最終更新: 2024年9月28日
前に初の単独ジャパンツアーを控えるタイミングでBlack Country, New Roadにインタビューをした時に、彼らの卓越したライブパフォーマンスを称え、これからのパフォーマンスも期待する意味で”インスピレーションの赴くままに活動してきたBlack Country, New Roadは、これからもショーを楽しむために演奏を続ける。”とインタビューの見出しを締めたが、同じサウスロンドンの地から、同様にインスピレーションの赴くままに活動し、新たにシーンの台風の目となりえる新人バンドがでてきた。その名もFat Dog(ファット・ドッグ)。
Fat Dog(ファット・ドッグ)は、名門ドミノ・レコードに所属し、サウスロンドンを拠点に活動するバンド。
昨年8月のデビュー・シングル「King of the Slugs」の発表時からRolling StoneやNMEなど海外の主要音楽メディアから注目され、その噂はもちろんここ日本にも伝わり、世界各国でかなりの注目度だ。
その具合は、同じレーベルのWet Leg(ウェット・レッグ)の登場時をも彷彿とさせる。
そんなFat Dogの魅力はライブパフォーマンス。
彼らの地元ロンドンで伝説的な会場とされるScalaとElectric Brixtonでの単独公演をソールドさせ、アメリカでもSXSWでのパフォーマンスや全米ツアーも成功させるなど、とにかく評判はカオスでスリリングなパフォーマンスによるもの。
そのため今回のインタビューではFat Dogの魅力を伝えるべく、サウスロンドンのライブシーンからパフォーマンス時のメンタリティから伺いつつ、9月にリリースを控え期待が寄せられるデビュー・アルバム『WOOF.』について、メンバーのクリス・ヒューズ(Key.)、モーガン・ウォレス(Sax.)に話を伺った。
君がFat Dogのヤバさについて知りたければ今すぐにインタビュー記事を読み、9月にはデビュー・アルバムを聴いて、このタイミングでアナウンスされた来日公演に行くことだ。
伝説は他人から語り継がれるものではない。君が当事者となって語り継ぐものである。
目次
Fat Dogインタビュー
アーティスト:クリス・ヒューズ(Key.)、モーガン・ウォレス(Sax.) インタビュアー:滝田 優樹 通訳:川原真理子 翻訳:BELONG編集部
(インタビューの冒頭はクリスだけでした)
—デビューアルバムのリリース前ですが、日本でもすでに音楽メディアや音楽ファンがあなたたちのことを注目しています。そのため私たちとしては、Fat Dogのルーツや音楽が生まれた背景を知って、あなたたちの魅力を改めて紹介したいと思っています。まずはFat Dogが拠点としているサウス・ロンドンについて教えてください。サウス・ロンドンのバンドという認識でいいのですね?
クリス・ヒューズ:そう、サウス・ロンドンのバンドだよ。始めた頃は、バンドのメンバー全員がサウス・ロンドン出身だったんだと思う。ジョーはサウス・ロンドン出身で、僕もドラマーも同じだ。サックス奏者のモーガンはサウス・ロンドン生まれだけど、その後すぐにデボンに移住した。とっても美しくて素敵なところで、そこに住んでいた。ベーシストのジャッキーは、グラスゴー郊外の小さな町の出身なんだ。なんで、今はいろいろだけど、元々はサウス・ロンドンだったんだよ。今はみんなサウス・ロンドンに住んでいるしね。
—ベーシストは、ベン・ハリスではないのですね?
クリス:そうだよ、ベンはしばらく前にやめたんだ。すべて友好的だったけどね。要は、彼は今活動休止中なんだ。やることがいろいろあるんでね。
—なるほど。改めて現在のベーシストを紹介していただけますか?
クリス:ジャッキー・ウィーラーという。
—ロンドンではKing Krule、Black Country、New Road、Squidといった世界でも注目されるバンドが多くいる土地なので気になるのですが、あなたたちか見て今のサウス・ロンドンはどのような状況ですか?
