2020年1月16日、衝撃のニュースが駆け巡った。

ラッパーのKOHH(コー)こと千葉 雄喜が、その日に行われた3部構成ライブ“KOHH Live in Concert ”にて次回作(『worst』)をもって引退することを発表したのだ。

ありのままの感情とできごとを歌詞にして、どこに転ぶかわからないフロウに乗せるスタイルは国内外問わずファローされている。

宇多田ヒカルやONE OK ROCK のTaka 、Frank Oceanといったアーティストたちとの共演がその象徴だ。

また、その生きざまや奇抜なファッションスタイルは業界をこえてカルチャーシーンからも注目を浴びていた。

そんなKOHHがいきなり引退を宣言したのだ。信じられるはずがない。

今回は、なぜKOHHが引退に至ったかを先日リリースされたラストアルバム『worst』を通して考察する。

KOHHとは

KOHH
KOHH(コー)こと本名、千葉 雄喜。1990年生まれの、東京は北区王子出身のラッパーだ。

韓国人の父と日本人の母を持ち、KOHHという名前は父の名字から付けられたものである。

数々のファッション誌の表紙やパリコレをはじめとする多くのショーモデルを務めるなど、音楽以外での分野においても活躍する。

18歳ころからラップをはじめ、まもなくしてSIMONのプロデューサーやARCAのクリエイティブ・ディレクターも務めた、

318こと高橋良が立ち上げた“GUNSMITH PRODUCTION”と契約を結ぶ。

これまでのリリース

UNTITLED

2012年にミックステープ『YELLOW TAPE』を発表し、多くの注目を浴びる。

その後、2014年にはデビューアルバムにして2ndアルバムである『MONOCHROME』をリリースする。(先に完成していた1stアルバム『梔子』は2015年にリリースされた)

コンスタンスにミックステープとアルバム作品を発表し続けたKOHH。

ほぼ毎日、その日の出来事やその時々の感情をラップに乗せ、フリースタイルで記録している。

基本的に作曲はその延長で、意識的に曲を作っているというよりは日記をつけている感覚に近い。

そのため、フロウは子供の作った紙飛行機のように不安定なフライトであるし、リリックに自主規制も干渉もなくありのままである。

「I’M DREAMIN」(『MONOCHROME』収録)や般若の楽曲に客演した「家族 feat. KOHH」では少年期の家庭環境を描き、

「I’m Not a Rockstar」(『DIRT II』収録)や「毎日だな」(『YELLOW T△PE 3』収録)などではライフスタイルや生き様、野望を淡々と告げる。

パンチライン豊富な歌詞

また、にやりとしてしまうパンチラインが多いこともKOHHのチャームのひとつだ。

“適当な男 ジュンジタカダ/見習って楽しめこの生き方/

意味がないようで意味がある”(『YELLOW T△PE 2』収録「JUNJI TAKADA」)

“アメリカと日本 繋がるiPhone/ありがとスティーブ・ジョブズ/

真っ赤なりんご/椎名じゃない方“(『Untitled』収録「Imma do it」)

ミックステープ

ニューオーリンズのラッパーLil Wayneからはじまり、アトランタのYoung Thug、シカゴのChance The Rapperらの代名詞ともいえるミックステープ。

どうしてもアルバムという形では明確なコンセプトを求められたり、収録時間の制限だったり、縛りが生じたりする。

定義は曖昧ではあるが、ただ自身の音源をまとめただけの自由度の高いミックステープは、より気軽に楽曲をアップできるSoundCloudやストリーミングサービスとの相性がよかった。

そのためそれらが普及した10年代にラップがメインストリームを席巻するひとつの要因ともいわれている。

そして、他人の楽曲トラックを使用したビートジャックやフリースタイルで作曲を行うKOHHにとっても相性がよかった。

恣意的かはわからないが、KOHHはミックステープでの作品リリースを取り入れて、日本国内はおろか海外での人気も獲得していった。

宇多田ヒカルの6thアルバム『Fantôme』の収録曲「忘却」への客演やFrank Ocean「Nikes」の『Boys Don’t Cry』バージョンへの参加、

