最終更新: 2021年8月9日

アーティストは“炭鉱のカナリア”のようなものだと思う。

昔、炭鉱では毒ガス検知のためにカナリアの特性が用いられ、いち早い危険察知に役立ったと言われている。

これは音楽を始め、芸術分野で活動しているアーティストにもそのまま当てはまる。

今回のコロナウイルス拡大に伴う、私たちの身の周りに起こりうる危機に警鐘を鳴らし、芸術分野の助成にいち早く動き出したのは彼らであった。

実際、#SaveOurSpaceという政府の自粛要請に対する助成を求めた署名活動は30万を超え、国会をも動かす大きな注目を集めた。

これらの状況を踏まえて、BELONGでは音楽メディアとして何ができるのか、音楽情報を発信する以外で、この状況を少しでも周知し、改善できる方法はないか考えてみた。

その結果がこのインタビューである。

今回、私たちは#SaveOurSpaceの発起人であり、デビュー当時よりやり取りのあったyahyelのメンバー篠田ミルに緊急メールインタビューを行った。

この状況を受けて、私たちにできることは何なのか?

まずは一つ深呼吸して篠田の訴えに心を傾けてほしい。

私たちの未来を変えるために。

#SaveOurSpaceとは


アーティスト:篠田ミル インタビュアー:桃井 かおる子、yabori

#SaveOurSpace のことを知らない人も多くいるかと思うので、まずはあらためてその活動趣旨について教えて下さい。
篠田ミル:新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、ライブハウスやクラブなどの文化施設は、クラスター発生源になりうるとのことで、初期から名指しで自粛要請を政府から受けてきました。ライブハウスやクラブはその性質上、いわゆる3密(密集・密閉・密接)の定義に該当するので、できる限り営業の停止や縮小という対応を行ってきました。ただ、体力のない小規模のお店が多く、この影響を受けて廃業危機に直面しています。したがって感染拡大防止のためにお店を閉めたくても経営のために営業せざるをえず、多くのお店が”自粛”と”経営”の間で苦しんでいるというのが現状です。
#SaveOurSpaceはこの現状を受けて、感染拡大防止のために、全てのお店が安心して営業自粛を徹底するために、政府からお店への金銭的な支援を求めて活動を開始しました。当初は、我々に馴染みのあるスペースであるライブハウスやクラブや劇場などを念頭に置いてましたが、同様の問題は、飲食店や宿泊施設や映画館などのあらゆる娯楽施設にも及ぶ問題であると認識を改め、現在では、あらゆるスペースに対して政府から自粛のための十分な金銭的支援が与えられることを求めて活動しています。

#SaveOurSpaceを立ち上げたきっかけ

-今回の活動の発起人として篠田さんの他にもLive Haus店長・スガナミユウさん、DJ・Mars89さんがいらっしゃいます。皆さんはどのような経緯で繋がり、#SaveOurSpaceを立ち上げられたのでしょうか?
僕、Mars89くん、Larkchilloutさんで現状に対して何かできないものかと相談していたところ、DJ NOBUさんからも何かしましょうというお声がけをいただき…。まずは議員会館に赴いて議員さんに相談しましょうということになり、その過程で「ライブハウスの声もあったほうがいい」とのことでLarkchilloutさんがスガナミさんを誘い…といったかんじです。個々に危機感を抱いていた人間が、成り行きで自然発生的に集まってこうなりました(笑)。

篠田ミルが行動を起こしたきっかけ

篠田ミル
#SaveOurSpaceの旗揚げ以前の昨年10月末、篠田さんはMars89さんと共に“ダンスは抵抗である”というテーマの自由参加型移動式イベント・プロテストレイブを行って、渋谷の街を大いに沸かせました。今回の活動にはそこで得た経験なども関係しているのでしょうか?
直接的な関係としては、そもそも#SaveOurSpaceが立ち上がる少し前に、DommuneでRefreedom Aichiさん主催の「空気・アンダーコントロール」という番組がありまして、そこにプロテストレイヴとしても出演していたのですが、そこでコロナ状況下での、”自粛”という空気が孕む問題についてお話させていただいたりして…。そこから、何かしなきゃねということになり#SaveOurSpaceに繋がっていきました。
プロテストレイヴ自体は特定の政治的イシューは掲げず、“ダンスを通じて各個人がそれぞれの身体や声を取り戻す”ということを趣旨に活動しているのですが、これには社会や政治に対して一人一人が自分の頭で考えて行動や発言することがもっとできるような社会になればいいなという意図があります。
コロナ状況下で、「政府に対して批判するな」という声も上がっていますが、こんな状況下だからこそ、普段以上に各個人が自分の頭で考えて、間違っていることに対して間違っていると声を上げていくべきだと思います。それぞれが声高に権利を主張することは民主主義の大原則ですし、これまで私たちはそのことをサボってきたツケを今払っているのだということを胸に刻んで、声を上げなければいけないと思います。だってお肉券もお魚券もマスク二枚も性風俗産業に従事する人が給付から排除されてるのも、全部おかしいじゃないですか…。

