最終更新: 2024年12月1日
世界には約6000から8000の言語が存在すると言われているが、その中でも特異な存在感を放つ言語がある。
それが、1887年にルドヴィーコ・ザメンホフによって考案された人工言語“エスペラント語”である。
先に公開したプロジェクト“ジングル・ジャングル・レンジタウン”の登場人物であるアリア・ソムナンブラ博士(架空のAIキャラクター)は、大学時代、多国籍バンドに所属しており、バンドを1つにまとめられたきっかけは“エスペラント語”だったと言う。
今回、そんな“エスペラント語”について、日本エスペラント協会理事長の北川郁子氏にインタビューを実施。
世界平和への希望を込めて作られたこの言語の魅力と可能性について、深く語っていただいた。
エスペラント語についてのインタビュー
インタビュー:北川 郁子(日本エスペラント協会理事長) インタビュアー:Tomohiro Yabe
-今回はインタビューを受けていただきありがとうございます。まず、このインタビューを受けていただいたいきさつについて伺いたいと思います。架空のキャラクターがエスペラント語を学習するという内容になりますので、最初はお断りされると思ったのですが、どうしてインタビューを受けてくれたのでしょうか?
北川 郁子:エスペラントは世界中の誰もがどこでも自由に使える言語です。実際に漫画やテレビゲームのキャラクターが話す言葉としても使用されています。架空のキャラクターがエスペラントを使うことを理由にインタビューをお断りすることはありません。
<例>ゲームや映画でのエスペラント語使用例
1.わたしの創った異世界ゲーム『ことのはアムリラート』【J-MENT】|エスペラント情報誌『La Revuo Orienta』編集部noteより
2.映画『ドラえもん のび太と奇跡の島 〜アニマル アドベンチャーとは 』でもエスペラントが使用されています。
“ロッコロ族が劇中で使用している言語は架空の言語ではなく、エスペラント語と呼ばれる現実でも用いられている人工言語である。”
3『地球の歩き方 ムー』(2022年2月)では、“未知なるもの”との遭遇を想定した会話集がエスペラント語で書かれたりしています。
-今の日本ではエスペラント語に接する機会はほとんどないと思うのですが、北川さんはどのようなきっかけでエスペラント語を知りましたか?また、どうしてこの言語を話すようになったのでしょうか?
今から20〜30年くらい前までは国語や英語の教科書でエスペラントに触れた文章は時々見られていましたし、エスペラントによる留学体験記の新聞記事や書籍などもありました。今でも公文式の国語教材にはエスペラントについての文章が教材の一つになっているそうです。大学入試の問題にも時々エスペラントに関する文章が出てくることがあります。しかし、確かに今の日本では全体としてエスペラントへの認知度は低いと言えます。
私自身は、高校生の時に世界史の先生から、「かつてベトナム戦争への日本の加担に抗議して首相官邸前で焼身自殺した男性がいたが、その人はエスペラント語を話すエスペランティストだった」という話を聞き、百科事典で調べエスペラントという言葉の存在を初めて知りました。そんな理想の言語があるなら、きっといつか学んでみたいと強く思ったことを今でも覚えています。作家宮沢賢治や、井上ひさし、小林エリカの作品を読んで、エスペラントに興味を持った、という人も数多くいます。
私が実際にエスペラントを学び始めたのは、高校の英語教師となってからです。学校の外国語教育が英語一辺倒であることに大きな疑問を感じ始めていました。日本はアジアの国にありながら、なぜ学校では隣国の韓国語も中国語も学べないのだろう。米国からの留学生をクラスに受け入れた時とアジアからの留学生を受け入れた時の生徒の反応の大きな落差を目の当たりにし、英語一辺倒の外国語教育が生徒たちの世界観に好ましくない影響を及ぼしているのではないか、と考えるようになりました。自分自身も米国留学で得た友人関係や英語を媒介とした国際交流の世界にどっぷり浸かってきた時期もありましたが、英語だけが国際語だとしたら、この言語による不平等は際限がないのではないか。たとえば日本で英検1級やTOEIC900点以上だと高く評価されるレベルですが、ネイティブとの論議や、論文を書く時にその格差を思い知らされます。また、ヨーロッパを一人旅した時にフランスやイタリアの街の中では、英語が全然通じなかった経験も重なり、自分自身がいかに英語過信に陥っていたかを反省させられました。