クリス:シーンは結構素晴らしいよ。サウス・ロンドンのシーンで僕がとっても気に入っているのは、会場に足を踏み入れると大体知り合いがいて、ほぼみんなとってもフレンドリーだってこと。あと、サウス・ロンドンからは本当に素敵な音楽が出て来ているってこと。通説では、ここのシーンはポストパンクでアグレッシブだとされているけど、いい人たちも大勢出て来ているんだ。他に何かいいことがあったかな?これは僕も最近知ったことでね、サウス・ロンドンには僕の大好きなフォークの素敵なシーンがあるんだ。僕たちのお気に入りの会場のWindmillでは、毎月「フォーク・サンデー・ナイト」というのがある。入場無料で、テーブルでビールを飲みながら昔のフォーク・プレイヤーのフォークを聴くことができるんだ。素敵だよ。
—様々なタイプの音楽が盛んなんですね。
クリス:そうだよ、いろんな音楽があるんだ。特にこの5〜10年間で人々の音楽の好みがずっと幅広くなったんだよ。以前はもっと偏っていたけど、あらゆる音楽が聴けるようになったことで、みんなの好みもずっとバラエティに富むようになったんだ。サウス・ロンドンではいろんなジャンルが面白い形で融合している。とっても素敵だ。
—また、Fat Dogのライブではどの年代のファンが多いのですか?
クリス:それは場所によるね。ロンドンでは大抵、いろんな年代がミックスされている。僕たちの年代の20代前半から中盤までもいれば、65歳の僕の父親の年代もいる。BBC6が僕たちの音楽をかけ始めてからというもの、年配のファンが増えだしたんだ。素晴らしいよ。マーチャンダイズを買う金のある人たちだからね!僕の年代の人たちだとそれがないから(笑)。
—Scala公演やElectric Brixton公演もチケットがソールドアウトして、大変盛り上がっていたと聞いており、その時の様子も気になります。
クリス:最初にやったのはScalaだったかな。僕たちはビビっていた。本格的なヘッドライナーはあの時が初めてで、しかもソールドアウトだったけど、僕たちはどうしていいかわからなかった。「スペシャルな新曲を作るべきなのか?」とか思って、本番1週間前にパニックしていた。そして結局新曲を作って、それをセットに加えてセットを強化したんだ。ライブ中はみんな超ナーヴァスになっていたんで、ほとんどあまり楽しめなかった。でもそこから学んだと思って、Electricの時はそこまでナーヴァスじゃなかったし、自信もちょっとはついていたんだろう。それと全く同じことが1週間前にも起こったんだ。新曲をもっとたくさん作ってそれをセットに加える必要があると自分たちを納得させたんで、すごくクレイジーなことになって、またしても超ナーヴァスになってしまった。僕たちは常にこうなる運命にあるのかな。同じことを繰り返す運命にあるんだ。
(ここでモーガンが入ってきました)
—モーガン、今ScalaやElectric Brixtonで行なったライブについて話をしていたのですが、いかがでしたか?
モーガン・ウォレス:どれも良かったわ。以前よりも大きな会場でやっているんで、大分変な気がするけど。あと、ロンドンであまりライブをやらないのも変な気分よ。ロンドンでは大規模なライブしかやらないけど、数年前は私たちが住んでいるロンドンでしょっちゅうやっていたんですもの。自分とつながりのあるところの方が大切な気がするのよ。自分が住んでいるところなのに、そこであまりプレイしないとね。プレイの前にナーヴァスになるのはとてもいいことよ。Scalaの時もElectricの時も、みんな久々にナーヴァスになったんで、あれはとってもいい感じだったわ。
—Windmillでライブをやるには、あなたたちはビッグになりすぎましたか?
クリス:僕たちはこっそりやる傾向にあるんだ。シークレット・ネームでやったりしてね。結局、あそこに戻ることになるんだな。
モーガン:しょっちゅう行ってはいるけど、バンドでというわけではないの。
クリス:その方が安全だろうな。
—おっしゃるように、あなたたちは今ではロンドン以外でもライブをやっていて、SXSWでの公演や全米ツアーも大成功だったようですね。ロンドン以外のライブはいかがでしたか?ロンドンのオーディエンスとの違いや感想を知りたいです。
クリス:違いはあるよ。特にヨーロッパではそういう国もある。文化のせいなのか、単にアティチュードのせいなのかどうかはわからないけど、自分たちがうまくやったかどうかさえわからないことがある。オーディエンスの反応があまりにもあっさりしていることがあるからだ。一方で、オランダ人はライブの後にやって来て、(オランダ訛りの英語で)「これまで観たライブの中で最高でした」と言ってくれたりする。
モーガン:ノルウェーでやったギグで、出来が良くなかったんじゃないかってメンバー全員が思ったのがあったわよね。オーディエンスのほとんどが動いていなかったからだけど、ライブ後に誰かがやって来て、「これまでノルウェーがあんなに動いたことはなかった!」と言ったの。他のみんなも首を縦に振っていたわ。だから、単なる文化の違いでしょうね。
クリス:寒い国なんだから、みんなもっと動いてもいいのにって思ったけど、どうやらそうじゃないらしい。
—これまでの質問の意図としては、ここ最近のロンドンのバンドたちはFat Dogを中心にbar italia、Black Country、New Road、Fat White Familyなど、ライブのパフォーマンスでもエキサイティングなバンドが多く出て来た印象です。特にパンデミック終息後からその流れを感じていて、今ロンドンでは何が起きているのか当事者から話を聞きたかったからです。バンドがただ演奏を行なうだけでなく、ひとつのショーとしてより見応えのあるライブを行なうようになったように感じますが、これについてあなたたちの意見や感想はいかがですか?
