最終更新: 2025年3月27日
the pure simulation, with no hesitation, no imitation
-まりりん:なるほど。最初の1枚目のアルバムから聴かせていただいたんですが、アルバム全体というより曲ごとに雰囲気が異なっていて面白いなと思いました。アルバムの制作のお話が出たんで、今作について聞きたいんですけど、まず、アルバムタイトルがとても長いですよね。『the pure simulation, with no hesitation, no imitation(ザ・ピュア・シミュレーション、ウィズ・ノー・ヘジテーション、ノー・イミテーション)』。これを直訳すると“純粋なシミュレーション。何のためらいもなく、何の真似もしない”となりますが、このタイトルにはどういう意味が込められているんですか?
daijiro:今までの作品を聴いてもらえればわかるように、僕らは今まで色々なジャンルを作ってきました。そうやって色んなジャンルの楽曲を制作する中で、“果たして僕らの音楽ってなんなんだろう…?”って思うことが結構ありました。今回はそんな悩みを払拭するためにも、“これが俺らだ!”っていうコンセプトを打ち出そうと思って、その時にタイトルとして思い浮かんだ単語が“simulation”でした。音楽制作ってすごく流動的で、その時の自分たちの状態によって出てくる音も変わってくると思います。そう思うと全ての創作物ってその時点でのシミュレーションに過ぎないのかなって。過去作とは全然違うけど、躊躇とか真似事はなかったし、純粋に楽しかったので、それを全部ひっくるめてこのタイトルになりました。
-まりりん:去年の夏頃から作り始めた時は、こういう作品にしようというよりは、まず曲を作って、それをアルバムに入れるという感じで、完全にゼロから作り始めたというイメージですか?
milano:3枚目までのスタイルは、その時にできている曲をとりあえず全て完成させようという感じでした。3枚目まではデモ曲も全て形にできるところまでやろうという感じで制作していたんですけど、4枚目に関しては、去年の夏頃から作り続けてきたデモがお互いに溜まっていて。その中で、お互いのタイミング的にハマっていたジャンルが似ていて、このジャンルを目指してみたいというものを、たくさんできたデモの中からピックアップしてみて。“これをやってみようか”と選んでいったのが今回だと思います。選んで作っていく中で、例えばアルバムの1曲目が完成した時に“今回、このコンセプトを全てに反映させたら、絶対良いアルバムになるんじゃないか”って確信できたんです。その後、他の選んでいたデモ曲のアレンジも、“1曲目がこの曲なら、このアレンジはこうしたほうがいい”というように、今までよりも明確にゴールが見えました。今までの3枚は、とりあえず曲を作って、それをアルバムの曲として並べているという形で、アルバムという形ではあるけど、そこまで一本筋の通ったコンセプトは見えてこなかったなと今回作り終えて思いました。今作に関しては、1曲目が完成した時に“もう1曲目はこれでいきたい”と思えるほどできが良くて。じゃあこの曲に対してこういうアプローチをしていきたいというゴールが明確に見えたんで、今回の作曲に関しては、それがメインだったと思います。
-まりりん:1曲目の「19(ナインティーン)」が完成した時、お二人がハマっていたジャンルの音楽や今作のコンセプトを端的に言語化すると、どういう言葉になりますか?
daijiro:ミッドウェスト・エモですね。
-まりりん:なるほど!
daijiro:僕はあまりロックを聴いてこなかったんで、milano君とは聴いてきた音楽のジャンルが全く違うんです。バックグラウンドが違うのが良いところかなと思っていて。僕はエレクトロやヒップホップをずっと聴いていたんで、録音して何かを作るという時点で新鮮でした。聴いてきた背景が違うところから始まっているんで、2人の良さが出る音楽はないかなと探していました。去年の夏にmilano君にミッドウェスト・エモを教えてもらって、良いなと思って。この感じだったらギターも合うし、歌い方としても良いかもと思い始めて、それでハマったというイメージですね。だから話も進めやすかったですし、ミッドウェスト・エモのアーティストをイメージしていました。
-まりりん:ちなみに、どんなアーティストを参考にしていましたか?
