最終更新: 2024年3月27日
季節の移ろいの中にある過去、現在、そして未来。
“季節の回転と孤独な青年”というテーマの下、LAIKA DAY DREAM(ライカ・デイ・ドリーム)が切り拓く新境地『Shun Ka Shu Tou』に託したメッセージとは?
Kazutoshi Lee(Vo./Gt.)が語る。
目次
LAIKA DAY DREAM インタビュー
アーティスト:Kazutoshi Lee インタビュアー:桃井 かおる子 撮影:美澄
-1枚目と2枚目はセルフタイトルのアルバムでしたが、今作はセルフタイトルではなく、『Shun Ka Shu Tou』というタイトルの作品になっています。バンド名ではないタイトルを付けたのはなぜですか?
Kazutoshi Lee:まず1st『laikadaydream #1』と2nd『laikadaydream #2』が記号的なタイトルになった理由は単純で、アルバム全体を通したテーマやコンセプトが無かったからです。その時期に完成した楽曲たちを、音楽的な快楽に任せてリストした内容で、まとまったメッセージも特にはありませんでした。一方で今作は“季節の回転と孤独な青年”という明確なテーマでアルバムを作ると決めたので、自ずと記号的なタイトルからは離れ、意味を持つタイトル『Shun Ka Shu Tou』へ着地しました。
-LAIKA DAY DREAMの以前までの楽曲も季節感のあるものが多かったと思いますが、今作ではより季節の移ろいなどを作品の中で表現してみようと思われたのはどうしてですか?
難しいですね・・・。まず過去2作と今作では、“季節”という概念へのタッチの仕方が異なるかなと思います。過去2作では“その瞬間瞬間の季節は美しいものである”と捉えて、エッセンスとして歌詞へ採用していました。しかし今作では“季節の変化が僕を翻弄してくるイメージというか、ある種“鬱陶しい迷惑なもの”として解釈しているところがあります。作詞の材料の一つに過ぎなかった概念から、アルバム全体のテーマへ拡がったので、そのままアルバム全体の表現対象になりましたね。
これは余談なんですけど、大まかにですが季節の順番で楽曲が並んでいます。全12曲にしたのも、カレンダーの枚数に合わせました。
-(上記に関して)Leeさんが生まれ育った京都府は、5月の葵祭りから始まって夏の祇園囃子や秋の嵐山の紅葉、冬の千枚漬けなど、季節の変化と暮らしが一体となっているイメージがあります。生まれ育った環境もまた、今作に何か影響を与えているのでしょうか?
京都って年がら年中、常に何かしらイベントがあるんですよ。ただその対象のほとんどは観光客で、市民の僕らは眺めているだけなんですけど(笑)。少年時代を振り返っても、市バスや地下鉄内の広告が、その月の季節とマッチした観光用のポスターで常に入れ替わっていた記憶があります。アクティブな性格でなくとも、季節を感じざるを得ない生活だったのかもしれません。
あとメジャーな観光地以外にも、美しい場所がたくさんあって。それこそ高校行くのがしんどかった日なんかは、サボって一人で綺麗な景色を観に行くのが好きでした。北大路橋の桜や、上賀茂神社の紅葉は、いつ観ても涙が出るほど美しいです。ただの地元びいきかもしれませんが(笑)。
Shun Ka Shu Tou
-今作『Shun Ka Shu Tou』は全体を通して主人公の現在地から過去の回想へ、最後に戻る現在地は最初より少し開けた所のような、一人称感の強い作品だと思いました。一貫性のある作品を作ろうと思った理由は何ですか?
先述した通り、過去2作は楽曲のリストでしかなくて、“もうこればっかりはやってられないな”と思ったんです。最も安易な手法なわけなので、今作こそはテーマをちゃんと宿そうと。ただ結局、僕は僕のことしか歌うことがなくて。意図的に一人称感を強くしたというよりは、これしかなかったんですよね。
徐々に開けていくストーリーを作ろうという意図は特になかったんですが、いざ季節の順番で並べると、結果的にそうなっていました。これは自分でもとても驚いた点です。
-(上記に関して)例えば2曲目の「桜並木通り」は作品の中でも、特に歌詞の内容がストレートで、主人公(Leeさん自身?)の心の内が素直な言葉で表現されています。この曲にはどのような思いが込められているのでしょうか?書いている時のLeeさんの心境の変化も反映されているのでしょうか?
まさに『桜並木通り』が最もストレートに作詞できましたし、僕自身の心境とイコールと思います。端的に述べると、“生きていることが辛い”ということを歌いたかったんです。ただこの手の内容を美しく表現するのはとても難しいです。油断すると、ただのメンヘラのブログみたいになってしまいますから(笑)。綺麗な桜色の街に対して、自分の心は虚無感でモノクロというか、その真逆のカラーを描けるように頑張りました。“助けてほしい 誰にも言えない”というラインは、ライブで歌っていて最も気持ちが入ります。
-次曲の「カートより長生き」と「りんごのタルト」はアルバムの中でも特にバンドの演奏やLeeさんの歌に荒さがあり、今までのLAIKA DAY DREAMにはなかった新しい一面が表現されていると思います。この2つの曲は今までないアプローチで取り組まれたのでしょうか?