世界には6000から8000の言語があると言われていますが、多数の言語を習得するにはお金も時間も必要です。私が英語以外のさまざまな言語をかじりながらも挫折し、最後に手にしたのがエスペラントの独習書『エスペラント四週間』(大学書林)でした。まずその学びやすさに驚き夢中になりました。どこの国の言葉でもない、その中立性からくる自由さはコミュニケーションの平等性という観点からも非常に解放感がありました。そして、初めて間もない頃、当時は自由な交流が困難であった韓国での“日韓青年エスペラントセミナー”に参加し、多くの韓国の学生や青年たちとエスペラントで交流できたことは、大きな感動でした。エスペラントが生きた言葉として使われることを実感し、本気で勉強する気になりました。
その後、国際青年エスペラント大会や世界エスペラント大会を始めとした国際的なイベントで30カ国以上の国々を訪れ世界のさまざまな地域に友人ができました。60カ国以上の国、地域の人々が集い、通訳を介さずに、会議や講演、演劇等さまざまなプログラムを体験できる醍醐味はエスペラントならではのものでしょう。 またインターネットでのイベント、交流も盛んで、これほど世界中の多様な人たちと知り合える言語は他にないのでないかと、使えば使うほど確信するに至りました。英語を話す人間の方がはるかに多いのは事実で、その実用性は否定しませんが、エスペラントのコミュニティの深さ、広さ、多様さ多彩さはまさに“英語では見えない世界が見えてくる”面白さに満ち溢れていて、私の場合、何十年経っても魅了され続けています。
1985年から勤務校ではエスペラント部を作ったり、1998年からは正規の授業で教えたりもしました。1986年に立ち上げた川﨑エスペラント会という市民サークルでは主宰者の1人として、エスペラント講座や地域の国際交流イベントの企画にも関わっています。
-エスペラント語の“エスペラント”とはどのような意味なのでしょうか?
Espero(エスペーロ、希望)+anto (“〜する人”を表す接尾辞)で、つまりEsperanto は“希望する人”という意味になります。これは創案者ザメンホフのペンネームでもありました。
ルドヴィコ・ザメンホフとは
-エスペラント語を作ったルドヴィーコ・ザメンホフはどのような人物だったのでしょうか?ルドヴィーコ・ザメンホフ (Ludoviko Zamenhof, 1859–1917) は、今のポーランドのビヤウィストクで、ユダヤ人の家庭に生まれました。当時その地は帝政ロシアの支配下にありました。人口の上ではユダヤ人(イディッシュ語話者)が他の民族より多かったのですが、ユダヤ人のほかにもポーランド人、ロシア人、ドイツ人が住んでいました。言葉が違い、宗教が違う民族どうし、反目といさかいが日常茶飯事でした。
“もっとお互いの理解と寛容があれば”と幼い頃から願ううちに、異なる民族を結ぶやさしい共通語を夢見るようになったのです。13歳の時には既にその原型を作り始めているということは、彼は優れた語学的才能の持ち主であったとも言えます。職業的には、言語学者ではなく医学部を卒業し眼科医という道を歩みますが、彼の“個々の人間は、いずれかの国家・民族に属するものだという常識の枠をこえて、まずは人類の一員であるべきだ”という考えは、ホマラニスモ(人類人主義)と呼ばれ、彼の思想の根本でした。
-ザメンホフはソ連下のポーランドで生まれたユダヤ人だったそうですね。最近の国際情勢を考えてもエスペラント語は今、再び学ぶ価値のある言語ではないかと思います。エスペラント語の中立性が、異なる文化の人たちのコミュニケーションにどのような利点をもたらすと思われますか?
