最終更新: 2023年2月2日

スコットランドのエディンバラで結成されたYoung Fathers(ヤング・ファーザーズ)は、それぞれスコットランド、リベリア、ナイジェリアと、出自が異なる3名からなるユニットだ。

4枚目となる最新アルバム『Heavy Heavy』は、Young Fathers史上1番の耳愉しさを与える作品に仕上がっていた。

これまでコントラスト(対比)をひとつの軸に、ぶれることなく作品を創作してきた彼ら。

“このアルバムは外部からの影響を一切受けずに、自分達で楽曲制作を進めた”と語り、今作で対比したのが自己と外界ではないだろうか。

言うまでもなく、混沌化する世界情勢。自己を見つめ、見える世界はどのように映っているのか―――。

今回はメンバーのアロイシャス・マサコイにインタビューを行った。

アーティスト:アロイシャス・マサコイ インタビュアー:滝田 優樹 通訳:湯山恵子 取材協力:BEATINK

Young Fathersとは

Young Fathers
撮影:JORDAN_HEMINGWAY

インタビューの前にまず、Young Fathers(ヤング・ファーザーズ)とは。

Young Fathersはエディンバラを拠点に活動するスコットランドのバンドである。

2008年に3人のメンバーによって結成され、10代からナイトクラブでの演奏を始めた。

2012年にはLAを拠点とするレーベルと契約し、ミックステープをリリース。これはスコットランド・アルバム・オブ・ザ・イヤーに輝く。

2014年にはデビュー・アルバム『Dead』をリリースし、批評家の注目を集め、マーキュリー賞を受賞。

Young Fathersはこれまでに3枚のスタジオ・アルバムをリリースしており、楽曲は「T2 Trainspotting」や「FIFA 19」「FIFA 23」など多様なサウンドトラックにフィーチャーされている。

彼らはあからさまな政治的なバンドではないが、人種差別や難民の扱いなどの政治的な問題について発言しており、BDS運動(※)を支持することでフェスのラインナップから外れたこともある。

※BDSはBoycott, Divestment and Sanctions (ボイコット、投資撤退、制裁)の頭文字をとったもので、パレスチナ人の権利を擁護する国際的な運動のことを指す。

この運動はイスラエル政府に対して人権侵害や国際法違反などに対する制裁を求めるものである。

Young Fathers インタビュー

Young Fathers
撮影:FionaGarden

Young Fathersについて

-まずはYoung Fathers(ヤング・ファーザーズ)について聞きたいと思います。スコットランドやリベリア、ナイジェリアなど、それぞれ出自が異なる3名がどのように出会い、どういった経緯で結成されたのですか?
アロイシャス・マサコイ:俺はアフリカのコートジボワールとの国境沿いにあるリベリアという国で生まれた。母国のリベリアで内戦が起き、一家でガーナの難民キャンプでの生活を経て、4歳の時に難民としてスコットランドに移住したんだ。ケイアス(・バンコール)はスコットランド生まれ。ナイジェリア系スコットランド人で、アメリカのワシントンD.C.に7、8年暮らした後にドイツのベルリンで7年ほど生活し、その後ナイジェリアに引っ越し、スコットランドに戻ってきた。世界中で育ったケイアスの英語は、様々な国のアクセントが混ざってる(笑)。アイツとは俺達が13、14歳頃に通っていたハイスクールで知り合った。生まれも育ちもスコットランドのグラハムとは、俺の幼馴染を通して知り合った。14歳か15歳の時にハイスクールで開催されたタレント・ショウに3人で書いた自作曲を演奏し、現在に至る。当時のバンド名は違う名前だったけど、メンバ―は同じだった。つまり、20年近く一緒にやってきたんだよね。

エディンバラでの活動

エジンバラ(pexels-micheilecom-__-visual-stories-4440109)
クレジット:pexels

-Young Fathers はスコットランドのエディンバラを拠点活動していますね。グラハム・“G”・ヘイスティングスがエディンバラ出身で、UKのベース・ミュージックやグライムが音楽性の土台にあるようですね。それ以外にエディンバラを拠点とされている理由があれば教えてください。
家族や友人達がエディンバラ在住だし、自分達の拠点であるエディンバラに機材等が揃えてあるから。ロンドン、パリやニューヨークのような大都市に住むより、中心部から離れたエディンバラで暮らす方が音楽制作や芸術作品を手掛ける上では満足度が高いからね。