マライア・キャリー「Runaway ft.KOHH」などがその代表だ。

KOHH Live in Concert

worst -Complete Box- CD+Blu-ray

KOHHのライブについても紹介させていただきたい。

これまでホールワンマンやフジロックへの出演、88rising主催北米ツアー「88 DEGREES & RISING TOUR」への帯同など、多くのステージ経験してきた。

そのなかでも“フジロック2019”と2020年にLINE CUBE SHIBUYAにて開催された“KOHH Live in Concert”は特筆すべきものである。

“フジロック2019”はホワイトステージ、2番目に大きい屋外ステージでの出演。その映像演出にRhizomatiks Research(ライゾマティクス・リサーチ)を迎え、エフェクト映像を背にパフォーマンスが行われた。

“KOHH Live in Concert”でも映像演出をRhizomatiks Researchが手がけた。さらにDJセットとバンド編成、そして24名の弦楽器奏者によるストリングスセットの三部構成で開催された。

最新技術を取り入れ、演奏形態にも工夫を凝らしながら自身の楽曲の特性を見極めながら自分にとっても、オーディエンスにとってもより良い形というのを模索してきた。

引退アルバム『worst』

worst

そしてKOHH、最後の作品とされる6作目のアルバム『worst』。『worst -Complete Box-』には“KOHH Live in Concert”の映像を収録したBlu-rayが付いている。

“最後の作品とされる”と記したのには“KOHH Live in Concert”でのMCにて“次の作品をもってKOHHとしての活動を引退する”という発言を受けてのことだ。

その模様はNHKのドキュメンタリー番組『シブヤノオト Presents KOHH Document』でも放送され、引退は公の事実。

だが、明確な引退時期は明かされていないほかKOHHという名義ではなのかは定かではない。

何より、“KOHHがこんなにあっさり引退するのか?”という疑問もある。

上記の番組内では公表する予定のない新曲も制作されていた。

アルバム収録曲はこれまで録り貯めてきた曲で、この『worst』リリースのために制作された楽曲はない。

これらを踏まえて、今作をどのように捉えていいのか悩ましいところだ。

しかし、ストック曲を収録して発表することがKOHHにとっての引退であり、ラストアルバムとするのならば、その楽曲たちを解明することこそが真意を汲み取る最良の方法だろう。

日々、日記のように思いや感情を記録してきた楽曲だからこそ――。

『worst』はSkrillexやドレスコーズ志磨遼平らがアレンジなどで参加。

既存曲に手を加えず、そのまま収録したわけではない。

Skrillex参加の「Sappy」

聴いてすぐにSkrillexが参加したとわかる「Sappy」。特に後半においてはEDM様式のブレイクビーツ全開だ。

“将来の夢はニート 何にもしないで息を吸う 自由”

余談だが、過去曲のリリックにも頻出する“カートコベイン”のNirvanaにも同名曲は存在する。

「Rodman」の意味

咳き込む音や鉄琴のような音がアンビエントの響きで奏でる「Rodman」。“Rodman”とは、悪童と呼ばれたNBA選手のデニスロッドマンことである。

“俺みたくはなるな 誰にもなれないから俺みたくはなるな まるでデニスロッドマン”

「まーしょうがない」(『Untitled』収録)のリリック “KOHHみたいな人 増えているらしい 俺のせいじゃない”に対する回答ともとれる。

「シアワセ (worst)」

不穏なトラックと悲鳴を上げるストリングスが耳を引く「シアワセ (worst)」。

“幸せすぎ”と歌いながら

“君だけに見せる 君だけ知っている 特別な関係 俺たちは最低

言いたいけどちゃんと 持ってく墓まで 地獄へ行ったあと 神様に懺悔”

と打ち明ける展開はどこかわけありな雰囲気だ。

志磨遼平参加の「Is This Love」

「Is This Love」は、志磨遼平がギターで参加のアコースティックナンバー。ギターとラップのみのシンプルな構成だが、純愛そのものを描いた歌詞にぐっとくる。

“君のこと泣かせたあの日 すぐにごめんって言えなかった それなのに君は許してくれた

This is Love Is this love? これは愛? 痛い愛”

