最終更新: 2021年8月8日

James Blake(ジェイムス・ブレイク)が新曲「Are You Even Real?」をリリースした。

AppleのCM曲に起用された「Are You Even Real?」はわずか数十秒のCMで切り取られたバージョンを聴いてもその魅力を損なうことがない上質な楽曲だ。

今回は改めて“ポストダブステップ”における最重要人物、James Blakeというアーティストの魅力と影響力を伝えるべく記事を執筆した。

その歩みから音楽性、そしてJames Blakeに影響されたアーティストを紹介しながら説いていきたい。

James Blakeとは

James Blake(ジェイムス・ブレイク)
シンガーソングライターとプロデューサーとして活動するJames Blake(ジェイムス・ブレイク)は1988年生まれ、ロンドンのエンフィールド出身である。

幼少期からピアノやオルガンを習い、クラシックからゴスペルなどの教養を身に付けたという。

第56回グラミー賞では最優秀新人賞にノミネートされ、デビュー時から“ポストダブステップの寵児”や“ダブステップの貴公子”などの二つ名をほしいままにするJames Blake。

エレクトロやR&B、クラシック、フォークといった広域に渡る音楽ジャンルを咀嚼したサウンドを精妙に奏で、地元ロンドンで生まれたダンスミュージックであるダブステップやグライムのビートに乗せることで自己特有の音楽性を確立した。

この音楽性の確立こそが、当時の音楽シーンにとっても革新的なものであったことは後ほど詳しく言及したいと思う。

そんなアーティスト、James Blakeとしてのキャリアのはじまりは、2009年。シングル曲「Air & Lack Thereof」のリリースである。

2010年には、かつてAphex TwinやBoom Boom Satellitesが身を置いたレコード会社のR&SレコーズからEP『CMYK』と『Klavierwerke』をリリースし、話題を呼ぶ。

2011年に、待望のメジャーデビューアルバム『James Blake』をリリース。
ピッチフォークやMojo誌といった主要音楽メディアから評価されるとともにJames Blakeの名を全世界へと轟かせることとなる。

同年10月には東名阪にて初来日ツアーを敢行し、各地ソールドアウト。その後何度も来日公演を行い、フジロックへも度々出演していることからもわかる通り、ここ日本においても多くのフォロワーを抱えている。

2013年にリリースされた2ndアルバム『Overgrown』にはBrian EnoとWu-Tang Clanのリーダー格、RZAが参加し、2016年リリースの3rdアルバム『The Colour in Anything』では、Frank OceanとBon Iverをゲストに迎える。

そして2019年の4thアルバム『Assume Form』。こちらにはTravis ScottやMoses Sumneyといったアーティストたちが集った。

その他、Beyoncéの楽曲やMount Kimbie、Oneohtrix Point Neverらの作品を手掛けるなど多くの才能たちと共振してきた。

それもこれもJames Blakeが生成した音楽が惹き寄せられてのこと。革新的でありながらキメの細かい音響構築である。

James Blakeの代表的なアルバム

James Blake(ジェイムス・ブレイク)は、2011年のデビューアルバム『James Blake』リリースを皮きりにこれまで4枚のアルバム作品を発表している。

その中でも革新性と精妙さが際だつのが2ndアルバム『Overgrown』(2013年リリース)だ。

上記にも記したとおり、アンビエント・ミュージックの第一人者Brian Enoとアンダーグランド・ヒップホップ界のレジェンドWu-Tang ClanのRZAが参加している。