-他のインタビューでは”エディンバラには音楽の土壌がないように思える”ということや、”スコットランド人は外に出て行く精神に欠ける”など、”スコットランドは自分を主張して目立つことを美徳としない社会”だと語っていましたね。日本も音楽シーンに関しても似たような状況でとても意外でした。あなたたちから見た日本の音楽やカルチャーについてどのようなイメージをお持ちですか?もし、スコットランドとの共通点があれば教えてください。
日本には、あらゆる形の“サブカル”を自由に表現する場が沢山あることに驚いたよ。例えばあるジャンルに興味がある人はこの場所に行けばいいという風に、住み分けが上手くできていると感じた。革新的かつ進歩的な考えの人達がいて、凄いよね!きっと抑圧した感情や我慢が創造へのエネルギーになっているのかもしれないね。一方で、(日本には)全く文化的なこととは無縁の生活を送っている保守的な人達も存在すると思う。俺たちが住むスコットランドにも同様に革新的かつ進歩的な考えの人もいるけど、少数派だね。

-2011年に『Tape One』をリリースして、マーキュリー賞を受賞した『Dead』まではAnticonに、その後、NinjaTuneのBig Dadaへ。そして前作『Cocoa Sugar』からNinja Tuneでのリリースとなったわけですが、こちらの理由や経緯があれば教えてください。
『Tape One』を聴いたAnticonが「アルバムの内容が凄く良かったので、是非契約したい」と興味を示してくれて。「ツアー・サポートをする」と約束してくれたから、契約したんだ。その後、Ninja Tune傘下のBig Dadaから連絡が来て、移籍した。前作『Cocoa Sugar』から(親会社の)Ninja Tuneに移ったけど、Big DadaもNinja Tuneも同じ会社だから、いい移行だったと思う。

-約4年の長期休止を経て、アルバムをリリースしましたね。この4年間はどのように過ごしていましたか?
普通の生活を送っていたよ。フラットを購入してリノベーションをしたり、家族や友人達との時間を大切にしたり、それからアルバム制作に取り掛かっていた。

-長期休止と言っても、ツアーには出なかったけど音楽制作は継続していたということですか?
もちろん!2018年にリリースした『Cocoa Sugar』に伴うツアーが2019年の年末まで続き、それまでの10年間はずっとツアーとレコーディングの繰り返しだったから、「オフを取ろう」という事になった。その後コロナ渦に入り、時間があったから楽曲を沢山制作したんだ。今回の新作に収録した楽曲は大量の新曲から選んだよ。

『Heavy Heavy』

4thアルバム『Heavy Heavy』

新作アルバム『Heavy Heavy』について教えてください。アルバムを聞かせてもらいましたが、率直な感想としてこれまでの作品と比べて開放的な印象でした。これまでの作品は特定の対象について歌っていしましたが、今作は混沌とする社会情勢を受けてのリアクションをしつつ、全人類について歌っているように思いました。どうして今までよりも広い視座で歌詞を書こうと思ったのでしょうか。
実は自分の経験に基づいた歌詞を書くと、結果としてより多くの人たちが共感するような内容になるんだよね。例えば収録楽曲「Holy Moly」では俺の個人的苦悩や体験してきた激動の人生について歌っている。そういった内容はリスナー側も多くの人達が共感するもんだよ。だから、結果として幅広い内容に見えるんだと思う。

-アルバムタイトルは、“Heavy”という単語を2回繰り返し使っているのが印象的です。この『Heavy Heavy』の意味について教えてください。
俺たちのここまでの苦労や辛苦の過程を表す“Heavy"という言葉を2回繰り返すことで、遊び心を足した。楽しくてクリエイティヴなタイトルにしたかったから、2回繰り返している。俺たちは昔から「対比(contrast)」を大事にしてきたからね。

-レコーディングは地下のスタジオに3人がこもって、限られた機材とマイクによって制作されたそうですね。”Heavy Heavy”というタイトルに反して、シンプルで軽快なものとなっていたのが印象的でした。音についての完成形を想像しないで、メンバーそれぞれ好きなものを鳴らして作っていった印象ですが、どうのようにサウンドを形作っていったのでしょうか。
いや、今回もこれまでと全く機材を使っているし、むしろより密度の濃いサウンドに仕上がったと思う。ヴォーカルやその他のサウンドを何層も重ねているし。実体験を描いた歌詞がより多くのリスナーを共感させたのと同様に、サウンド面でもこれまで以上に前進し、大きく飛躍したことに自分たちも驚いているよ。よりコンパクトなサウンドにまとまっているかもね。俺達は常に進化し続けていきたいんだ。