前にクレジットされる「シアワセ (worst)」の後日談なのではないか?というのは勘ぐりすぎだろうか。

「They Call Me Super」

スーパースターに憧れてきたKOHHがスーパースターと呼ばれるようなったこと、それでも居心地がいいのはいつもの場所だと歌う「They Call Me Super」。

“クラブで酒よりあの子んちで見るDVD 高級ホテルより昔からの友達んち

知らない有名人よりいつもの仲間達 何十億人いる人間のうちの一人”

「They Call Me Super」の曲後半部分では1stアルバム『梔子』に収録された「Far Away」のサビがギターとホーンで奏でられる。

「Far Away」はKOHHが幼いころに亡くなった父に向け、感謝を述べこれからの成功を誓った曲である。

このように、歩んできた道のりと今を照らし合わせて終幕を示唆する。

千葉雄喜の「手紙」

KOHH – 6th album『worst -Complete Box-』Trailer

そして最終曲「手紙」だ。この曲は“KOHH Live in Concert”で引退表明と共に披露した新曲であり、題名通りの手紙である。

そのため全文転載させていただく。

“大ママへ
面と向かってだと恥ずかしいので手紙にします。
とりあえず、今まで育ててくれてありがとう。
大ママはおばあちゃんだけど俺にとってはお母さんです。
俺が4歳か5歳ぐらいの時、
家のベランダで俺をおんぶしながら子守唄を歌ってくれたのを
今でもはっきり覚えてます。
そのおかげで、子守唄を聞くとちっちゃい頃を思い出して
未だに泣きそうになります。
小学生中学生の頃は、学校とか警察に呼び出されたり
色々と迷惑をかけてごめんなさい。
刺青も嫌いだって知ってるのにたくさん増やしてごめんなさい。
俺ももうそろそろ30歳になります。
それでも会う度に仕事は大丈夫か?とかご飯ちゃんと食べてるか?とかって
心配してるけど、お金もそれなりに稼げてるし体の調子もいい感じなので
そんなに心配しないで下さい。
大ママとじじは最近膝が痛いらしいけど、良くなることを願ってます。
あと、大ママ達に一軒家を買うって言ったのにまだ買えてないから
早く買えるように頑張ります。
これからもよろしくお願いします。
千葉雄喜”

このように作品の最後を、本名の千葉雄喜で締めくくった。

引退表明

『シブヤノオト Presents KOHH Document』では、「今、KOHHを終わらせるのが面白い」という発言があった。

しかし、それはひとつの理由にすぎないのではないか。

これまでの楽曲と今回のアルバム『worst』、最後の「手紙」を受けてそう感じた。

ラストアルバム『worst』は、録り貯めてきた曲を収録することでKOHHという人間の歩みをあらわにして、なぜ引退するかに至ったか事の顛末を語った作品だ。

自分の好きなものだけを信じて、時に傷つきながら己を曲げることなく、自由に生きてきたKOHHがこれから歩もうとしている道は自分だけの未来ではない。

KOHHを終わらせ、千葉雄喜として大ママのために生きることだ。

一音楽ファンとしては、KOHHのこれまでの功績を考えると少し寂しい気もするが1人の人間としてはこれもひとつのベストであろう。

紛れもない引退表明である。

アルバムリリース

6thアルバム『worst』

リリース:2020年4月29日
収録曲:
01.Intro
02.Sappy
03.Rodman
04.2 Cars
05.Anoko
06.I Think I’m Falling
07.John and Yoko
08.ゆっくり
09.レッドブルとグミ
10.シアワセ (worst)
11.Is This Love
12.友達と女
13.What I Want?
14.They Call Me Super Star
15.手紙

『worst -Complete Box-』

リリース:2020年4月29日
フォーマット: CD+Blu-ray
収録曲:
・CD 6thアルバム『worst』の全15曲
・Blu-ray KOHH Live in Concert
at LINE CUBE SHIBUYA on January 16th, 2020
【Band Set】
M01. I Want a Billion
M02. Imma Do It
M03. Living Legend
M04. Dirt Boys II
M05. Die Young
M06. Free Dutch Montana
【DJ Set】
M07. We Good
M08. Bodies
M09. Living in (Remix)
M10. 飛行機
M11. 気楽にやる
M12. 貧乏なんて気にしない
M13. 暗い夜
【Strings Set】
M14. Introduction
M15. ひとつ
M16. Hate Me
M17. Mind Trippin’ II
M18. 手紙
M19. I’m Dreamin’
M20. ロープ