クリス:君はある程度正しいけど、いいショーをやるためには音楽のことをあまり考えないでいいところまで行かないといけないということを忘れちゃいけない。(音楽が)いいものになることがわかっていないといけないけど、そのためにはかなりの練習を積まないといけない。ぎりぎりやれる状態でステージに上がってギグをやることはできないよ。そんなことをしたら、音楽がクソみたいに聞こえるもの。十分にタイトにできる状態でないといけない。そうすると、カオスになりながらもコントロールされた音楽のセットをやれるんだ。つまり、いいショーにするためには両方必要なんだよ。
—そうですね。
モーガン:以前の私たちはもっとハチャメチャなことをしていたんで、その頃にかなりタイトになったんだと思うわ。
クリス:僕がモーガンを持ち上げて肩にしょって、椅子の上に立つなんてこともしたよ。
モーガン:私もまさにそのことを考えていたのよ!
クリス:「俺、ここで何をやっているんだろう?」って思ったよ。ちょっと脱線しすぎたな。
モーガン:あれは一度だけだったわよね。
クリス:そう、一度だけだった。でも、それでも舵取りをしようとしている。コントロールされたカオスなんだ。
—まさにその言葉がぴったりですね。Fat Dogについての資料をいただいて確認したのですが、そこではクリスによる「最近の音楽は頭脳的すぎて、人は踊ることができない」、「僕らの音楽は、考える音楽とは正反対なんだ」というコメントがありました。これについて詳しく教えてもらえますか?
クリス:「頭脳的音楽の正反対」なんて言ったあれはほとんど、ジョーに対する侮辱なんじゃないかという気がしているんだ。ああいう曲を作っている彼のことをまるで「間抜け」と言っているようなものじゃないか。いや、僕が言いたかったのは別に「頭脳的な音楽」を揶揄しているのではないということ。僕は「頭脳的な音楽」をよく聴いているもの。ロックダウンでみんなが肉体的に動きがほとんど取れなかった時、みんな弱くなってしまったんだ。それで無気力になって、ナマケモノのように全く動かなくなってしまった。英国では2年間、みんな頭の中だけで思いを巡らせるようになっていた。そこへジョーがこういった曲を作ってきた。あれは、ちょうどいい時にちょうどいいところから出て来た音楽だった。みんなの体を動かすために完璧にデザインされたようなものだった。「今の自分の人生は何なんだ?2年間引きこもっていたんだから」と考えるのをやめるのにうってつけだったんだ。何かに飛びついて、45分のセットの間は悩みの心配をしないで済んで笑えるようになれればと。僕が言ったのはそういう意味だったんだ。
モーガン:音楽を聴いて、そのことだけを考えるのっていいことだと思うの。
クリス:そう、今だけっていうのがね。
モーガン:その瞬間にいるって感じよ。特にラウドで強烈だと、脳の中はそれだけに埋め尽くされる。それってみんなにとってとっても素敵な体験だと思うわ。
クリス:みんなで車に乗っていて、誰かが超デカい音で音楽をかけていると、音がデカすぎてそれだけしか考えられないのと同じだよ。この音楽はそのためにあるんだ。
モーガン:そういう意図なの。
—私はあなたたち5人のことをバンドというよりもパフォーマンス集団と捉えています。
モーガン:一番大事なのは楽しむこと。パフォーマンス集団はその次ね。
クリス:そうだね。そこははっきりさせておかないといけない。僕たちのことを、楽器を持っている単なるピエロだと思っている人たちがいるけどね。
—そんなことはありません。あなたたちは素晴らしいミュージシャンです。その上で、人々を楽しませることができています。
モーガン:素敵!