サウンド作りに関しては、青写真を作ったりはせずに、自然の成り行きに任せて実験的な過程を経て制作した。実験的にいろいろ鳴らしていくうちに、楽曲の核となるものを発見し、そこから仕上げていく。仕上がった楽曲には自分達が驚かされる事になるから、このプロセスは、、、中毒性があるよね(笑)。

「RICE」と「I SAW」

-「RICE」は気候変動やパンデミックについて、「I SAW」はロシアの侵略戦争に対してのリアクションだと感じました。もし、そうであったならどのような心境でこれらの曲の歌詞を書いたのか教えてください。
「Rice」はコミュニティの結束感や共生、連帯を維持していくことをテーマにしている。「食」は、文化的かつ普遍的なものだから。

「I Saw」はブレグジットやコロニアリズム(植民地主義、帝国主義時代における植民地制政策)を題材としているけど、他の問題にも当てはまるかもしれないね。そこは聴き手の判断に任せている。

-コロニアリズムに対する考えをもう少し詳しく教えて頂けますか?
西洋文明の裏でどういう道を辿ってきたのか、どういった文化やアイデンティティがその裏側にあったかという真実について、この曲でさり気なく伝えているんだ。

Young Fathers – ‘I Saw’ (Official Video)

Geronimo

-「Geronimo」はコントラストについての曲だとアロイシャス・マサコイが言っていますね。ツアーのアートワークやアルバム収録曲の先行シングルのアートワーク、その他のMVなどなど白黒を際立たせたものなっていますが、これもコントラストを意識してのことですか?またなぜコントラストについて歌おうと思ったのですか?
うん。「コントラスト(対比)」は昔から俺たちが好きな題材だから。光と暗闇、厳しさと優しさ、、、という風に、二つのものは近距離にあり、接触した時に爆発し、我々を驚かせる。人間の人生は一枚岩ではなく、多面的なものなんだ。

Young Fathers – ‘Geronimo’ (Official Audio)

『Heavy Heavy』のアートワーク

-アルバムのアートワークが今回も衝撃的でした。ケイアス・バンコールが作品について“悪魔を解放し、それに対処するんだその後に意味を見出すんだ”と言っていますが、何故そのように考えたのか教えてください。
このアルバムは外部からの影響を一切受けずに、自分達で楽曲制作を進めた。その制作過程で意見の不一致や言い争い、口論などはあった。でも、かつてトム・ペティが「アルバムがどういう過程で制作されたかなんて、誰も気にしちゃいねぇよ。結果として、聴き手は、気に入るか、気に入らないかだけ」と語ったように、アルバム制作過程でどんなことがあろうと、こうして皆が手にできる作品が完成したことが一番重要なんだ。

-またYoung Fathersの音楽は多様性に富んだものでヒップホップやアフロ・ミュージック、R&Bからポスト・パンクなど多岐にわたります。今回もそこはぶれずにいると思うのですが、今作についてリファレンスとなったアルバムがあれば教えてください。また、どのような部分に影響を受けたかについても教えてください。
いや、そういうのは一切ナシ。特に、音楽制作期間中は他のアーティストの作品なんて一切聴かないよ。ただ、無意識のうちに、これまで読んだ本や見た映画、交わした会話、それから他の人達が送ってきた人生話が無意識のうちに混ざっているかもしれないけど。

俺たちのグループは3人いるから「俺、こういうテーマで曲を書きたいんだよね」みたいなことを事前に話し合ったりすることはまずない。だって、他のふたりのメンバーにも考えがあるからね。

アルバムのテーマ

-アルバムについて、総括すると歌詞や全体のテーマとしては確立したものといった意味で”Heavy Heavy”という言葉がぴったりな作品だと思います。一方でサウンドは音を鳴らせる喜びを感じる楽しいものでした。そのギャップが魅力のアルバムだと思います。『Heavy Heavy』をどのような人に聴いて欲しいと思いますか?
象徴的なアルバムに仕上がったと自負しているから、あらゆる人達に聴いて欲しいね。これは、あらゆる人達に向けた作品だし、人間誰もが人生において直面したり体験するようなことを歌っているから。時が経てばわかると思うけど、、、とにかく自信作だよ!