milano:僕が最初に良いなと思っていたのは、Tiny Moving Partsというアメリカのバンドでした。最終的にはAnorak!という日本のバンドで意見が一致しました。Anorak!が去年の夏頃にアルバムを出して、それがめちゃくちゃ刺さったんです。ミッドウェスト・エモのロックな感じとダンスミュージックを融合させている感じが良くて。こういうスタイルを目指しつつ、真似をするわけではないけれど、こういう方向に自分たちの曲を持っていけたら良いなと思っていました。本当にAnorak!が参考になっていたと思います。
daijiro:あとはAmerican Football、Dowsing、sportも聴いていました。ミックスやマスタリングも自分たちでやっているんで、その時点でも参考となる曲を挙げていたんですけど、だいたいそのあたりですね。Anorak!, Dowsing, American Football, Tiny Moving Partsです。
flip-flopsのルーツ
-まりりん:少し戻ってしまうんですけど、先ほどお互いのバックグラウンドが違うと言っていたと思うんで、それぞれどういうルーツから音楽をするようになったのかを教えてもらえますか?
daijiro:兄の影響もあって早くから洋楽を聴いていました。中高の時、周りの友達が音楽に詳しくて。USのポップスとヒップホップを聴いていました。Kendrick Lamarや2 Chainzなどです。高校生になって、エレクトロ系、ダブステップやトラップミュージック、ヒップホップのビートの部分を知りたくなって、そこからベースミュージック、EDMが流行り、SkrillexやFlux Pavilionにハマって、自分でも音楽を作っていました。ロックは高校2年生くらいの時に友達に誘われてドラムを始めたんですけど、最初は嫌そうな雰囲気を出していました(笑)。でも、やってみると意外と楽しくて。その時やっていたのがGreen Day、Arctic Monkeys、Biffy Clyroでした。周りの子もみんな海外の音楽が好きだったんで、そういうのをやっていました。色んなジャンルを経験して、大学生になってからはインディーフォークやインディーロックにハマって。デンマークに行ったあたりでBon Iverにめちゃくちゃハマりましたね。僕らはアコースティック系の曲を出していた時期があるんですけど、あれは完全にBon Iverの影響です。あとNovo Amorも。ああいう感じなら自分でもできるかもと思いました。
-まりりん:では、音楽を始めてからは、その時聴いて好きになったものをそのまま取り入れていくという感じですかね。
daijiro:そうですね。基本的に日本の音楽に触れるタイミングがなかったというのもありますし、今さらどうやって掘り下げていけばいいのか分からないんです。基本的にUSかUKロック、UKのグライムを聴いています。最近、日本の曲を聴こうと思って、Anorak!を教えてもらいました。
-まりりん:milanoさんはどうですか?
