奏のルーツはジミヘン(ジミ・ヘンドリックス)で、僕の永遠のアイドルなんです。ジミヘンの真似をして歯でギターを弾いたこともあるんですけど、前歯を欠けさせてしまって、いまだに補修した歯なんです(笑)。そこから宅録を始めたのは、いわば音楽的変わり者だったんで、音楽の趣味が合う人がなかなかいなかったんですよ。ポールの『マッカートニー』を聴いた時に、宅録でこういう音楽を作れるのはすごいなと思って。自分もこういうことをいずれやりたいと思っていた矢先で、徐々に自分でも手が届くような機材が出てきて。当時としてはまだ高価な機材だったんですけど、宅録をやる中でギターとベースは弾けるんだけれども、キーボードは自分でやらざるを得ない中で、色々と覚えながらやっていて。一番の問題はドラムで。スタジオでドラムの音を録ることもあったり、バスドラはサンプリングでやったり。家でも防音をすればスネアとハイハットまではいけるんですけど、色々と試行錯誤をしながらやっていて。そうするとようやくドラムマシンも出てきて、本格的に音楽を作れるようになってきました。最初にシングルを出したのが1983年ですから、82年には機材が一通り揃ったと思います。

-そうやって宅録で音楽を作っていく中で、当時は未知数の音楽だったラップミュージックをやってみようと思ったのはどうしてでしょうか。
Hoodoo Fushimi:とにかくラップのエネルギーにやられちゃって。1985年に出したアルバムにいくつかそういう要素を取り入れたんですけど、アルバムを作っていた83~84年に聴いていて、面白いから見様見真似でやったみたんです。それまでの自分のルーツはジミヘンなんですけど、同時にファンクなどのブラックミュージックも好きで。ヒップホップとファンクはルーツが似ていてから、すんなり入れたんです。ヒップホップは何でもアリだからそこがすごく良かったんですよね。

-ということはヒップホップが稔さんの性に合うっていたと。
Hoodoo Fushimi:まさしくそうです。これが自分のやりたかったことだと思って。

-ではそんなお二人が共同で音楽を作ったのは今回が始めてでしょうか。また何がきっかけで一緒にやってみようと思ったのですか?
Lick-G:今回が初めてですね。どんな感じで始まったっけ?
Hoodoo Fushimi:話の中で自然とやってみようかとなりましたね。

-実際に作ってみてどうでしたか?
Lick-G:今までは自分だけで作っていたんですけど、(稔さんが)作ってくれた音はとても満足がいくもので。自分が常にいろんなビートを聴く中で感じていた「こういう音だとしっくりこない」というのが全くなくて。本当に上手くハマるっていう感覚がありました。

-どういう過程で制作が進んでいったのでしょうか。
Hoodoo Fushimi:基本的なビートは私が作って、そこに彼の歌がのって、それに触発されて私の演奏を加えていきましたね。
Lick-G:(稔さんが)録った音を聴いて、音の配置はここにしようって具体的なことを決めていきましたね。

-それではそんなお二人が初めて共作された曲名が「Takoyaki」なんですが、どうしてこのタイトルにされたのでしょうか。
Lick-G:歌詞にバースの部分に“Takoyaki”って入れているんですけど、語感の良さで入れたんですよ。たこ焼きは日本の食べ物ですけど、海外でも知っている人が多いって聞きますし、面白いかなと思って。最初は“Sukiyaki”ってタイトルにしようと思ったんですけど、「スキヤキ」って曲がもう既にあるって知って、じゃあ「Takoyaki」にしようって(笑)。我ながら良いタイトルかなと。
Hoodoo Fushimi:歌詞については本人に任せて全く触れてなかったんですけど、坂本九の「スキヤキ」って曲があるのは知らなかったみたいで。でもアンサーソングみたいで面白いんじゃないかっては話はしましたね。今回は英語の曲だからこそ、タイトルだけでも日本に関係するものが良いんじゃないかっていう話もしました。