『Overgrown』において特筆すべきは静謐で重厚な趣を保ちながら、細やかに配置された音の仕掛け。

音が重ねられているというよりは、立体的な空間のなかに360度遠近感の異なる位置から音が届けられるかのような配置だ。

そのサウンドはバロックポップに由来する流麗なものからインダストリアルな攻撃的なものまで様々。

それらのサウンドは差し引きのある不可測なビートに刺激されたかのように動き出し、壮麗な響きをもって我々の耳に届けられる。

James Blakeが規定する音の調和とそれを揺るがすビートの反乱が実に見事であり、その情景はどこか神秘的なものを思わせる。

例えばエジプトの砂漠に佇むピラミッドを想像して欲しい。写真や映像から見るピラミッドは、巨大で綺麗な正四角錐を成したモニュメントとして見るものを魅了する。

しかし、その内部構造や細部に迫った時に未知の発見と不思議が無数に存在する。その成り立ちに迫り解明・考察することもひとつの楽しみだということだ。

そのピラミッドと同じ魅力を持ち合わせているのがこの『Overgrown』だと言える。

AppleのCM曲に起用

2020年4月に発売したシングル「You’re Too Precious」に続く新曲となった、James Blake(ジェイムス・ブレイク)の「Are You Even Real?」。

「Are You Even Real?」をまだ聴いたことのない人はまずこちらの動画を視聴してみて欲しい。

Behind the Mac — James Blake cuts his latest track at home

こちらの動画は現在放送されているApple、MacのCMシリーズ“Macの向こうから”である(2020年8月時点)。

AppleのCMといえば、The BeatlesやThe Rolling Stonesといった世界的なバンドからAnderson .PaakやAlabama Shakesといった時代の新鋭たちの楽曲を起用してきた。

最近ではAnna Of The NorthやThe Shacksなど、このCMをきっかけで話題となったアーティストたちも少なくはない。

簡単に言ってしまえば、AppleのCM曲にはハズレがない。そのCMにJames Blakeの新曲「Are You Even Real?」は起用され、彼自身も出演を果たしている。

こし器にかけたように作品を追うごとにミニマムな音作りは進められ、3rdアルバム『The Colour in Anything』では陰鬱に、4thアルバム『Assume Form』では淡麗に振りきれた作品をそれぞれ発表した。

今回の「Are You Even Real?」は、その『Assume Form』からの地続きの作品である。

さらに言えば、James Blakeが全編ミキシングを手がけたOneohtrix Point Never『Age Of』を彷彿とせる、ピアノやストリングスといった瑞々しい生楽器の音色と歪なヴォーカル加工、ぼってりとしたビートの介在。

有機物と無機物のコントラストをもって、楽器の持つ活き活きとした表情を際立たせたネオクラシカルナンバーである。

また、CMとして一部分を切り取られてもそれは損なわれることなく生け花のように凛としており、聴き手を選ばず、魅了する魔力も持ち合わせている。

James Blakeが影響を与えたアーティスト5選

James Blakeのミニマルな美学を受け継ぐ、アーティスト5選
上記では、リリース作品からJames Blake(ジェイムス・ブレイク)の音楽における革新性と精妙さをあぶり出し、その魅力についてお伝えしてきた。

ここからは音楽シーンにとっても革新的であったことを伝えるべく、James Blakeに影響を受けた、ないしは共鳴するアーティスト5組を紹介させていただく。

D.A.N.

D.A.N.

“James Blake Japan Tour 2017”の大阪公演にてオープニングアクトを務め、James Blakeと共演した日本の3組バンド、D.A.N.(ダン)。

“ジャパニーズ・ミニマル・メロウ”を掲げるD.A.N.は、ヒップホップやクラブミュージックの手法をバンドのフォーマットに落とし込み、空間的な音響処理をもって、そのテーマを体現するバンドである。

James Blakeはクラブミュージックをエレクトニカの手法をもって拡張させていったが、D.A.N.との間にはMassive Attackという音楽ユニットが共通項に浮かぶ。

Massive Attackはリズムと空間配置をもってヒップホップからジャズ、ロックなど多様な音楽ジャンルを繋ぎ合わせて昇華させたトリップホップの代表である。

ゆらゆら揺らめくトリップ・ホップなサウンドとスティールパンなど南国なパーカッション、そしてフェミニンなヴォーカル。アンビエンス、ミニマルな設計で深い陶酔感を与える誘引力がD.A.N.には備わっている。