-篠田さんご自身もyahyelのメンバーとして活動されていますが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う自粛要請の影響で音楽活動の機会が減り、危機感を感じられているかと思います。ご自身や周囲では具体的にどのような変化が起きていますか?また現場からはどのような声が上げられているのでしょうか?
自分に関して言えば、出演を予定していたイベントはとりあえず5月くらいまでは大方すべてキャンセルになりましたね…。周りの皆さんもだいたいそうだと思います。
アーティストも大変ですが、それ以上にいわゆる裏方(音響エンジニア、照明エンジニア、機材屋さん、イベンター…etc)の皆さまがたいへんな苦境に立たされているという話は身の回りでもすごく伺います。皆さんフリーランスや小規模の会社という事業形態なので、2月末から5月くらいまでの仕事が軒並み吹っ飛ぶ=収入ゼロという状況なので…。

-(上記に関して)自粛要請を受けて臨時休業などの措置を取っているライブハウスや劇場が増えている中、イベントをの強行突破に踏み切る現状をどのように思いますか?
これは非常に気の毒だと思います…。補償があれば、安心してイベントを中止できるのですが、補償がない中イベントを中止すると、事業が立ちいかなくなったり、多額の負債を抱えたりということになる場合が多いと思うので…。
苦渋の選択を皆さん迫られていると思います。
死に至る可能性のあるコロナウイルスが蔓延する中、外出自粛したいというのは皆さんに共通することで、それでも多くの人が外出して働かざるを得ないというのは、モラル以前の問題であり、それは格差や貧困の問題で、補償の伴わない自粛要請ではそれは解決しないと考えます。

-また篠田さんご自身も、主催者側の趣旨に賛同できる場合のみ、そのイベントに出演しているという内容のお話しもされています。その際は、どのような気持ちで出演されているのでしょうか?
3月半ば以降、僕が出演を予定していたイベントはすべて中止になって、今のところそのような機会は無いですが、また今後あってもコロナの状況次第だとは思いますが、少しでも主催者やお店に金銭的に還元できるような形で出演できればとは考えております。

問われる文化・芸術のあり方

-政府は、収入に一定水準の落ち込みが見られる場合に一世帯あたり30万円の現金支給を計画しているという報道もされていますが、音楽や芸術に携わる人や場所への具体的な支援策に関しての政府からの発表はありません。(※4月5日に個人事業主に最大100万円の現金給付を検討との報道あり)対照的にイギリスやドイツ、アメリカでは、音楽芸術分野に携わる人々に既に手厚いサポートがなされています。欧米諸国と日本で対応にこれだけの違いが出るのはなぜだと思いますか?
ひとつには、あらゆる業種の人に対して経済的な補償を出すというのが、感染拡大防止のために必須であるということが理解されていることがあるでしょう。あらゆる人が安心して自宅に居られる状態を作らないことには、感染拡大防止は十分に達成されない、そのことが理解されているからこそ、フリーランスや小規模の事業者が多い、文化・芸術業界への支援が別立てでなされているのだと思います。
もうひとつには、このような状況下においてこそ、文化や芸術が、人々の共同体意識を支え、この困難を乗り越えるために必須であるということが広く理解されていることにあるでしょう。人々が、先行きの見えない中自宅に隔離されている状況下で、芸術や文化は、人々に連帯感や希望や安息を与える効果を持っているはずです。この状況下で、人々の自宅での精神的な生活を支えているのは、音楽や映画や本などのあらゆる文化的な所産だと思いますし、本当に芸術や文化が人間の生存にとって必要ないものなのかどうか今一度よく考えるべきだと思います。(もちろん本来は、芸術や文化が何の役に立つかとか、そういう議論は避けるべきですが…。)

ドイツ政府「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要なのだ」大規模支援(ニューズウィーク日本版)