昨今では、“多文化共生社会”という言葉が、どこでも変われるようになってきていますが、エスペラントはまさに、その多文化、自分とは異なるさまざまな文化、言語に触れる機会を与えてくれる橋渡し言語としての役割を果たしてくれています。現在のように、英語だけが共通語として強調されると、どうしても英米文化、英語ネイティブの文化を“国際的”と誤解してしまうことがあります。先ほど質問のお答えと重複しますが、“ネイティブ(生まれながらの話者)がいない”言語の持つ、中立性、ネィティブが“先生”で、そうでない人が“生徒”という不平等さからの解放感は、エスペラントによりコミュニケーションの大きな利点です。つまり、一方にいわば生まれながらにしてその言語を操る人がいて、他方には大変な努力をしても“ネイティブ”には及ばない人がいる、という異言語間コミュニケーションにおける、不平等、格差が存在しない、ということです。
-エスペラント語の発音について教えてください。エスペラント語は英語など他の言語と比べて発音しやすいのでしょうか?
エスペラントは“一字一音”で英語のように同じスペリングで発音が違うということはありません。基本的にはローマ字読みで、また母音が日本語と同じ5個 (a, e, i, o, u )で日本人にとっては発音しやすいと言えます。ただし、Yではなく Jが“や行”の子音を表し、ja, ju, jo は“ヤ、ユ、ヨ”に相当します。また、ca, ci, cu, ce, co は“ツァ、ツィ、ツ、ツェ、ツォ”です。いくつか字上符 (^) のついた字があります。Ga, gi, gu, ge, go が“ガ、ギ、グ、ゲ、ゴ”であるのに対し、ĝa, ĝi, ĝu, ĝe, ĝo は“ジャ、ジ、ジュ、ジェ、ジョ”です。
アクセントの位置は二音節以上の長さのある単語は語末から二番目の母音に強勢があると決まっています。ですから、これらの規則を覚えてしまうと、エスペラントは音読や発話することに苦労のない言語と言えます。
-日本でも坂本真綾さんが「Vento(風)」という曲をエスペラント語で発表しています。音楽においてエスペラント語は歌いやすいのでしょうか?
YouTubeなどでは国内外問わず、多くのエスペランティストのアーティストの楽曲を聴くことができます。エスペラント界だけでなく、自国での歌手としての活動で有名な人たちもいます。イタリアのKjaraなどはその1人。歌いやすいかどうかについては、先ほどのお答えとも関連しますが、発音が簡単なことは事実ですが、歌の場合、アクセントをリズムに合わせるなどの工夫がいることは言うまでもありません。
以下、坂本真綾さんのお名前が出てきましたので、関連分野について私より詳しいエスペランティストに訊いてみました。
「Vento」は坂本 真綾さんが2009年リリース(作詞・作曲:窪田ミナ)した曲ですね。アニメ・声優界隈でのエスペラント楽曲としては、声優、広橋涼(ひろはし りょう、1977年。新潟県出身。京都府育ち)が歌う、「ルーミス・エテルネ(Lumis Eterne)」は、けっこう知られています。
原文どおりで正しいかどうかは怪しいが、ググって出てくる歌詞は以下のとおりです。
「Vento」坂本 真綾
https://www.utamap.com/showkasi.php?surl=B32489作詞・作曲の窪田ミナは、ピアニスト、音楽プロデューサ。1972年生まれ
窪田ミナ(Wikipedia)窪田ミナ プロフィール(Victor Entertainment)エスペランチストだと自称されています。音楽業界ではそう自称しているのは、たぶん 唯一 この人ぐらいかと思います。
-エスペラント語は世界でどれぐらい普及しているのでしょうか? また、日本にはどれぐらい話者がいますか?