D.A.N.が自身の音楽性について語ったインタビュー記事はこちら。

『D.A.N.』

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yahyel

yahyel(ヤイエル)
2015年に結成された日本のネオソウルバンド、yahyel(ヤイエル)。

2016年にフジロックの“Rookie A Go Go”を経て、翌年2017年にはフジロックへの出演を果たす。

以降アメリカの“SXSW”やフランスのフェスへの出演のほかアジア・ツアーも行うなど、積極的に海外ツアーを行う次世代バンド。

ヴォーカルとコーラス、サンプリング、ドラム、VJの編成からなるyahyelはJames Blakeからの影響を公言しており、特にロンドンにおけるクラブカルチャーへの造詣も深い。

そのためポストダブステップ・シーンにおける重要ユニットMount Kimbieの来日公演でのゲスト出演。

James BlakeやFKA Twigsを手がけるエンジニア、Matt Coltonに楽曲のマスタリングも依頼するなど、その身を重ねてきた。

そんなyahyelを形成するサウンドは鉄の匂いを感じるほどのバイオレンスなトラックが中心で、それに負けずと応戦するエッジーなビートが持ち味。

ダブステップを下地にした最新のビートミュージックをバンドに取り入れ新しいもの生みだすいうよりは、そこに対して並行してより刺激的な音を鳴らし、追い越そうする気概を感じる。

yahyelのインタビュー記事はこちら。

『Flesh and Blood』

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The XX

The XX
James Blake やMount Kimbieらの登場により注目されたポストダブステップの音像をバンドで表現し、その最良の答えを導き出したがThe XX(ザ・エックス・エックス)だ。

ソロでDJとしても活動するJamie XXことジェイミー・スミスを中心に結成されたThe XXは、サウスロンドン出身のポストポップ・バンドで、2009年にシングル曲「Basic Space」でデビューする。

2009年といえばJames BlakeとMount Kimbieのデビュー時期とも重なり、ともにロンドン出身である。

同じ地で同じシーン、クラブミュージックという音楽に魅せられた3アーティストはそれぞれダブステップをキーワードに異なるサウンド描いた。

その中でもThe XXというバンドは特に少ない音数で、きらめき立つポップミュージックを創造する。

無垢で、シンプルゆえにそこに鳴らされる音やビートは洗練されたものでなければ、音楽ないしはポップミュージックは成立しない。しかし、The XXはそれをやってのけた。

それでいて憂鬱さや秘境感といったムード、さらには壮大なスケール感の演出。最小限が最大限になるうることをThe XXが証明した。

The XXのメンバー、Jamie XXについての記事はこちら。

『Coexist』

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FKA Twigs

FKA Twigs
イギリスはグロスタシャー出身のシンガーソングライター、FKA Twigs(FKAツイッグス)はインダストリアル、アンビエントな姿勢をもってR&Bを拡張させていった。

ルネサンス美術のように生々しくも華やかなサウンドからFKA Twigsを語るときにBjorkやArcaといったアーティストを引き合いに出されることが多い。

しかし、そのサウンドの凶暴な側面や官能的な歌声ではなく全体像を捉えたときに表出するのは余白を活かしたビートさばきやクラシカルな旋律である。

The XXやSBTRKTらが所属するレーベル、“Young Turks”と契約を結んでおり、実はビートミュージックとは身近な環境にある。

遅滞感のあるビートに陰な雰囲気を纏うエレクトロニックサウンドを乗せたR&Bは、James BlakeやThe Weekndを彷彿とさせる。

こういった点と点を辿ってみると、James BlakeとFKA Twigsとの距離はぐっと縮まるのではないだろうか。

最新アルバム『MAGDALENE』のレビュー記事はこちら。

『MAGDALENE』

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HONNE

HONNE
各々プロデューサーとしても活動するアンディーとジェイムスの2人からなるエレクトロ・ポップ・デュオ、HONNE(ホンネ)。

HONNEというユニット名は日本語の“本音”が由来で、彼らもロンドン出身である。

いくつかのインタビューにてRadioheadやRhye、そしてJames Blakeらをルーツに挙げるHONNEであるが、その音楽性はチルやフォーク、ソウルを抽出したアーバンなシンセポップ。

