最終更新: 2025年5月25日

没入感を生む洗練された音世界


-滝田優樹:サウンド全体の印象としては非常に洗練されていると感じました。これだけ音がクリアで陶酔感を感じさせるものにまとめ上げたあなたたちの手腕に関心したのですが、アルバムという形にまとめ上げていく過程で見えてきたサウンドの方向性、コンセプトはどういったものだったのでしょうか? ライブでの演奏を意識したというよりもイヤホンやヘッドホンで聴いて没入感のあるものにしたと感じています。
ソル:私たちの音楽は、たくさんのレイヤー、色彩、そして曖昧なジェンダーロールで満たされているんだ。
ニコ:ある意味では、声が人工的に後処理されているから、よりスタジオプロジェクト的な側面が強いかもしれないね。でも、それを“ライブ”にも反映させていて、いくつかの曲はもっと“ライブ”っぽく聴こえるように再アレンジして、同じボイスエフェクトを使っているんだ。僕たちは親密で内省的な音楽をやっているけど、“ライブ”パフォーマンスは感情的な幸福感と露骨な性的コンテンツでも満たされているんだよ。

ビートへの探求

-滝田優樹:陶酔感や没入感を与えるサウンドにはバンドサウンドとエレクトロニックミュージックとの邂逅もあって、それにはビートのプロダクションも重要になったのではないかと感じたのですが、ビートやリズムについて今回ポイントを置いていたことがあれば教えてください。
ソル:Portisheadからは大きな影響を受けたし、エレクトロニックミュージックへの愛もあるの。私たちの最初の協力者で、最初のシングル「everything hurts」のドラムとシンセのプロデューサーだったニタ(CYBERMISSION)が、その曲のために素晴らしいリズムを作ってくれて、それが曲を本当に力強く後押ししてくれたんだ。
ニコ:その意味で、彼女はBEDの音のアイデンティティを作り上げる上で非常に重要な役割を果たしたね。バンドを結成する前はテクノをやっていて、エレクトロニックミュージックは僕が音楽的にやるすべてのことの基調になっているんだ。生ドラムはあまり好きじゃなくて、僕のアイデアはいつも、パンチの効いたエレクトロニックビート、アンビエントなシンセ、そしてサウンドスケープのレイヤーを、クラシックなシューゲイザーサウンドと混ぜ合わせようとすることだったんだ。

制作の転機となった楽曲

-滝田優樹:制作上でブレイクスルーになった曲やBEDにとって最も変化を感じさせる楽曲はどれでしょうか? 理由も併せて教えてください。
ニコ:アルバムの制作中、もちろん「everything hurts」はすごく重要で、僕らにとって画期的な瞬間だったよ。あと、「throat」みたいな僕たちのお気に入りの曲の一つは、僕たちが探していたサウンドだっていう確信を与えてくれたんだ。「Slut」も重要な曲で、よりシンセポップなサウンドと露骨な歌詞を探求した曲だね。「Heart shaped bed」は、元恋人たちと喧嘩した後、雨の降る夏の日に泣きながら書いた曲で、これもすごく大事な一曲だよ。
ソル:私たちの新しい曲がブレイクスルーになるはずだよ。プロデューサーのニノ・セイスと、シンセを多用したトラックに今取り組んでいるところなんだ。

リスナーへのメッセージと今後の展望

このアルバムを聴いてほしい人

-滝田優樹:『everything hurts』をどのような人に聴いてほしいですか? もしくはどのようなシチュエーションで聴いてほしいですか?
ソル:失恋して泣いている時、ベッドで一人で物思いにふけっている時、美しい景色の中をドライブしている時なんかに聴いてほしいな。
ニコ:傷心中の人、愛を探している人、大人になろうとしている人、カミングアウトする人、永遠のティーンエイジャー、エモな人、性的に奔放だと不当に非難された人、トランスジェンダーの人たち。僕たち自身や、僕たちの経験、そして僕たちの親密で表現豊かなジェンダーフルイド(※ジェンダーが流動的であること)な音楽のやり方に共感してくれる人なら誰にでも聴いてほしいね。

日本のファンへのメッセージ

-滝田優樹:最後に、日本の音楽ファンもきっとあなたたちの音楽を気に入るはずです! その人たちに向けて、メッセージをください。(日本でのライブはまだかと思いますが、来日でのライヴも決まることを祈ってます!)
ソル:日本でシューゲイザーがすごく人気があるのは知ってるし、近いうちに日本で演奏するのが私たちの夢なんだ <3
ニコ:そして願わくは、日本で僕たちのアルバムを制作することもできたらいいな :*********
BED:(日本語で)どうもありがとう !!! ✬✬✬✬✬

BEDアルバムリリース

アルバム『everything hurts』

発売日: 2025年5月23日
収録曲:
1. everything hurts
2. throat
3. slut
4. you’re not my real sun
5. loser
6. burn slow
7. ema is in love
8. heart shaped bed
9. ride (here to stay)
10. my hole
11. Nico and Sol at home
12. highway pearl
bandcampで見る

BEDプロフィール


BEDは、2021年にベルリンで結成された音楽プロジェクトである。メンバーはアルゼンチン出身のベーシストSol Astolfi、チリ出身のボーカリストNicolás Astorga、そしてドイツ出身のギタリストEma Schillerの3人だ。彼らのサウンドはシューゲイザー、ドリームポップ、ポストパンクを基盤とし、歌詞は悲哀と官能性を織り交ぜ、脆弱性と欲望を探求することで規範的な表現に挑む。特にボーカルはジェンダーの曖昧さを意図的に持たせ、流動的なアイデンティティを表現している。Liz Harris (Grouper)やMy Bloody Valentineなど90年代の象徴的アーティストから影響を受けつつ、アンビエントやベルリンのレイブシーンの要素も取り入れている。2025年5月リリースのアルバム『everything hurts』は、感情の起伏、喪失、そして再生への逃避を描き出す。Pablo Thiermannがプロデュースとミックス、Jari Anttiがマスタリングを手掛け、繊細かつ荒々しく、騒々しくもドラマティックな作品に仕上がった。

ライター:滝田優樹

1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。

そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。

その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。

退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。

それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。

猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。

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Twitter:@takita_funky