エスペラント語を話す人は世界中に何どのくらいいるのか。これはたいへん難しい質問ですが、一般的には100万〜200万人程度と言われています。インターネットが利用されるようになってから、SNSなどでも、エスペラント語での発信もよく見られますので、学習したことのある人を入れれば、その数はもっと遥かに多いと思われます。日本国内でも、どのくらいの人がエスペラント語で話せるかという質問もお答えするのは難しいので、あくまでも推測になりますが、学習者を含めれば5000人〜10,000人程度ではないでしょうか。
この数だけを捉えますと、エスペラント話者のコミュニティはとても小さなものに見えますが、世界に6000〜8000あると言われている言語の一言語あたりの母語話者数は、実は平均100万人程度と言われ、話者が数千人という言語も多数あります。そういうことを鑑みると、エスペラント語話者のコミュニティーは決して小さくないとも言えます。
2022年の調べでは、エスペラントで書かれた Wikipedia の“純記事数”は 30万を超え、順位は第36位につけています。エスペラント語話者たちは、一箇所に暮らすのでなく、世界のさまざまな地域に存在していますので、インターネットの使用は実に効率の良い、交流と出会いの場となっています。そもそも異文化の人々と交流したいという気持ちからエスペラントを学ぶ人が多いわけですから当然といえば当然の結果かもしれません。
-日本では宮沢賢治が自分の詩をエスペラント語に訳していたということをこの取材をきっかけに知りました。大正時代や昭和初期には今よりも日本でエスペラント語が普及していたのでしょうか?
1906年には、二葉亭四迷がロシア留学中に出会い、エスペラントの教科書“世界語”という本を発表しました。知識人文化人の間ではかなり注目を浴びたようです。
当時は国際連盟でも、比較的小さな国を中心に共通言語を採用しようという動きもありました。日本の新渡戸稲造は国際連盟事務局勤務時代、連盟に提出された“エスペラントを公立学校の課目に編入する”提案に関連する調査報告書を監修、第3回総会において可決させる努力をしました。残念ながら欧米列強の言語には敵わず潰されてしまったそうですが。インターネットなどはない時代ですが、鉄道や電話の普及等で人々の移動、コミュニケーションがグローバルになり、世界中が国際的な繋がりに希望を感じ始めた時代で、労働者や左翼的な運動の広がりもエスペラントを広める一つの要因だったと思います。社会的なエスペラントへの注目度は今よりも強かったと思います。
-エスペラント語は新語を提案できるということを聞きました。私たちのようにこれからエスペラント語を学習する人にも提案できる機会はありますか?また、エスペラント語の最新の語彙にはどういったものがありますか?
エスペラントは、語根と語根の組み合わせで新しい別の単語を作ることができます。エスペラントを学ぶ楽しさの一つでもあります。
例えば、100年以上前にケータイ電話などはなかったわけですが、現在では“poŝo(ポケット)”と“telefono(電話)”を組み合わせ“poŝtelefono(ポシュテレフォーノ)”という言い方が一般的になっています。コンピュータ関連用語、最近では“コロナウイルス”、“パンデミック”、“クラスター”等々、昔は使われていなかったものや、用語はどのようにエスペラント語に決められていくのかに、興味がおありだと思います。エスペラント界にはアカデミーと呼ばれる組織があり、これは確かにエスペラント界の学術的な権威ではありますが、新語を決めるのは、そのアカデミーの決定を待つわけではありません。エスペラント使用者が、次々と新しい事象について新表現を使い始めます。
例えば、コンピュータは“komputilo”や“komptero”, コロナウイルスは、 “kron-viruso”や“koronaviruso”等々。
アカデミーは、実際に使用されている頻度、定着を見て、1語に決めるのでなく、2語どちらでも良いという判断をすることもあります。これは権威に頼ることなく民主的な方法と言えると思います。
日々生まれる新語表現については、日本では2023年に『エスペラント現代用語集』(山川修一編)が出版され、これは紙版も販売されていますが、日本エスペラント協会のウエブサイト会員ページからは無料ダウンロードもできるようになっています。
-日本でもエスペラント語を話す人の集会やイベントがあるのでしょうか?
はい、日本には、各地域にエスペラントの地方連盟や、地域の市民サークルが多数存在し、大小さまざまなイベント、公開講演会、入門講座、合宿等を開いています。一番大きなものは、毎年日本のどこかで開催される日本エスペラント大会です。昨年の第110回大会は川崎市で開かれ、今年の第111回日本エスペラント大会は、韓国の全国大会との共催で韓国全州で開かれます。1915年から現在に至るまで、年に一度、エスペラントの世界大会が開催されています。世界中のエスペランティストが集まり、通訳なしのエスペラントによる会議、講演、文化交流が展開されています。今年の夏には第109回世界エスペラント大会が初のアフリカ大陸、タンザニアで開催されました。
-この記事をきっかけにエスペラント語で文章や歌詞を書いてみようと思う人たちが出てくるかもしれませんが、その内容が正しいかどうか個人で判断するのは難しいと思います。Googleなどの翻訳アプリでも訳すことは可能ですが、正しいかどうかを判断できません。個人レベルにおいて、どうやって正しい内容なのか確認できる方法はありますか?