-Young FathersはMassive Attackとコラボ曲「Voodoo In My Blood」を制作するだけでなく、来日公演のオープニングアクトも務められましたね。彼らは常に人種や移民、戦争など社会問題についてのメッセージを発していますが、彼らに共感する部分があれば教えてください。
今挙がったこと(人種や移民、戦争等の社会問題)は、俺たちも大切にしているテーマだし、彼らに共感している。Massive Attackも俺たちと同じように多民族メンバーで構成されているし、クリエイティヴ面でも革新的で自分たちの独自の道を切り拓いたから、共感する部分は多い。それから、あれだけ長くバンドを継続させている点は俺たちも見習いたい。

- 私たちをはじめ、Young Fathersの来日を楽しみにしている日本のリスナーにメッセージを頂けますか?
人生一度きりだから、悔いのない人生を送ろうぜ!それから、自分の弱さやオープンな気持ち、他人への敬意を大事にしよう。

-「弱い自分を大切にする」というメッセージの部分をもう少し詳しく教えて頂けますか?
自分の弱さを知ることは、強みになる。そして、オープンな気持ちでいることで、人は成長できる。多くの人は自分の弱さを隠して、他人に見せないようにするけど、自分の弱さを知ることで逆に他人を理解したり、共感することができる。そういう人生の方が俺は健康的だと思うんだよね!

Young Fathersアルバムリリース

Young Fathers(ヤング・ファーザーズ)はこれまでに4枚のアルバム(『Dead』、『White Men Are Black Men Too』、『Cocoa Sugar』、『Heavy Heavy』)をリリースしている。

4thアルバム『Heavy Heavy』

4thアルバム『Heavy Heavy』
発売日: 2023年2月3日
レーベル: Ninja Tune
収録曲:
1.Rice
2.I Saw
3.Drum
4.Tell Somebody
5.Geronimo
6.Shoot Me Down
7.Ululation
8.Sink Or Swim
9.Holy Moly
10.Be Your Lady
フォーマット:CD
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3rdアルバム『Cocoa Sugar』

3rdアルバム『Cocoa Sugar』
発売日: 2018年3月9日
レーベル: Ninja Tune
フォーマット:CD
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2ndアルバム『White Men Are Black Men Too』

2ndアルバム『White Men Are Black Men Too』
発売日: 2015年4月6日
レーベル: Big Dada
フォーマット:CD
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1stアルバム『Dead』

1stアルバム『Dead』
発売日: 2014年1月31日
レーベル: Anticon, Big Dada
フォーマット:CD
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Young Fathersバンドプロフィール

Young Fathers
撮影:FionaGarden

Young FathersはローファイなR&Bのトリオである。ただし、彼らは完全にその枠に収まっておらず、オルタナティブ・ラップ、インディー・ポップ、レゲトン、エレクトロニック・ミュージックなど幅広いジャンルを見せている。

彼らはいくつかのEPやシングルをリリースした後、2014年のデビューアルバム『Dead』でブレイクし、マーキュリー賞を受賞した。

続いて2015年にはヘヴィな『White Men Are Black Men Too』をリリースし、2017年の映画『T2 トレインスポッティング』でYoung Fathersの音楽が大きく取り上げられた。

そして2018年には直接的でもカテゴライズが難しいサードアルバム『Cocoa Sugar』がリリースされた。2022年にシングル「Geronimo」、2023年には4thアルバム『Heavy Heavy』をリリースする。

“Put simply, you could call Young Fathers a lo-fi R&B trio. However, they don’t completely fit in that box, with their wide-spanning spread of alternative rap, indie pop, reggaeton, and electronic music. The group released several EPs and singles before breaking through with their 2014 debut album, Dead, which won the prestigious Mercury Prize. This was followed by the heavier White Men Are Black Men Too in 2015, and the group’s music was extensively featured in the 2017 film T2 Trainspotting before the more direct yet equally hard-to-categorize third album Cocoa Sugar arrived in 2018. Young Fathers returned with the 2022 single “Geronimo.””

引用元:Young Fathers(ヤング・ファーザーズ)バンドプロフィール(Allmusic)

Young Fathers代表曲(Youtube)

  • Young Fathers(ヤング・ファーザーズ) – In My View (Official Video)
  • Young Fathers(ヤング・ファーザーズ) – SHAME
  • Massive Attack,Young Fathers(ヤング・ファーザーズ) – Voodoo In My Blood

ライター:滝田優樹

1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。

そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。

その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。

退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。

それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。

猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。

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Twitter:@takita_funky