-絃さんはどうして今回、初めて英語の曲を作ろうと思ったのでしょうか。
Lick-G:前から作ろうと思っていました。昔から家庭内ではお母さんが何かを言う時に、一部の単語だけ英語で喋ったりすることがあって。例えば「冷蔵庫開けて」じゃなくて、「Fridge開けて」って言うような感じですね。日本でも日本語の中に英単語を入れる人は多いと思うんですけど、自分がそれをやるのは自然なことなんです。一昨年に出した『有題』っていうEPから英語を混ぜる比率が一層高くなったんですが、それもあくまで自然な流れで日本語でやりたければ日本語でやるし、英語でやりたければ英語でやるっていうだけというか。英語で表現したいものが増えてきたということと、なおかつ海外を巻き込みたいという気持ちが強くなってきたのがあって、今回はまるまる1曲英語でやりました。

-ということはお母様は海外の方なんですか?
Hoodoo Fushimi:はい。イギリス人なんですけど、大学で日本語を専攻していたんで、日本語能力試験1級を大学時代にすでに取得していて、日本に1年間留学もしていたんです。だから日本語はすごく上手いんですけど、たまに私よりも妻の方が日本に詳しかったりするんですよ、他にも数カ国語できるし言語的天才じゃないかと(笑)。子供たちが大きくなってから、意識的に英語も日常会話に入れるようになったんですけど、基本的には日本語で会話していますね。

-かなりグローバルな家庭で育ったんですね(笑)。
Lick-G:家庭によっては日本語が話せなくて英語が中心になったりすることも多いと思うんですけど、基本的に日本語で時々英語が入る程度っていうのは珍しいですよね。

-とても珍しいと思います。だからこういったスタイルになったんですね。実際にまるまる1曲英語で作ってみてどうでしたか?
Lick-G:この曲は聴きやすくてインパクトもあるし、分数も長くないんですけど、言葉遊びも分かりやすいし、単純過ぎないし、そこが良いバランスだと思っています。英語を知らない人でも語感が良いっていうのが分かると思うし、そこもポイントだと思うんで、国籍や言語は関係なく楽しめる作品かなと思いますね。

-それでは「Takoyaki」をどんな人に聴いて欲しいと思いますか?
Lick-G:(稔さんを見て)どう?
Hoodoo Fushimi:やっぱり海外を意識しているよね。ここにきて面白いと思っているのが配信の時代で、これからはユニバーサルな聴かれ方をするんだなと思っていて。盤が売れなくなったっていう問題もあるんですけど、世界的なつながりは増えているからこそ、こういう曲が良いんじゃないかと思います。だから日本だけでなく、海外でも広く聴かれたら良いなと思います。例えばラップだけじゃなくて琵琶や尺八の音も入っているっていうおかずがたくさん入っている幕内弁当みたいな感じで楽しんでもらえたら良いですね。
Lick-G:英語だから国際的に聴いて欲しいし、かといって日本を捨てている訳では全くないので、日本の人にも聴いて欲しいですね。ストリーミングの時代だからこそ、例えばSpotifyの有名な公式プレイリストに入れば、一気に全世界に広がる可能性はあると思っています。「こんな曲があったんだ」っていう感覚で世界中の人に聴いて欲しいと思います。海外でのライブもやりたいですね。
Hoodoo Fushimi:今回は音楽的に自分の色を抑えたトラックを作ったんで、本人の最近聴く音楽を意識して作ったんですけど、もっともっと自分の素を出せば民族的な楽曲になるんですけど、ひとます今回の曲がどういう反応になるのかは楽しみですね。

Takoyaki
Takoyaki

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『カラス・ステイズ』
2019年2月10日配信開始(※配信限定)
ダウンロードはこちら
収録曲:
1. Karasu
2. We Stay High
3. Karasu (Instrumental)
4. We Stay High (Instrumental)
クレジット:
Karasu (Written by Lick-G, Produced by Lick-G and Hoodoo Fushimi)
We Stay High (Written by Lick-G, Produced by Lick-G)