ありがとうございます。歌詞世界とはまた別に、バンドサウンドのコンセプトとして今作は“グランジ”を積極的に採用しました。グランジ用に、ディストーションやファズと相性の良いエレキギターを新たに2本購入し、人生で初めて、アコギではなくエレキで作曲を開始しました。バンドアレンジは少し不安だったんですが、リズム隊の二人のアレンジもハマって、上手く着地したかなと思います。
歌唱方法に関しては、全体的にザラついた歌い方に今回トライしていて。具体的に言うと、決して高いキーでなくとも、Aメロの時点で既に少しドライブしている歌声です。イメージはOasis最後期のリアム・ギャラガーや、『Fantastic OT9』以降の奥田民生さん、あとはやはりカート・コバーンですね。
LAIKA DAY DREAM – カートより長生き / No Younger Than Kurt
-(上記に関して)「りんごのタルト」の“100年ぶりに会った君”が“紺碧の皿から舞い落ちたアップル”など、誰にも出てこないような言葉の表現が歌詞の中にいくつもあります。なぜ、このような言葉表現ができるのでしょうか?
なぜなんでしょうか・・・(笑)。実体験として、LAIKA DAY DREAMの活動を通して作詞作曲を続ければ続けるほど、日常生活で見る景色やモノ、そして人間関係に対して“◯◯みたいだな”と喩えて解釈する時間が増えてきました。この感覚がそのまま、作詞の比喩表現へ活きているかなと自分では思ってます。
そして質問の答えとしては、“そう思った/見えたから”としか言いようがないです(笑)。久々に会った女性に対して、“なんかもはや別人、100年ぶりみたいやな”と感じたり。ネイビーのお皿からりんごがこぼれた際に、紺碧の青い空から落ちた様に見えたり。私生活で得た感情の積み重ねです。
ただ最近はこの何事も喩えて解釈する時間が長くなり過ぎていて、普通に生活するだけで正直疲れています。常にソングライター状態になっているというか。“機内モード”みたいに簡単にオフれる能力を最近は習得しようとしてます(笑)。
LAIKA DAY DREAM – りんごのタルト / The Apple Tart
-「サイケな女」はどこを切り取ってもThe Strokesっぽく、“黄色のジャケットってジュリアン着てそうだよね?”と、The Strokes好きにはかなりツボにハマる一曲になっています(笑)。グランジがテーマのアルバムの中でThe Strokes感満載の曲を入れた理由は何ですか?
確かに着てそうですね(笑)。まずアルバムの楽曲たちに関しては“グランジをやるんだ!”と決めた一方で、ミックスに関してはThe Strokes『The New Abnormal』を今作のリファレンスとしてエンジニアに打診しました。このアルバムはとにもかくにも、ミックスに僕は感動したんです。以前まで“もう今後人類の進化で、エレキギターの音がより良く録れることはないんだろうな”と決めつけていた僕の価値観を、一撃で破壊してくれました。“いや、まだまだ良くなるんだな”と。「サイケな女」はそのミックスの方向性が、エンジニアの尽力で最もハマりました。内容は決してグランジではないですが、今作のミックスの象徴として、アルバムでは重要な楽曲になりました。
-アルバムのおよそ中間地点に「糺ノ森ノ雨」というインスト曲が入っていますが、あえて中間にインストを入れたことにどのような意味があるのでしょうか?
ストーリーとして、6曲目「夜鷹駅」で感情的な少年の気持ちが消沈するというか、ロウソクの火をフッと吹き消すイメージです。次曲「糺ノ森ノ雨」から、少年が青年として再生し始める“ターニングポイント”としてこの曲を配置したかったんです。無言の時間の中で、主人公の精神年齢が上がり始めるようなイメージです。あと単純に仮想B面というか、ここでレコードがひっくり返るイメージもありました。
-後半の「空中を撃て」を書いている最中に安倍前首相が殺害されたニュースが入って来たとのことですが、この曲よりも多く「世襲の人」はなおのことこのニュースを反映しているようにも思います。報道を受けて楽曲にどのような影響があったと思いますか?また、飛躍して申し訳ないのですが、報道がなければこの2つの曲はなかったことも考えられますか?