個人の趣味レベルで文章や歌詞を書きたいのであれば、地域のエスペラントの市民サークルなどで学習し、ベテランのエスペランティストに添削をしてもらう、というのが簡単な方法でしょう。商業レベルでの創作活動の監修ということになれば、日本エスペラント協会から適切なエスペランティストを紹介し、その方と個別に契約をしていただくということも可能で、実際に過去にはそのようなことも行っています。
また、人による指導を受けずに、個人で正しい文章や歌詞を書くための方法については、友人のエスペランティストが以下のように詳しく答えてくれました。
確かに、Googleなどの翻訳アプリは日々改良されていますが、その結果が常に正しいとは限りません。自動処理には限界があります。
エスペラントに限らず、言語学習者が自作の文章を添削する際には、一般的に以下の3ステップに従うとよいとされています。
・意図に沿った意味が正しく伝わっているか確認する
・文法的な誤りを修正する
・文体を整え、表現を工夫する自己添削を行う場合も、この順序で進めることが最も効率的で、問題を早く解決できるはずです。
①意図に沿った意味が正しく伝わっているか確認する
自動翻訳を使用した場合、あるいは自分で翻訳した場合でも、意図に沿った意味が正しく伝わっているか確認する必要があります。特にGoogle翻訳は処理中に英語を参照して解釈することがあり、そこで英語の多義語や慣用表現が誤って参照されると、元の意図と異なる表現が出力されることがあります。また、似た表現が慣用句として解釈される場合もあります。逆翻訳(再翻訳)を試みることで誤りを発見できることもありますが、必ずしも発見できるとは限りません。そのため、翻訳結果を自分でしっかりと理解することが重要です。日本語-エスペラント辞典を使って作文をした場合には、逆にエスペラント-日本語辞典を参照しながら、選んだ語が意図と異なる意味を持たないか確認します。大規模言語モデルを使った翻訳アプリは、比較的意図に沿った翻訳を提供することが多いですが、人が考える意味の枠組みには個人差があるため、アプリが常に正確に意図を解釈するとは限りません。基礎的な語彙を駆使し、十分に意味を伝える力を身につけることが重要です。幸い、先人の働きにより日本語とエスペラントの辞書は充実しており、当会書籍販売にて大小各種辞書を販売しています。
②文法的な誤りを修正する
単純な形式的な文法の誤りは、一部、機械的に修正することが可能です。たとえば、Esperantiloはエスペラント専用のスペル・文法チェッカーで、格の不一致、主語の欠落、述語の不足、動詞と目的語の不適切な組み合わせなどを指摘してくれます。また、LanguageToolもエスペラントに対応しています。ただし、意味に基づいた文法的な誤りはこれらのツールで完全に修正することはできません。意味に合った文型の選択、時制の適用、単数・複数の使い分けなどは、ある程度は大規模言語モデルの翻訳アプリで対応できますが、最終的には自分が何を伝えたいのかを深く考える必要があります。意味的な正しさについての修正はここまでですが、読者が読むべきものを作るにはさらに進めていくことが求められます。文法に強くなるために、当会ではドリル式エスペラント入門を無料で公開したり、各種文法解説書籍を取り扱っています。
③ 文体を整え、表現を工夫する
仕上げる文章は、最も簡潔で説得力のあるものにするべきです。代名詞の指示対象を明確にし、多様な表現を取り入れて単調さを避け、文の長短でリズムをつけ、同じ構文の繰り返しを避けるよう心がけましょう。表現を工夫するためには、Petro Desmet著の『Esprimaro – Promenoj en Edeno』などの表現集を参考にするとよいでしょう。歌詞においては、エスペラントは英語に比べて単音節語が少ないため、特にアクセントとリズムの一致に一層の注意を払う必要があります。
-エスペラント語はザメンホフが設計した言語のため、学習しやすいと言われているのですが、どういったところが学習しやすいのでしょうか?