クリス:完璧な表現だ!
—改めてあなたたち自身について教えてください。まずはFat Dogはどのように結成されたのでしょうか?
モーガン:元々ジョーは、ひとりでエレクトロニック・ミュージックをたくさん作っていたの。ジョーだけじゃなくて、そうしていたミュージシャンが多かったんじゃないかしら。(ロックダウンで)みんな家に閉じ込められていたわけだから。私も、エレクトロニック・ミュージックじゃなかったけど、家で時間をかけて曲作りをやっていたわ。ジョーは自宅のコンピューターでエレクトロニック・ミュージックをたくさん作っていたの。その後本物のミュージシャンを迎えて、生楽器を加えていったのよ。エレクトロニックと生楽器のバランスが良かったと思うわ。そのうち彼らはWindmillでライブをやるようになったけど、座席がある場合もあったの。当時はまだコロナ禍だったんで、かなり変だったわね。私はそれよりちょっと後に加入したの。サックスを加えたかったからでしょう。楽器を弾くミュージシャンが加わると、曲をリリースする前からライブのファンがどんどん増えていったの。
—Fat Dog以前のジョーは、単にひとりで音楽を作っていただけだったのですか?バンド活動は行なっていなかったのですか?
クリス:彼は以前、Peeping Drexelsというポストパンク・バンドにいたんだけど、彼が辞めたいと言ってやめたのか、もしくはクビになったか、もしくは彼が辞めたくてクビになったんだ。でも言っておきたいのは、僕たちはいまだに彼らとはいい友達だってこと。
モーガン:あれは合意離婚だったの。
クリス:そう、あれは協議離婚だったけど、彼は単にポストパンクをやることに飽きていたんじゃないかな。子供の頃にジョーが影響を受けたのは、90年代のダンス/エレクトロニック・ミュージックが大半だったから、そういうことをやりたかったんだろう。当時のサウス・ロンドンではそういうことをやっている人間は誰もいなかった。まだステージでは、白いベストを着た男がシャウトしていたんだ。
モーガン:そう、モロにポストパンクの時代だったわ。
クリス:ステージにはギターが17本もあってさ。それでジョーは「俺はこれの反対をやってやる!」って思ったんだろう。今の僕はまるで、主の救い主の教えを説いている気分だよ。偉大なるジョーについての質問をされている。
—(笑)ではクリス、あなたはFat Dog以前は何をやっていましたか?
クリス:ただダラダラしていただけだよ。いくつかのバンドを転々としていたけど、どれもモロにクソだった。あまりにもクソだったんで、もはや彼らとは友達でさえない。僕はそれくらい冷淡でないといけなかったんだ。ロックダウン以前の僕はエジンバラに住んでいたけど、ロックダウンのせいで彼女に振られたんだ。当時の彼女と一緒に住むようになったけど、お互い耐えられなくなったんだよ。そして悲しくなった僕はFat Dogのギグに行った。彼らとの出会いはそれだったんだ。大泣きしたよ。
—モーガンはFat Dog以前は何をやっていましたか?
モーガン:実は私は、Fat Dog加入前に彼らのことを観たことも聞いたこともなかったんで、クリスとは正反対ね。インスタグラムを通じてメッセージをもらったのよ。「サックスを吹いてみる気はないか?」って。共通の友達がいたんで、私は引き受けたの。初めて彼らに会ったのはPirate Studiosだったけど、彼らのライブを観たこともないのにリハーサルに行ったのはかなり変だったわ。かなりカオスなリハーサルだったの。それから初めてギグをやったけど、その時初めてわかったのよ。以前は自分のバンドをやっていて、今もやっているけど、(Fat Dogの)ツアーの合間を縫ってやるのはなかなか大変だわ。Morgan Noiseというバンドで自分の音楽をやっているし、他にもプロジェクトをやっていたけど、Fat Dogほど強烈なものをやったのは初めてよ。自分の音楽以外は主にジャズをやっていたの。パフォーマーにとっては、ジャズの方が「頭脳的」と言えるでしょうね。私的には、Fat Dogとはまた別の意味での集中力が必要なの。ジャズの時は、オーディエンスのことは全く考えないのよ。Fat Dogの時は、ほとんどオーディエンスの存在を意識したとでも言うのかしら。もっとオールラウンドな体験ができることに気がついたの。
クリス:僕も君と同じような体験をしたよ。とてもいい表現をしたね、モーガン。
—ドラマーのジョニーがFat Dog以前何をやっていたか、ご存じですか?
