最終更新: 2021年1月22日

一聴してすぐに聴くものを魅了した、そんな即効性のあった3rdアルバム『Starboy』から約4年ぶりのリリースとなった4thアルバム『After Hours』。

今作はThe Weeknd(ザ・ウィークエンド)の超個人的なこだわりと遊び心が溢れ、様式美を極めた作品だと言えよう。

音の細部まで聴きとらなければ、全体像を掴むことはことはできない。

そのため、スマートフォンのスピーカーで視聴することはおススメしない。

イヤフォンやヘッドフォン、もしくは環境が整った空間で音楽と向き合ってはじめてその凄さと対面することができる。

極めてマニアックな仕上がりとなった新作アルバム『After Hours』が一体どのような仕掛けで聴くものを楽しませるのか、語る前にまずは彼について。

The Weekndとは

TheWeeknd
The Weekndことエイベル・テスファイ。カナダはスカーバロー出身のR&Bシンガーである。

これまで3度の“グラミー賞”受賞歴を持つ彼は、2010年にYouTube上にてデモ音源をアップし、キャリアをスタートさせる。

2011年には初のミックステープ『House Of Balloons』を無料でリリース。

その後、カナダ出身のラッパーDrakeのアルバム『Take Care』への参加やAriana Grande、Beyoncéらとのコラボを果たす。

そして、2018 年4月には“コーチェラ2018”にてヘッドライナーを務める。同年12月にゲストに米津玄師を招聘し、幕張メッセにて初来日ライブを開催。

アルバム作品としては、これまでに『Kiss Land』(2013年)と『Beauty Behind the Madness』(2015年)、そして『Starboy』(2016年)の3作品を発表している。

R&B由来、透明感のあるハイトーンボイスを武器にアンビエントやダークウェイヴ、チルウェイヴといった多要素を練り合わせたサウンド。セックス&ドラッグを醸し出す歌詞。

それらを手繰りながら、美声を震わせてきた。

最もポップなアルバム『Starboy』

Starboy [12 inch Analog]

The Weeknd史上、もっともポップに振り切った作品となっている前作『Starboy』。

FutureやKendrick Lamar、LANA DEL REYといった大物たちが多数参加している。

中でもDaft Punkとのコラボで、人気曲の1つである「I Feel It Coming」は白眉であり、新機軸を打ち出した1曲。

Daft Punkの代名詞である宇宙空間的な広がりを魅せるエレクトロポップとダークウェイヴとの邂逅。

絶妙なテンポ感の中で先鋭さと郷愁が入り混じった絶妙なバランス感で紡がれるミディアムバラードは、横ノリで体を揺らしながら感傷に浸らせる魔力を持つ。

革新性のある新作アルバム『After Hours』

After Hours [Clean]
アンビエント然として静かに幕をあける今作『After Hours』は前半と後半とでまるっきり印象が異なる。

前半部分は、不規則なリズムや倍音、ノイズなどを多用した電子音響。

そして、ボイスエフェクトやウィスパーなど多数のヴォーカルアプローチを聴くことができる。

インダストリアルからニューエイジまで厳かな雰囲気を保ちつつ前衛的な音楽を展開する。

「Hardest To Love」がその最たる例だ。

幻想的で快活なヴォーカルに、まるでAphex Twinの「Girl/Boy Song」のサンプリングのように流麗なドラムンベースが絡みつき耳から離れない。

オルタナティヴR&B「heartless」

そうして多面的に聴覚を刺激しながら中盤に据えられた「heartless」。

ここから一気にギアチェンジしていく。

これまでの音楽性を集結させたようなオルタナティヴR&Bに仕上げてきたこちらは、脳まで震わせるバスドラムとハイトーンボイスがぶつかり合う。

前半部分とは音が格段に太くなり、立体的になる。

“Never be a weddin’ plan for the heartless/ Low life for life ‘cause I’m heartless”