エスペラントは発音や文法の規則性が極めて合理的に貫かれていて、英語など他の言語で悩ませられる“例外を暗記する”といった不合理な側面が削ぎ落とされているところが、ストレスを感じずに学習を進められる大きな要因となっています。
例えば、英語で言えば、必ず覚えさせられる、“不規則動詞の活用”。エスペラントの場合、活用語尾は現在形ーαs, ,過去形-is, 未来形-osと決まっているので、非常に合理的です。エスペラントが他の言語に比べて5倍から10倍も早く使えるようになる、というのも、発音、文法の簡潔さにあると言えます。だからと言って機械的で無味乾燥な言語というわけではなく、その表現力の豊かさは、数々の原作、翻訳文学の出版、バラエティに富む総合雑誌などにも表れています。
-これからエスペラント語を学習する人たちにとって、おすすめの学習方法(可能であればオンラインでできる学習方法でお願いします)があれば教えてください。
エスペラント語使用者には、独習によって勉強を始めたという人が多くいますが、現在では教材の多くがインターネット上にあります。以下、いくつか例をあげます。
・「レルヌ!(学ぼう)」はユーザー登録をしてさまざまな教材を試すことができます。
https://lernu.net/
・日本エスペラント協会ウエブサイトからは
①初心者向けサイトSaluton! ~エスペラントとは~
https://saluton.jei.or.jp/
②「ドリル式エスペラント入門」
https://kurso.jei.or.jp/
・ゲーム感覚でさまざまな外国語を学べる duolingo も人気です。とりわけコロナ禍の中、世界中の若者にエスペラントの学習者を増やしたと言われています。現在は、英語版だけになってしまいますが、 無料アプリですので、一度試してみることもおすすめです。
・『エスペラント語初級 自習用教材集』(川崎エスペラント会北川久氏が作成)では、オンラインで活用できる無料学習自主教材が色々紹介されています。
https://padlet.com/hisasikit/padlet-igw1pu1jznhsf11i
・学習以外では、Esperanta Ponto(日本在住の若いエスペランティストたちがエスペラントの面白さ、意義を発信)など、さまざまなYouTubeチャンネルがあります。
その他、対面で学習したい方は、国内各地域のエスペラント会に連絡を取ることをお勧めします。日本エスペラント協会にご連絡をいただければ、地域のサークルをご紹介できます。(メールアドレス:esperanto@jei.or.jp)
また、遠隔地にお住みの方には通信講座もお勧めです(沼津エスペラント会メールアドレス:esperanto@thn.ne.jp)
-最後にエスペラント語をこれから学習する人たちにメッセージをいただけますでしょうか?
AIによる自動翻訳が急速に進化する中、外国語学習への意欲や意義は薄れるという側面はあるかもしれませんね。しかし、世界の多様な価値観に触れ、異文化を背景にする人々との直接的な交流、対話は、世界が戦争や憎しみ、対立に溢れる現代においてこそ、一層の重要さを増してきていると思います。異なるものへの寛容さがあれば、世界はもう少しだけ住みよくなるのではないでしょうか。エスペラントは現代において、多様な価値観、多様な言葉、文化を知る架け橋の言語としての役割を担うことができると思います。そして、ネット上であっても対面であっても、それはとても楽しく愉快で喜びに溢れた交流となることでしょう。エスペラント界には“Pasporta Servo(パスポルタセルボ)”と言って、お互いにエスペランティストを無料で泊め合う制度もあります。単なる観光旅行ではなく、現地の人々と知り合える旅は、安心で意義深く、しかも安価という魅力があり、特に若い人たちにはオススメです。エスペラントの世界は一度扉を開くと、驚くほどの豊かさと多様な楽しみ方に溢れています。ぜひ、皆さんもこの扉をノックしてみてください!
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ライター:Tomohiro Yabe(yabori)
BELONG Media/A-indieの編集長。2010年からBELONGの前身となった音楽ブログ、“時代を超えたマスターピース”を執筆。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻
これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。
過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。
それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行。
現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。
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