モーガン:ジョニーとジョーは長年の仲なんで、きっと断続的に音楽を一緒にやってきたんだと思うわ。
クリス:ジョニーは素晴らしいドラマーだ。5歳の頃から、今のレベルのドラミングに達していたらしい。もっと褒めると、いわゆる「達人」だったんだな。
—ベーシストのジャッキーはどうですか?
モーガン:私がジャッキーを知っていたの。2人ともトリニティ(音楽大学)に通っていたんで、彼女もジャズ・ミュージシャンなのよ。わりと最近このバンドに加入したんで、この数ヶ月間の彼女の人生はかなり違ったものになったでしょうね。彼女は主にジャズ・ピアニストだったの。もちろん、ベースも弾くけど(笑)。
クリス:実は僕もベーシストなんだ。Fat Dogのメンバーはみんな、本来の楽器でないものを弾いている。僕は6歳の時からウッド・ベースとエレクトリック・ベースを弾いていたし、ジャッキーは長年キーボードをやっていた。とてもうまいんだよ。ジョーもベーシストだし、ギターと歌もやる。すべてごっちゃだけど、要は必要なことをやっているんだ。実際に必要なことをやっているんだよ。
—影響を受けた音楽についても気になります。Fat Dogの音楽のルーツに当たるアルバム3枚について教えてください。
クリス:ジョーがいないんでなかなか難しいけど…。
—そうですね。当初の予定ではジョーが参加されると聞いていたので、ジョー向けの質問があるんです。
クリス:アルバムは特定できないけど、3バンドなら挙げられるよ。
モーガン:アーティストなら挙げられるわ。
クリス:そうだね。ひとつは間違いなく、The Intergalactic Republic Of Kongoだね。
モーガン:最近のギグでティンバレスを使ったの。彼らにインスパイアされたのよ。とても良かったわ。
クリス:その通り。彼らの音楽には、とっても素敵なパーカッション・サウンドが多々入っている。あと、ある意味Disclosureかな。あと、Orbitalと言いたがっている僕の一部がいる。
モーガン:あなたがその2つを挙げたのは、どっちもこの間Glastonburyで観たからでしょう?
クリス:そうだけど、ジョーはDisclosureとOrbitalが大好きなんだよ。
モーガン:そうね、Deadmau5も。
クリス:そうだね。挙げだしたらキリがないよ。僕たちはジョーの音楽の好みを知っているんだから。ジョーはクラシックも大好きなんだ。彼はワーグナーが好きなんだよ。
—オペラですか。
クリス:そう、大好きなんだ。Fat Dogのシネマティックなサウンドはそこから来ているんじゃないかな。
—彼がFat Dogのメイン・ソングライターなんですね?
クリス:そうだよ。僕たちは、彼の才能のための単なる器さ。
モーガン:あと、エンニオ・モリコーネも。
—アレンジはバンド全員で行なうのですか?
クリス:まあそうだけど、スタジオでのジョーは強権的に支配しているんだ。嘘じゃないよ。彼は、行きたい方向をはっきりと定めているんだ。僕たちはジャム・バンドじゃない。
モーガン:テクニカルな問題が生じた時はジャム・バンドになるけど。ステージ上ですべてがおかしくなると、ジャムを始めるの。
クリス:でも、彼の場合ジャム・ソングでさえ細かいところまで作り込んであるんだ。
モーガン:メトロノームのように正確よ。
—ジョーが完成したデモを作ってきて、バンドに聞かせるのですか?