まず報道と楽曲の有無関係について答えると、「空中を撃て」はYes、「世襲の人」はNoですね。
「空中を撃て」はもともと、“大人になって僕がバスケットボールを再開した”というだけの無邪気な楽曲で、当初はその無邪気さとメロコア・サウンドの相性が良いと感じていました。しかしAメロの作詞はすぐ終えれた一方で、Bメロでは特に歌いたい内容がなく、一旦ボツになったんです。その後に銃殺のニュースを受けて、周辺の宗教関連の話も含め、一人の市民として強い恐怖と不安を抱きました。気を晴らすためにバスケしに行ったんですが、結局何も変わらなかったんですね。その夜に「空中を撃て」の存在を思い出して、するとBメロの作詞が一瞬で終わったんです。後半のボサノバ・セクションも、そこで思いつきました。
一方「世襲の人」ですが、これは「空中〜」と並んでいるせいで、“政治家らのことを歌っている曲に違いない!”と誤解されるかもしれません(笑)。しかしそれは僕の意図とは異なっていて、この曲では主に自分のことを歌っています。僕の両親は政治家ではありませんが、僕は本来「世襲の人」になるプランだったんです。でも僕は少年時代から“誰に何と言われようと絶対にロックバンドをやる”と決めていたので、そのプランをシカトして現在に至ります。後悔は一切ない一方で、色々と思うことはあるので、その心境が表れていますね。
-季節の移ろいを意識したアルバムである中で、最後の曲は「春夏秋冬」ではなく「孤独の倍転」としたことにはどのような意味合いがあるのでしょうか?
全12曲のアルバムで、1曲目「春宵」がオープニング、2曲目「桜並木通り」〜11曲目「春夏秋冬」が本編、12曲目「孤独の倍転」がエンディングのイメージなんです。なので仰る通り「春夏秋冬」で本編自体は終了していて、「孤独の倍転」は少しメタというか、このアルバムのレコーディングそのものについて歌っています。映画のエンドロールのような存在ですね。
LAIKA DAY DREAM – 孤独の倍転 / Solitude Rolls On The Double
-アルバムタイトル『Shun Ka Shu Tou』には、どのような思いが込められているのでしょうか?また、漢字でなくローマ字表記されたのはなぜですか?
11曲目「春夏秋冬」と同じ漢字表記をアルバム名とする案も、あるにはありました。でも少し違和感があったんです。「春夏秋冬」が極端にリード曲に見えて注意が集中するのがまず嫌だったのと、アルバム名は包括的というか、より抽象的な言葉を選びたかったんです。ローマ字にすると意味が薄れて発音だけが残るので、『Shun Ka Shu Tou』が良いかなと。「春夏秋冬」を含め、全12曲でアルバム『Shun Ka Shu Tou』です。
-最後になりますが、このアルバムを聴いてほしいと思う人はどのような人でしょうか?
以前と変わらず、音楽オタクの人に過剰に分析されても、普段音楽に関心がない方に“なんか良かった”と言われても、等しく嬉しいです。“こんな人にこそ聴いてほしい”という対象は、僕たちは特にいないです。
ただ今作はエレキギターのかっこ良さ、バンド合奏のパワフルさが前面に出ているので、“制服を着た方たちがこのアルバムを聴いて、バンドを始めてくれたら嬉しいなあ”という気持ちを、初めて抱きました。2010年代後半からバンドカルチャー自体が衰退していますし、合理的な形態ではないことも理解しています。でも友達と集まって、ギターをギャンギャン、ベースをブンブン、ドラムをドカドカ、そしてマイクに向かって叫ぶのは楽しいぜと、伝えたい気持ちがありますね。
LAIKA DAY DREAM – Shun Ka Shu Tou (laikadaydream #3) [Full Album]
LAIKA DAY DREAMアルバムリリース
3rdアルバム『Shun Ka Shu Tou』
発売日: 2024年3月6日
収録曲:
1.春宵
2.桜並木通り
3.カートより長生き
4.りんごのタルト
5.サイケな女
6.夜鷹駅
7.糺ノ森ノ雨
8.来夏
9.空中を撃て
10.世襲の人
11.春夏秋冬
12.孤独の倍転
フォーマット:Mp3
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LAIKA DAY DREAMライブ情報
LAIKA DAY DREAM Japan Tour 2024『四季巡光』東京編
ゲスト:SOFTTOUCH
会場:下北沢 THREE
開場 / 開演:18:15 / 19:00
出演:LAIKA DAY DREAM, SOFTTOUCH
前売 / 当日:¥3,000 / ¥3,500 (+1D)
チケット:『四季巡光』東京編チケット購入ページ:[こちら]
LAIKA DAY DREAM Japan Tour 2024『四季巡光』京都編
ゲスト:Turntable Films
会場:二条 nano
開場 / 開演:16:30 / 17:00
出演:LAIKA DAY DREAM, Turntable Films
前売 / 当日:¥3,000 / ¥3,500 (+1D)
チケット:『四季巡光』京都編チケット購入ページ:[こちら]
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ライター:桃井 かおる子
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