5thアルバム『Untitled』

リリース:2019年2月1日
収録曲:
01.ひとつ
02.Imma Do It
03.I Want a Billion feat. Taka
04.Fame
05.まーしょうがない
06.いつでも
07.Okachimachi
08.Leave Me Alone
09.I’m Gone
10.ロープ

4thアルバム『DIRT Ⅱ』

リリース:2016年6月17日
収録曲:
ディスク 1
01.Die Young
02.I Don’t Get It feat. J $tash, Loota, Dutch Montana
03.Business and Art
04.暗い夜 feat. Tommy Lee Sparta
05.Born to Die
06.Needie Hoe feat. Dutch Montana, Loota
07.Hate Me

ディスク 2
01.Dirt Boys II
02.Living Legend II
03.Mind Trippin’ II
04.V12 II
05.Tattoo入れたい II
06.ビッチのカバンは重い II
07.Hiroi Sekai II

3rdアルバム『DIRT』

リリース:2015年10月28日
収録曲:
01.Be Me
02.Dirt Boys feat. Dutch Montana & Loota
03.Living Legend
04.Now
05.一人
06.Tokyo
07.違う一日 feat. J $tash
08.If I Die Tonight feat.Dutch Montana, SALU
09.死にやしない
10.社交
11.Glowing Up feat.J $tash
12.気楽にやる
13.俺らの生活 feat.Dutch Montana, Mony Horse

2ndアルバム『梔子』

リリース:2015年1月1日
収録曲:
01. 飛行機
02. Where You At
03. iPhone 5
04. Junji Takada
05. ビッチのカバンは重い feat. DUTCH MONTANA
06. No Love
07. Real Love
08. Far Away
09. Hello Kitty
10. 友達 feat. LIL KOHH
11. 泣かせてごめん

1stアルバム『MONOCHROME』

リリース:2014年7月30日
収録曲:
01.Fuck Swag
02.ぶっちゃけ
03.嘘つき
04.やるだけ feat. DUTCH MONTANA
05.Drugs
06.貧乏なんて気にしない
07.I’m Dreamin’
08.Haters feat. SICK
09.タトゥー入れたい
10.Mind Trippin’ feat. SICK
11.No Sleep
12.Love feat. SEQUICK

プロフィール

KOHH

“1990年4月22日生まれ。東京都北区王子出身。生い立ちや現況を、ありのままに綴る歌詞表現と、ジャンルに囚われない自由な音楽スタイルで、若者を中心に、国内外から絶大な支持を集める。音楽活動以外にも、ファッション・モデルとしてのランウェイ/ルックへの参加、自身が手がけたアート作品での個展開催など、ラッパー/ミュージシャンの規格を飛び越え、アーティストとして大きな飛躍を見せている。2012年11月、全くの無名の状態から処女作 『YELLOW T△PE(イエローテープ)』を リリース。2019年、5枚目となるフルアルバム「Untitled」をゲリラリリース。2020年1月、DJセット、バンド編成および、バイオリンなど24名の弦楽器奏者によるストリングスセットの三部構成の公演「KOHH Live in Concert」をLINE CUBE SHIBUYAにて開催し、次作を最後にその活動からの引退を表明。2020年4月引退前最後と思われるアルバム『worst』をワンマン公演完全収録映像付きコンプリートボックス『worst –Complete Box-』として発売する。”

引用元:KOHHオフィシャルページ

  • HP
  • Twitter
  • Instagram
  • Facebook
  • Youtube
  • Youtube

    KOHH – 飛行機(Official Video)

    KOHH – まーしょうがない

    KOHH-ひとつ (director’s cut)

    ライター:滝田優樹

    北海道苫小牧市出身のフリーライター。音楽メディアでの編集・営業を経て、現在はレコードショップで働きながら執筆活動中。猫と映画観賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
    今まで執筆した記事はこちら
    Twitter:@takita_funky