クリス:この1stアルバムはそうだったよ。
モーガン:彼はバッキングも完璧に作っておくの。エレクトロニックでバッキングを作っておいて、私たちはそれに合わせてプレイするのよ。でもリハーサルではみんなでやって、何が合うかを決めるの。
クリス:曲は、アルバムがリリースされるまでにスタジオでかなりの変貌を遂げるものもある。曲ができたからといって、その通りのままでいる必要はないんだ。結構いろいろいじくれるんだよ。
—ここからはデビューアルバム『Woof.』について、詳しくお聞きします。まずはタイトルから。“Woof.”というタイトルにした理由や意味を教えてください。もしくはどのようなバイブスが反映されているのでしょうか。
クリス:あれは、レコード会社のA&Rと一緒に中華料理を食べに行った時のことだった。ジョーは単に「君たちよくやったね!」というねぎらいから招かれたんだとばかり思っていたけど、A&Rのジョーダンは「この食事会が終わるまでにアルバムタイトルを決めるんだ。今日決めなかったら一巻の終わりで、アルバムがリリースできなくなる」と言ったんだ。かいつまんで言うと…。
モーガン:中華料理をおごるから、タイトルを決めろと迫られたのよ。
クリス:Fat Dogでは、中華料理が重要な役割を果たしているんだ。いや、すべてがその場の思いつきで最後の最後に決まるんだよ。それがなんとかうまく行くんだな。みんな、白髪になるよ。僕の心は、2年前と比べると6倍広くなっているんじゃないかな。
モーガン:愛を込めてね。
クリス:そう、愛を込めてだ。僕は愛に満ちている。
—資料ではジョーが「俺の想定では、もっとめちゃくちゃなサウンドになるはずだったんだけどな」という発言をしていましたが、もともとは具体的にどのようなサウンドの想定だったのでしょうか。
クリス:これは僕の想像だけど、頭の中にあるアイディアには物理的制約がないから、行きたいところまで行ける。つまり、どんなにクレイジーなアイディアの空想にふけってもいいわけだ。でもそれをアルバムにすると、物理面、金銭面、そして時間面での制約が生まれる。だから、自分が思い描いていた通りの音楽なんて、誰にも絶対できないんだ。資金や時間を無制限に使えるのだとしたら、思い描いていた通りのものができるだろうけど、さもなければほぼ不可能だね。彼はそういう意味で言ったんじゃないかな。
—実はその前に彼が言ったことがあります。「俺はきちんと整理された音楽は好きじゃない。このアルバムが俺の頭の中にあったものと比べるともっときちんと整理されているとしてもだ。俺の想定では、もっとめちゃくちゃなサウンドになるはずだったんだけどな」と彼は言っていました。
クリス:彼はそれを言ったことを後悔しているんじゃないかな。
モーガン:アルバム作りはライブと違うの。今回のアルバムが出るまで、私たちは主にライブ・バンドだった。もちろん、ギグをやっている時は聞き方やミックスの仕方をコントロールできるわよね。オーディエンスがスピーカーの前に立っているんで、「ここは低音をここまで上げたい」「この周波数を切り込ませてこの音量で聞かせたい」といったことができるの。立っているオーディエンスはみんな同じ体験をするわけよ。こっちがコントロールしているんだから。でも、世に出たもの(アルバム)に関しては、音のひどい携帯で聴く人もいれば、お店でBGMとして小さな音で聞く人もいる。コントロールの度合いは人任せになるわけよ。BGMとして聞かれるのを止めることはできないんだから。そんな風に考えるとちょっと変よね。少なくとも私にとっては変よ。音楽の聞かせ方によっては、その強烈さを表わすことができないんですもの。一度世に送り出したら、聴く人が好きなように聴くのよ。
—今回プロデューサーに過去にArctic Monkeys、Depeche Mode、ベス・ギボンズらを手がけたジェームス・フォードとジミー・ロバートソンが参加していますね。特にDepeche Modeはあなたたちの音楽との親和性も高く、ジミー・ロバートソンの参加は私としては腑に落ちましたが、彼らが参加した経緯を教えてください。
クリス:ジミー・ロバートソンがプロデュースした曲もあれば、ジェームス・フォードがプロデュースした曲もあれば、ジョーがプロデュースした曲もある。ジェームス・フォードは評判が高いし、この10年間で大物バンドをたくさん手がけてきた。あと彼はDominoのアーティストを手がけてきたんで、Dominoと彼の間には仕事上の関係が既にあったんだな。それで、彼が呼ばれたんだよ。ジョーがアルバムをプロデュースするのは今回が初めてだったから、彼に自信をつけてあげられる人が必要だったんだろう。僕がこんなことを言うと、ジョーは大いに嫌がるだろうけどね。「そこはあんまりこだわらなくていいよ」と言ってくれる人がジョーには必要だったんだ。
モーガン:そばにいてくれる人がいるのはいいことよ。そうすれば、ノイローゼにならないで済むから。私ならそうするから。同じ小節を5週間もやり続けるの。
—制作上でブレイクスルーになった曲やFat Dogにとって最も変化を感じさせる楽曲はどれでしょうか?