といった自暴自棄な言葉締めくくられる陰鬱なリリックであってもこちらも伸びやかなヴォーカルで、開けた印象を感じさせる。

アルバムの1曲目にもってきてもいいくらいに躍動的であるのに、この流れで先行曲でもあるこの曲を持ってくるとは実に憎らしい演出だ。

80年代シンセウェイヴ風の「blinding lights」

エンジンがかかりだしたころに登場する「blinding lights」は、80年代シンセウェイヴ的なサウンド。

覚醒したように意気揚々なヴォーカルで、ピークに達する。まさに躁状態、突飛な曲だ。

“Maybe you can show me how to love, maybe/I’m going through withdrawals”

相変わらずのセックス&ドラッグを感じさせる歌詞を描きながらのハイテンション。こちらも痛快なものとなっている。

このように静的な前半と動的な後半。2面性があるのも今作の特徴である。

しかし、どの曲を聴いても音とヴォーカルの手捌きが鮮やかである。前作のようなド派手さはなくとも情報量の多さと斬新さは随一。

4thアルバム『After Hours』は、閉塞的な空間でこそ本領を発揮する作品だが全てを掴んだときに無限の広がりを持つ。

天性の歌声を持ちながらあぐらをかくことなく、己の音楽への探求心を突き詰めた今作は、前衛芸術だと表現したくなるほど美しく、革新性をもった大作である。

アルバムリリース

4thアルバム『After Hours』

After Hours [Clean]
After Hours [Clean]

posted with amachazl at 2020.03.21
ザ・ウィークエンド
Republic Records (2020-03-20)

収録曲:
1. Alone Again
2. Too Late
3. Hardest to Love
4. Scared to Live
5. Snowchild
6. Escape from L.A.
7. Heartless
8. Faith
9. Blinding Lights
10. In Your Eyes
11. Save Your Tears
12. Repeat After Me (Interlude)
13. After Hours
14. Until I Bleed Out

3rdアルバム『Starboy』

Starboy [12 inch Analog]
Starboy [12 inch Analog]

posted with amachazl at 2020.03.21
Weeknd
Republic (2017-02-10)

収録曲:
1.Starboy feat. Daft Punk
2.Party Monster
3.False Alarm
4.Reminder
5.Rockin’
6.Secrets
7.True Culors
8.Stargirl Interlude feat. Lana Del Rey
9.Sidewalks feat. Kendrick Lamar
10.Six Feet Under
11.Love To Lay
12.A Lonely Night
13.Attention
14.Ordinary Life
15.Nothing Without You
16.All I Know feat. Future
17.Die For You
18.I Feel It Coming feat. Daft Punk

2ndアルバム『Beauty Behind the Madness』

Beauty Behind the Madness [12 inch Analog]
Weeknd
Republic (2015-12-11)

収録曲:
1.Real Life
2.Losers [ft. Labrinth] 3.Tell Your Friends
4.Often
5.The Hills
6.Acquainted
7.I Can’t Feel My Face
8.Shameless
9.Earned It (Fifty Shades of Grey)
10.In the Night
11.As You Are
12.Dark Times [ft. Ed Sheeran] 13.Prisoner [ft. Lana Del Rey] 14.Angel

1stアルバム『Kiss Land』

Kiss Land (Seaglass) [12 inch Analog]
The Weeknd
Republic (2018-09-14)

収録曲:
1.Professional
2.The Town
3.Adaptation
4.Love In The Sky
5.Belong To The World
6.Live For feat. Drake
7.Wanderlust
8.Kiss Land
9.Pretty
10.Tears In The Rain

Youtube

The Weeknd – After Hours (Audio)

The Weeknd – Blinding Lights (Audio)

The Weeknd – Heartless (Audio)

ライター:滝田優樹

北海道苫小牧市出身のフリーライター。音楽メディアでの編集・営業を経て、現在はレコードショップで働きながら執筆活動中。猫と映画観賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
Twitter:@takita_funky

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