milano:僕はもともとパンクバンドをやりたかったんです。THE BLUE HEARTSみたいなことをやりたくて、13歳くらいまでそう思っていました。そこから日本のパンクロックに影響を受けて、その時は、ELLEGARDENが好きでした。彼らの源流みたいな、バンドも好きで、Weezer、blink-182、New Found Gloryとか、アメリカ西海岸のバンドに憧れがありました。バカだけど底抜けに明るくて、でもメロディーがなぜか切ないみたいな。エモという音楽ジャンルもすごく好きで、Jimmy Eat Worldをよく聴いていましたね。高校時代は日本のロキノン系も好きで、クリープハイプのライブにも行っていました。中高時代は日本の邦楽ロックも好きだし、アメリカのロックも好きというのがルーツです。大学生になってからは幅を広げたいと思って、先輩の影響も受けて洋楽をたくさん聴いてみたり、邦楽でもインディー系のナンバーガールや、昔の邦楽ロックと呼ばれる前の日本のロックを聴くことができて、スーパーカーも好きでした。それらのバンドに今でも影響を受けていると思います。その後はどんどんジャンルが広がって、ジャズ・ファンクなども聴くようになりました。もともとギターを専門でやるというよりは、作曲家になりたかったんですけど、ギターの面白さに大学の後半でようやく気づいたんです。インスト曲も楽しいし、ジャズ・ファンクも熱いしということで、ジャンルは関係なくなってきていますが、ポップ・パンクが一番のルーツかなと思っています。
-まりりん:今までの曲を聴くと、“ああ、なるほど、あれはこれだ。あれはこれで…”というのが分かって面白いですね。1枚目にはヒップホップみたいな曲もあって驚きました。今回もインスト曲があるんですけど、久しぶりにインスト曲が入っているアルバムを聴いたなと思って。すごく好きなんですけど、アルバムの真ん中にインスト曲を入れてくれる人は最近、あまりないですよね。
milano:ファーストアルバムを出した時に1曲目をインストにしたんですよ。意外とあれが良かったなと思って。4枚目にして、もう一度インストを入れてみようということになりました。
-まりりん:インスト曲から次の曲への繋ぎがとても気持ちよかったです。あれは一発録りでやったんですか?
milano:前半のインスト部分だけ一発録りです。
-まりりん:スタジオで2人で合わせて?
milano:彼の家でライン録音したんですけど、何回か繰り返して、一番良かったテイクを採用しました。最後のフレーズだけ決めて、あとはdaijiroがコードを弾いて、盛り上げるかどうかを合わせながら、僕が上で動くみたいな。“1分半で終わらせよう”と言っていましたね。
-まりりん:先ほどロックというよりは、芸術作品の一つとして聴いてもらえていると言っていましたが、アートワークにもこだわりがあるのかなと思いました。今回で雰囲気が変わりましたが、それまでのアルバム3枚は全て2人が並んでいる写真を使っていますよね。そこから今回は変えてきたのには何か意味があるのかなと思って。実際のところ、どうですか?
daijiro:1枚目は“並んで撮りたいよね”という感じでした。2枚目はコンセプトが決まっていなくて、並んでいるのが続くのは面白いかもねという感じでしたね。今回に関しては、そもそも並ぶという話にはならず、カバーの前に撮影したアーティスト写真は車の中で撮った写真を使いました。今のインスタグラムの写真を撮ってくれている、北海道で知り合ったカメラマンの方に撮影を頼んで車の中で撮ってもらった写真が、僕たちが思い描いていたエモっぽい、ミッドウェスト・エモの雰囲気が出ていたんです。
-まりりん:ミッドウェスト・エモっぽい、ラフな感じが出たんですね。
daijiro:そうですね。それに合わせて、適当に撮ってみようとなって。情報量が多い方が良いということと、あまり決めたセットで撮るよりも、作ったその日という感じの方が、アルバムのトラックや音質の感じを考えても、そっちの方が良いだろうとなりました。アルバムカバーになっている写真は、録音している部屋にパラソルを広げて撮ったんですよ。
-まりりん:自分たちでカメラを置いて?
milano:そうなんです。三脚もなくて、本を積み上げて撮りました。
-まりりん:では、そのイメージに合うものが部屋にあったという感じなんですね。
daijiro:そうですね。物も多いですし。
-まりりん:今までのジャケットとは雰囲気が違いますよね。今さらなんですけど、2022年から活動を始めて、4枚目のアルバムというのはすごいスピードですよね。1年に1作品以上リリースされていますよね。
milano:そんなに出していますか?暇なのかな(笑)?
-まりりん:作ったら出したいという感じですか?
daijiro:今回もお互い10曲ずつくらい作っているんで、合わせて20曲にして、そこから10曲に絞りました。
milano:他のグループと比べると多い気がしますが、そんなに頻繁にライブができるわけではないんで、とにかく制作を続けていたらこうなっちゃったという感じかもしれません。