クリス:「Vigilante」が最初の曲だった。これがアルバムを如実に表していると思う。
モーガン:お気に入りの曲は、それぞれあるわ。私のお気に入りは、「Vigilante」と「Running」ね。
クリス:僕も同じだ。「Clowns」も好きだな。繊細なインタールードだ。ジョーがカニエ・ウェストのように聞こえる。
Running (Official Video)
—モーガンはなぜその2曲が好きなのですか?
モーガン:その2曲をプレイするのが一番好きなんだと思うわ。だから、自分勝手な理由で好きなの。でも、ライブではドロップがうまく行けばいい気分になるのよ。あと、聴いている時もね。アルバムでも、彼はドロップをうまくやったと思うわ。
クリス:そうだね、Fat Dogのいいところは、ドロップがゴキゲンなことなんだ。
—「King of the Slugs」が最初に公開されましたね。
モーガン:そうよ。最初に公開するには変な曲だったと思うけど。
—あれが最初に作られた曲ではないのですか?
モーガン:あのアルバムの曲の大半は、同じ頃にライブでやるようになったの。バンドになってからできたのがあのセットだったからよ。どの曲が最初に作られたのか、私は知らないけど、どれも同じ頃にできたんだと思うわ。
—個人的には「King of the Slugs」が、“Fat Dogが最高にクレイジーでエキサイティングなバンドだ!”と紹介するのに一番ピッタリな曲だと思っています。
クリス:僕もあれはいい曲だと思うけど、最初に公開された曲だし、一番苦労して公開したんで、僕はあの曲の最初の数小節を、生まれてこのかた他のどの曲よりもたくさん聴いてきたと思うんだ。
モーガン:あれは、YouTubeに初めてビデオと共にアップした曲だったんで、どんな風に受け止められるのかすごく知りたかったの。YouTubeビデオのコメントを見るためには、ビデオをクリックして最初の数秒間は聴かないといけないのよ。
クリス:その通り。
モーガン:だから、私たち全員同じ体験をしたはず。しょっちゅうビデオをチェックして、あのイントロを聴いてからコメントを読んでいたんで、あれをものすごい回数聴いたのよ。
King of the Slugs (Official Video)
—もう飽きてしまいましたか?
クリス:そうだね。
—でも、セットではあの曲をやっていますよね?
クリス:もちろん!
モーガン:ライブでやる分にはいいのよ。セクションがたくさんあるんで、オーディエンスもいろんなダンスをしないといけないの。忙しいわよ。
—『Woof.』をどのような人に聞いて欲しいですか?
モーガン:誰でもいいわ。ライブでは、ちょっと動き回って欲しいわね。でも、そうしないといけないってわけでもないし。誰にでも聴いて楽しんでもらいたいわ。
—もしくはどのようなシチュエーションで聞いて欲しいですか?
クリス:夜間のドライブかな。
モーガン:どんな音楽も、夜間のドライブで聞くのが最高よ。
クリス:どうかな。フォーク・ミュージックは絶対ないと思うけど。
モーガン:そうね。
クリス:フォーク・ミュージックは、夜間のドライブでは絶対に聞きたくないね。釣りの時かな。コロンビアの音楽はもちろん、自宅の庭を眺めながらの朝のコーヒーと一緒がいい。
モーガン:私はもしかしたら、夜間のドライブに合った音楽しか聴いていないのかもしれないわね。
クリス:君は、車さえ持っていないじゃないか。
モーガン:ドライブするのに車は必要ないわ。
クリス:夜間のドライブは気持ちの持ちようだよ。
モーガン:そうね。
—(笑)あなたたちのライブショーの活躍を聞いたり『Woof.』という最高にスリリングな作品に触れて、Fat Dogを中心にサウス・ロンドンの音楽シーンが新たなフェーズに変わってさらに盛り上がっていくのではないかという印象を受けました。そんな期待もしたくなるほどFat Dogは最高なのですが、今後の活動についてどのように考えていますか?
クリス:日本に行くのを楽しみにしているんだ。
—ぜひ!
モーガン:そうなったら素敵。私を含め、みんな日本に行ったことがないの。
—誰も日本に行ったことがないのですか?
クリス:ないんだ。母親が以前日本の旅行会社に勤めていたんだけど、母親は地球上で一番好きな国だと言っているよ。
—そう言っていただけて嬉しいです。ぜひ来て下さい。私たち、あなたたちの音楽に合わせての踊り方を知っていると思うので。
クリス:そうかい?それがわかって良かった。
モーガン:素敵。
—バンドの今後の予定を教えていただけますか?
