最終更新: 2025年10月18日
ハヴィアナとは?

この“ハヴィアナ”が何を指すのかは明確にされていない。
特定の人物のニックネームなのか、あるいは何か別の物事の比喩なのか?
この謎めいた呼びかけは、聴き手に様々な想像を掻き立てさせると同時に、この歌詞が非常に個人的な経験に基づいていることを示唆している。
相手に真意を問いただす切実な響きが、この単語によって一層際立っているのだ。
ポリーが口に靴下を
歌詞の後半に登場する“Polly put a sock in my mouth”という表現は、楽曲の緊張感を最高潮に高める重要な比喩である。
“put a sock in it”は「黙れ」という意味の口語表現だが、ここでは“ポリー”という何者かが主人公の口を塞いでいる。
これは言いたいことを言えずにいる主人公の内なる声、あるいは外部からの圧力の象徴と解釈した。
また、続く“Climbing up the walls of my house”(家の壁をよじ登ってる)という巧みな比喩も見事だ。
精神的に追い詰められ、爆発寸前である状態を情景として描き出すことで、内側から何かが爆発しそうな切迫した状況を見事に描き出している。
すれ違うコミュニケーション、その沈黙の“知らせ”

主人公は相手からの沈黙に対し、自らの心を削りながら言葉を紡ごうとする。
“Told you I love you, but it isn’t fair / If I have to I tell you when I need you there”
“愛してるって言ったけど、フェアじゃない / そばにいてほしいって、いちいち言わせるなら”というコーラスの一節は、この歪んだ関係性を象徴している。
愛情があるからこそ、言葉にしなくても伝わってほしいという願い。
しかし、その願いは届かず、沈黙が二人を隔てていく。
そしてついに、“You bring the silence, I’ll bring the news”「あなたが沈黙をくれるなら、私が“知らせ”を届ける」という最後通牒に至る。
これは、関係の終わりを予感させる、悲痛な決意表明だ。
ジュリアン・カサブランカスからの影響

「Hey You」のMVから感じられるのは、ボーカリストであるメイジーの服装や歌唱時の立ち振舞い、謎めいた歌詞など、多くの部分でThe Strokesのジュリアン・カサブランカスからの影響を感じられる部分だ。
ジュリアン・カサブランカスが『Is This It』期に提示したのは、“くたびれたクール”と評されるスタイルだった。
メイジー・エヴェレットのファッションもまた、この“気負いないクールさ”を共有している。
「Hey You」のMVなどで見られる彼女のスタイルは、彼らのスタイルを踏襲しながらも、日常の延長にあるラフなジャケットスタイルだ。
これは、ジュリアンらが体現したニューヨークのストリート感覚や「逆説的なクールさ」を、現代のオーストラリアで再解釈したものと言えるだろう。
断片的で“謎めいた”情景描写
最も顕著な共通点が、歌詞の持つ“謎めいた”性質だ。
ジュリアンの歌詞は、具体的な物語を語るのではなく、断片的な情景や曖昧な代名詞(「I」「you」「she」)を多用することで、聴き手に解釈の余地を残す点に特徴があった。
The Belair Lip Bombsの「Hey You」は、まさにこの手法を踏襲している。
唐突に登場する「ハヴィアナ」や「ポリー」といった固有名詞は、聴き手を意図的に混乱させ、歌詞の世界に引き込むフックとなっている。
これらはジュリアンが用いた手法と同様、非常にパーソナルな体験をあえて抽象化・断片化して提示することで、聴き手自身の“切望”や“すれ違い”の記憶を呼び起こさせる。
説明的でないからこそ、「Hey You」の叫びは普遍的な響きを獲得しているのだ。
The Belair Lip Bombs アルバムリリース
『Again』
発売日: 2025年10月31日
収録曲:
1.Again and Again
2.Don’t Let Them Tell You (It’s Fair)
3.Another World
4.Cinema
5.Back Of My Hand
6.Hey You
7.If You’ve Got The Time
8.Smiling
9.Burning Up
10.Price Of A Man
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The Belair Lip Bombs プロフィール
The Belair Lip Bombsは、オーストラリアのメルボルン郊外、フランクストンで結成された。メンバーはメイジー・エヴェレット、マイク・ブラドヴィカ、ジミー・ドラウトン、ダニエル・“デヴ”・デヴリン。高校卒業後、彼らは昼間の仕事とバンド活動を両立させながら、The Rolling StonesやTelevision、そしてThe War On Drugsやスティーヴン・マルクマスに影響を受けたサウンドを追求してきた。彼らの自称“yearn-core(イヤーンコア)”は、素早いリズム、温かくファジーなギターメロディ、そしてメイジーのカタルシス的なボーカルの組み合わせが特徴である。
ライター:Tomohiro Yabe(yabori)
BELONG Media/A-indieの編集長。2010年からBELONGの前身となった音楽ブログ、“時代を超えたマスターピース”を執筆。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONのボーカル・後藤正文が主催する“only in dreams”で執筆後、音楽の専門学校でミュージックビジネスを専攻
これまでに10年以上、日本・海外の音楽の記事を執筆してきた。
過去にはアルバム10万タイトル以上を有する音楽CDレンタルショップでガレージロックやサイケデリックロック、日本のインディーロックを担当したことも。
それらの経験を活かし、“ルーツロック”をテーマとした音楽雑誌“BELONG Magazine”を26冊発行。
現在はWeb制作会社で学んだSEO対策を元に記事を執筆している。趣味は“開運!なんでも鑑定団”を鑑賞すること。
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Twitter:@boriboriyabori