-(上記に関して)日本には多彩な文化・芸術が多く存在する中、政府はそうした分野を国内外に広く伝える活動に力を入れていても、そこに携わる人や場所への支援は手薄である印象を受けます。篠田さんはyahyelで海外でのライブ活動も展開されていますが、欧米諸国は文化・芸術をどのようなものとして捉えているように思いますか?また、篠田さんから見て、日本にとって芸術文化はどのような位置づけにあると思いますか?
先ほどの答えとも重複する部分がありますが、我が国では“文化・芸術”といったものが、生活や経済や政治から遠くにあるものとして認識されているような気がします。「音楽に政治を持ち込むな」とか「アーティストなのだから経済的なリスクを受け入れろ」という言説の背景には、“文化・芸術”は、金銭やイデオロギーに還元されない純粋な“芸術的精神”なるものの所産で、浮世離れした崇高なものであり、つまり生活や政治と切り離されたものであるべきだ、という認識があるように思われます。

今、私たちができること

-最後になりますが、私たちリスナーがこうした音楽芸術文化の現状を支えるためにできることがあれば教えて下さい。また、篠田さんはじめアーティストからリスナー側にお願いしたいことがあれば教えて下さい。
とにかく間違っていると思うことがあれば臆せず声を上げて欲しいです。
署名、SNSでの発信、友人や家族に伝えるなど、それぞれにできる声の上げ方はたくさんあると思います。
実際、#SaveOurSpaceに寄せられた30万筆の署名が持つパワーは、政治家を動かし、実際に国会で取り上げられたので、政策に何らかの形で繋がっていくと思います。また当初、給付金から除外されていた性風俗業の人にも、たくさんの人がネット上で声を上げた結果、給付金が出るようになりました。声をあげれば、政治や社会はちゃんと動きます。
政治や社会に対して一人一人が声をあげるのは民主主義の大原則で、政治や社会を少しでもマシにするにはこのトライ&エラーしかないと思います。
批判というのは議論のためのツールであって、より良い結果にたどり着くために必要不可欠な行為です。だから、「政府に対して批判するな」という声は、最善の結果をもたらす可能性を放棄しているものであって、ただの政権擁護のための詭弁です。
最善の結果にたどり着くためには、批判こそが今一番必要なことだと思います。だから、どうか皆さん議論になることを恐れずガンガン声を上げてください。声は力です。
あとは、選挙に行きましょう…。マジで…。

#SaveOurSpaceその後

#SaveOurSpaceアンケート
#SaveOurSpaceがライブハウスやクラブなど400店舗を対象に実施した現状調査のアンケート結果。回答した60%が“半年持つか分からない”という結果になった。
篠田ミルが語る #SaveOurSpaceの記事を掲載してはや半年以上が経過した。

新型コロナウイルスは終息の気配をみせるどころか、第二波が押し寄せている状況である。

その折、#SaveOurSpaceから一般社団法人ライブハウスコミッション、クラブとクラブカルチャーを守る会などにアンケートを実施し、その結果が公開されている。

結果は想像以上に厳しいもので、回答したライブハウス・クラブの60%が半年持つか分からないという回答であった。(2020年11月8日)

代表からのコメント

#SaveOurSpaceが行ったアンケートについて、加藤梅造(ロフトプロジェクト代表)がコメントを発表している。

“今年2月にイベント自粛が要請されてから約半年後のライブハウス/クラブの現状を調査した結果、予想以上に厳しい現実が数字とコメントで明らかになりました。  売上は4月、5月は9割から10割減、自粛要請が解除され営業が再開した6月19日以降も7~9割減の状況が続いています。思うようにライブができない中、多くの店が始めたオンラインのライブ配信も、その売上げは従来の10%程度です。国や自治体からの支援も行き渡っておらず、とても十分とは言えません。今の状態が続いた場合の見通しとして、5割以上の店が半年もたない、そして実に9割以上のライブハウスが1年もたないと答えています。  一般的にライブハウスやクラブは小規模経営の店舗がほとんどで、出演するアーティストはもちろん、音響・照明・舞台など関わるスタッフもフリーランスが多く、なかなか実態が見えずらい業界ですが、今回のアンケートからは「もう限界値に来ている」という悲鳴にも近い現実が見えてきます。冬場を迎え、再び事態が悪化しないかという恐怖に脅えながら、それでも多くのライブハウスやクラブが踏ん張っているのは、いま音楽が鳴る場所を絶やすわけにはいかないという切羽詰まった思いだけなのかもしれません。政府や自治体にはこの状況を迅速に改善できるような実行性のある政策の実現を望みます。”

引用元:いま音楽が鳴る場所を絶やすわけにはいかない。 #SaveOurSpace ライブハウス「半年もつか分からないが60%(8月調査時点)」 アンケート集計結果(Excite News)