クリス:ひたすら前進するのみだ。曲をもっと作って、バンドにもっと人を入れようとも思っている。Glastonburyでパーカッショニストを試してみたけど、あれは僕たちのライブ中最高の出来だったと思うんで、数年後にはステージに15人くらいいて楽器をプレイしていればいいなと思っているよ。子供のクワイアとかもあっていいな。
モーガン:オーケストラも。
クリス:そうだね、オーケストラ、子供のクワイア、ボクシングをする2人…。
モーガン:チャイムが必要よ。
クリス:チャイムね。家のドアのチャイムにするかな。
—そのパーカッショニストは一度限りの人だったのですか?それとも、バンドのメンバーになったのですか?
クリス:彼は正式にバンドに加入したわけじゃないけど、僕としてはぜひとも入って欲しいね。ギグには間違いなく参加すると思う。
モーガン:私は以前、彼と共演したことがあるの。彼は他のプロジェクトでドラムもやっているから。ステージが大きくなればなるほど、バンドの人数が増えることになるでしょうね。すごく大きなステージになれば、100人だって上がれるわ。
クリス:それが一番の目標だ。一番の目標は炸裂することさ。
—具体的なライブの日程は出ているのですか?
クリス:ノルウェーに行くんだ。
モーガン:木曜日(7月11日)にね。
—北欧の人たちの前でプレイするわけですね。
クリス:そう、北極圏の島でやるんでエキサイトしているよ。
モーガン:ノルウェー人は動かないってさっき言ったけど、島だったら彼らもちょっとは動くかもしれないわね。
クリス:僕は釣りに行くよ。
—あなたたちの音楽で、ぜひノルウェー人を動かして下さいね。
モーガン:島ではそうなると思うわ。
—最後に、日本でもあなたたちのファンはたくさんいます。その人たちに向けて、メッセージをください。来日でのライブも決まることを祈ってます!
モーガン:日本に行ったら、ギグに来てね!
クリス:そして、思いっきり踊りまくってくれ!日本からわざわざこのバンドをサポートしてくれてどうもありがとう。日本の人たちがアルバムを買ってくれていることをインスタグラムとかで知った時は驚いたよ。自分たちがやったことを地球の反対側の人たちが聴いてくれているなんてすごいことだ。
モーガン:あんなに遠くにいる人たちが聴いてくれているなんて、なかなか思い描けないのよ。実際に行けば、「本当だったんだ!」って思えるでしょうけど、iphoneで観るだけだと変な感じ。
クリス:音楽をちゃんと聴いてくれる人たちがいるとしたら、それは日本人だ。オーディオ・ファイルの文化があるだろう?それって一番クールなことだよ。音楽が好きすぎて、電柱を買って家の外に置いている人のビデオを観たんだ。そうすると、自分のレコード・プレイヤーに電気的干渉が起きないんだって。そんなの、英国では観られないよ。君たちは、すべてのものを真の芸術形態に作り上げるんだ。本当にすごいことだから、それをやり続けてくれたまえ!
Fat Dogアルバムリリース
1stアルバム『WOOF.』
発売日: 2024年9月6日
収録曲:
1. Vigilante
2. Closer to God
3. Wither
4. Clowns
5. King of the Slugs
6. All the Same
7. I am the King
8. Running
9. And so it Came to Pass
10. Land Before Time ※ボーナストラック
フォーマット:Mp3、CD、アナログ
Amazonで見る
Fat Dog来日公演詳細
・公演日程
– 大阪: 12月2日(月)@大阪・Yogibo META VALLEY
– 名古屋: 12月3日(火)@名古屋・CLUB QUATTRO
– 東京: 12月4日(水)@東京・LIQUIDROOM
※全公演 開場 18:00 / 開演 19:00
・チケット情報
前売り: 7,200円(税込 / 別途1ドリンク代 / オールスタンディング)
※未就学児童入場不可
・先行発売情報
– BEATINK主催者WEB先行: 7月24日(水)10:00より
– イープラス・プレイガイド最速先行受付: 7月30日(火)10:00~8月5日(月)23:59
– 一般発売: 8月23日(金)10:00~
・サポートアクト
2022年より都内のライブハウス/クラブでライブ活動を開始し、その圧倒的なパフォーマンスにより口コミと限定的なSNSの発信のみで急速に人気を獲得したbedが本ツアーに帯同。
詳細は[公式サイト]をご覧ください。
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ライター:滝田優樹
1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。
そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。
その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。
退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。
それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。
猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
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Twitter:@takita_funky