2ndアルバム『Love Me / Love Me Not』にTom Mischが参加していることが象徴するとおり、同じロンドンという土壌で語るならば、近年の南ロンドンを賑わすネオ・ソウルやジャズシーン、ど真ん中なサウンドである。

BTS(防弾少年団)のメンバーをもフォロワーに抱えるHONNEは、韓国やここ日本での公演もソールドアウトする人気っぷり。

そんなHONNEのデビューアルバム『Warm on a Cold Night』インタビュー記事はこちら。

『Warm on a Cold Night (Deluxe)』

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James Blakeが与えた影響

James Blake
ロンドンを中心に発展していったクラブミュージックに魅了されたJames Blake(ジェイムス・ブレイク)は、研ぎ澄まされた感覚をもって“ポストダブステップ”という新たな世代、潮流を生みだした。

そのことは上記に紹介させていただいたアーティストの楽曲を聴いていただければ明らかだ。

新たな要素を加えるのではなく、最小限の音のみで構成することでビートやヴォーカル、楽器の表現を最大限に活かせるようになったプロダクション。

こういったミニマルなデザインは繊細な響きや心の機微までも露わになり、多彩なアプローチが可能となった。

あるいはミニマル志向であったにJames Blakeの音楽においてこれまでと異なる視点をもって音楽と向き合うことが必須だったようにも思える。

現に今回発表された新曲「Are You Even Real?」がその極限であった。

代表曲に「CMYK」という楽曲がある。タイトルの“CMYK”とは3原色であるシアン、マゼンタ、イエローにブラックを加えた4成分にて色の表現する方法のこと。減法混色と呼ばれるもので、色を混ぜると明度が下がり黒に近づいていく。

James Blakeにおける音楽のパレットには“CMYK”のように必要最低限の色しか用意されていない。だがその優れた美的感覚をもって、いかようにも鮮やかな色を表現することができるのだ。

これからもJames Blakeはその質素なパレットから誰も見たことのない色を表現していくに違いない。

リリース

シングル『Are You Even Real?』

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4thアルバム『Assume Form』

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3rdアルバム『The Colour In Anything』

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2ndアルバム『Overgrown』

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1stアルバム『James Blake』

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プロフィール

James Blake(ジェイムス・ブレイク)

“クラシック・ピアノを学びながらモータウンのソウル・ミュージックを通してゴスペル・オルガンにも親しみ、10代最後にロンドンのクラブで出会ったグライム~ダブステップやガラージ・サウンドを組み合わせ、エレクトロニックなシンガー・ソングライター像を打ち出したジェイムス・ブレイク。

ヒップホップからハウスまでを衝撃的なまでに再解釈、内省の道程へ導いた完璧なデビュー・アルバム『ジェイムス・ブレイク』、Mercury Prizeを受賞したセカンド・アルバム『オーヴァーグロウン』につづく最新アルバム『The Colour In Anything』を今年5月に突如リリース。心を刺すようなソングライティングと飛翔するエレクトロニクスの結合が更に深く、音楽の核心に近づいた大作を届けてくれた。

今年のフジロックではグリーンステージのセカンド・ヘッドライナーを務め、圧倒的に進化したステージを披露した。”

引用元:James Blake(ジェイムス・ブレイク)プロフィール(SMASH)

James Blake代表曲(Youtube)

  • James Blake – Are You Even Real?
  • James Blake – Barefoot In The Park feat. Rosalía (Official Video)
  • James Blake – The Wilhelm Scream (Official Video)

ライター:滝田優樹

1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
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