署名活動継続のお知らせ

#SaveOurLife
#SaveOurSpaceでは#SaveOurLifeと称し、100万人を目標に署名活動を継続しており、現在は44790人が署名している(2020年11月8日現在)。

私たちが音楽を楽しめる場所や音楽家が活動できる場所が絶えることのないよう、是非、署名を読者の皆さんにお願いしたい。署名は#SaveOurSpaceのページにて。

下記、#SaveOurSpaceからのコメント。

“【#SaveOurLife 〜命と仕事を守り続けるために〜 署名活動継続のお知らせ】

ご署名、ご賛同、呼びかけにご協力いただいている皆様、ありがとうございます。4月27日(月)の午前、政府・与野党連絡協議会へ要望書と現時点での署名を提出いたしました。私たちは、100万人の署名を集めるために引き続き署名活動を継続します。

署名活動を始めてから、お電話やメールなどで様々な職業の方々とやりとりをしてきました。そこには沢山の命と仕事があるのだということを改めて実感しました。労働組合や商店街、各業界、お店、従業員、フリーランス、それぞれの文化やお店を愛する人たち。

今まさに繋がり始めています。すべての人が当事者です。緊急事態宣言期間中のテレワークや休業の中でも、団体として、お店として、署名の賛同に加わることを検討していただいています。少しずつ動き始めています。ここで止まるわけにはいきません。

「100万人の目標の意味とその署名の効力」

新型コロナウイルスの感染拡大は、すべての人にふりかかっている問題で、終息の見通しが立っていません。助成の内容に異を唱えるとき。緊急事態宣言が延長になったとき。補償なき自粛要請が続くとき。感染の拡大が止まらないとき。本来必要のない分断が続くとき。

どの局面においてもこの署名は意味を発揮します。100万人の声は、絶対に無視できません。これからの時代は私たち市民が政治を動かしていきます。

すでに、劇場やライブハウス、クラブなど文化施設の救済を主とした署名だけで30万筆以上が集まり、連帯する、SAVE the CINEMA (小規模映画館への支援を求める署名活動)では7万7000筆以上が集まっています。

私たちSaveOurSpaceは、新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大防止のなかで、日本に住むあらゆる人々の職を守り、継続的な助成を国や地方公共団体に求めるために活動を続けていきます。その証が、これまでの署名、そしてSaveOurLifeが持つ力になります。署名以外にできることは沢山あります。

SNSはもちろん、あなたの連絡先に登録している人たちへの呼びかけや、直接の声がけで誰かが救われます。家族、友人、商店街、行きつけのお店、そこへ集まる人々、地元の知人や馴染みの店。そして、ひとりひとりが自分の意思をメールなどで、政府、国会、各省庁、地方公共団体へ伝えましょう。私たちの預けている税金を有効に使ってもらいましょう。

誰かに託すのではなく、個として考え、動く。ひとつにまとまる必要はなく、それぞれが自分の生活圏を守っていく。その先に連帯があります。声をあげ続ければ、政治が動くということが証明されつつあります。何も言わなければ変えることはできません。自分たちの存在と意思を可視化しましょう。

#SaveOurLife

#命と仕事を守ろう”

引用元:新型コロナウイルス感染拡大防止に努めるあらゆる人の仕事と生活を守る継続的な支援を求める署名【受付中!】(#SaveOurSpace)

プロフィール

篠田ミル
篠田ミル / Miru Shinoda
yahyelのメンバーとしてサンプラー/プログラミングを担当する傍ら、DJ/コンポーザーとしても活動。テクノを軸にインダストリアル〜ベース〜エクスペリメンタルを横断するハードなDJセットを模索している。また、プロテストレイヴ、D2021といったイベントの企画・運営を通じて社会問題や政治参加に関するメッセージの発信も積極的に行う。
HP:http://yahyelmusic.com/
Twitter:@shinoda_man

Youtube

新型コロナウイルス感染拡大防止のため営業停止を行う文化施設に対する助成金を求める記者会見
登壇者:篠田ミル、スガナミユウ(LIVE HAUS) 、Mars89、Licaxxx

ライター:桃井 かおる子

スマホ、SNSはやっておらず、ケータイはガラケーという生粋のアナログ派。

ライター:yabori
yabori
BELONG Mediaの編集長。2010年からBELONGの前身となった音楽ブログ、“時代を超えたマスターピース”を執筆。

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・​後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻

これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。

過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。

それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行してきた。

現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。

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Twitter:@boriboriyabori