最終更新: 2025年10月19日

滝田優樹の視点から

滝田優樹

アルゼンチン在住のレビュアー、RAMとのクロスレビュー企画第2弾。

前回の”Racing Mount Pleasantクロスレビュー”ではRAMは記憶の奥底に眠る光景を想起させながら”移ろい”と”讃美歌”を、私は”ニヒリズム”を引用しての”構築美”を、それぞれの視点から音像を捉えて、その先の景色を自分たちの言葉でそれを表現した。

言葉や表現は違うものであってもそこには共鳴があった。そして間違いなくRAMは表現者だ。前回のクロスレビューでの収穫は自分を表現するということ。直接会って話したことはないけれど、彼のレビューで人となりが少しでもわかった気がした。私はこの企画を通して彼と会話をしている気もする。レビューを書いていてはじめての感覚だ。読者にも彼にも、もっと自分のことを知って欲しいと思っている。レビュアーとして正解なのかわからないがそんな欲求にかられている。そんな欲求を満たすために書いてみた。そしてそれは後述のNinajirachiの作品にも通ずる。『I Love my Computer』は自己愛、自己表現の塊そのものだ。

櫻坂46「承認欲求」のリミックス

Ninajirachiのディスコグラフィーで一番目を引いたのが、日本のアイドルグループ櫻坂46の楽曲「承認欲求」のリミックスだ。今回のアルバム『I Love my Computer』をきっかけに彼女の作品をしっかりと聴いた自分にとって、Lollapaloozaや、EDCなどの海外の主要音楽フェスへの出演も果たしたDJ、Ninajirachiと櫻坂46とのコラボレーションにはギャップがあるように思えたが、杞憂に終わった。むしろ双方を引き合わせることに確信があったに違いない。

Ninajirachiにとって日本のアイドルやアニメ、ゲームカルチャーとの距離はかなり近しいものであった。

それはコンピューターを通じて、直接的な接続であったり、影響を公言しているGrimesやポーター・ロビンソンの作品を通じてであったり、と。それを踏まえて、櫻坂46の楽曲「承認欲求」のリミックスについて考えると、至極当たり前のなりゆきだったのだろう。

『I Love my Computer』

左:RAM 真ん中:Ninajirachi『I Love My Computer』 右:Yuuki Takita

そして本題の『I Love my Computer』についてだ。

今回はRAMからNinajirachiの作品を推薦してくれた。正直にいうと、私自身この作品をはじめて聴いたときは”音がごちゃごちゃしていてわからなかった”。個人的にようやくわかるようになったのは先述のRAMのレビューを読んだり、Ninajirachiのディスコグラフィーを追ってからであった。

それもそうだろう。ジャケット写真の雑多な部屋が象徴するようにNinajirachi自身のことについてであるのだから、この作品を理解して楽しむのには彼女自身を知ることが一番だ。そうすると細部にも目が行き、他のアーティストへの接続も叶うだろう。

Ninajirachiの音楽を形成する音楽を挙げるとすると、エレクトロポップやダンスポップ、EDMといったところだ。

エレクトロポップやダンスポップの文脈だと、チャーリーXCXやデュアリパ、そしてエリカ・デ・カシエールからの流れで聴くことでギャップは少なくなり、EDMでいうとGrimesやポーター・ロビンソンはさらにNinajirachiの音楽と近くなり、さらにはフレンチエレクトロのテイストも感じ取れることもでき、Daft Punkとの共通点も導くことができた。

するとどうだろう、”わからなかった”音楽が自分と近いものになってこないだろうか。

少なくとも自分にとってはかなり親しみのある音楽になった。そしてNinajirachiが好きな音楽と、自分が好きな音楽と、その両者がとても似ていることもわかった。

自分が好きな音楽やカルチャーを雑多に配置した今作『I Love my Computer』は、複雑に絡んだケーブルのように多要素を包括した作品でそれを面白いと思うか、わからないと思うかは聴き手次第だ。

しかしながらひとつひとつときほぐしていくと実に単純明快で、自分が好きなものを好きなまま表現した作品であることがわかる。好きなものを語るとき人は熱量を帯びて言語化できない好きをあの手この手で語ろうとする。だからこそ、この作品ははちゃめちゃで雑多なのだ。

そして、コンピューターでどんな音楽だってカルチャーで接続できるこの時代であるのだからこそ生まれた作品であるのは間違いない。私自身も、この作品を理解するために右往左往コンピューターで情報収集をしつつ、彼女のことを理解することができた。彼女が好きなものに接続した過程を、私も追体験するように自分の好きに接続できたのだ。

その複雑なつながりや遠いものを近くすることを表現したのがこの作品で、はちゃめちゃで雑多でなくてはならないという必然性をもった『I Love my Computer』。怪作であり、快作だ。

デザイン:つでん
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Ninajirachiアルバムリリース

アルバム『I Love My Computer』

発売日: 2025年8月8日
レーベル: NLV Records
収録曲:
1. London Song
2. iPod Touch
3. Fuck My Computer
4. CSIRAC
5. Delete
6. ฅ^•ﻌ•^ฅ
7. All I Am
8. Infohazard
9. Battery Death
10. Sing Good
11. Ninajirachi & daine – It’s You
12. All At Once
bandcampで見る

Ninajirachiプロフィール


オーストラリア出身のDJ/プロデューサーNinajirachiは、エレクトロハウスとポップを融合させた煌めくサウンドで知られ、自らそのスタイルを「Girl EDM」と称している。10代から制作活動を始めたNina Wilsonは、Nina Las VegasのNLVレーベルと契約し、2017年の「Pure Luck」、2019年のEP『Lapland』でブレイクを果たした。Charli xcxやCashmere Catのサポートを務め、2021年にはKota Banksとの共作EPで更に聴衆を拡大。2022年のミックステープ『Second Nature』、2023年のISOxoとのコラボ「SHYPOP」、2024年のEP『Girl EDM』を経て、Lady GagaやPorter Robinsonから影響を受けた独自のエレクトロニックポップを追求し続けている。

ライター:RAM

アルゼンチン国立芸術大学で音楽作曲を学ぶ学生。文章を書くこと、音楽の発見、そして音楽を共有し関わることに情熱を注いでいます。また、ソフトウェア開発者としても働いています。
ウェブサイト:
Instagram:@ramcst

ライター:滝田優樹

1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。

そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。

その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。

退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。

それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。

猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。

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Twitter:@takita_funky