最終更新: 2026年2月5日

2025年の瀬も押し迫った頃、シンガーソングライター、二階堂和美の最新作が私の元に届けられた。

それは、彼女のディスコグラフィーにおける長きにわたる沈黙を破り、間もなくリリースされることとなる復帰作(『潮汐』)への期待を煽るシングル、「BILLIE」だった。

この沈黙は、彼女の人生が停滞していたことを意味しない。リリースのない期間にも、結婚、家族の形成、親族との別れ、そして実家の寺院の継承といった、人生を根底から揺るがすような、極めて情緒的な出来事が彼女を包んでいたのだから。

『潮汐』レビュー


初めてアルバム『潮汐』の全貌に触れた時、どこか懐かしい感覚に襲われた。

最初は歌詞に深く立ち入らず、ただ音に身を委ねてみたのだが、そのアプローチによって、脳裏には冷たく澄んだ早朝の情景が浮かび上がった。

ブルーアワーが最も深く支配し、世界がまだ完全には目覚めていない時。嵐の前の最初の雨粒のように、思考がゆっくりと流れていくような感覚だ。

『潮汐』は親密でありながら、どこか幽玄で、掴みどころがない。このアルバムは優しく聴き手をその世界へと招き入れ、歩みを共にする伴走者となってくれる。

それは霧のかかった鏡のようなもので、自分の姿の一部を映し出しはするが、その全貌までは見せない。

直接的にあなた自身のことを歌っているわけではないのに、そこに自分を見出すことができる。

本作は広島にある二階堂和美のプライベート・スタジオで録音された。

黒瀬みどり(ピアノ)、岩見継吾(Ba.)、中村亮(Dr.)、そして三田村管打団?といったミュージシャンたちが脇を固める。

それぞれの仕事ぶりは澄み渡って混じりけがなく、楽器を通じて感情を誠実に捉え、表現する。

音の響きに十分に浸った後、私はアルバムの歌詞の世界へと足を踏み入れた。そこで嬉しい驚きを覚えたのは、音楽そのものから感じ取った感情が、言葉の中にも確かに息づいていたことだ。

『潮汐』には、喪失、時間、そして受け継がれるものといったテーマを巡る、孤独で内省的な思索がいたる所に見られる。

私たちはそこで、ありふれた日常を恋しく思いながらも、同時にそこからの逃避を願ってしまうという、誰もが知る矛盾と向き合うことになる。

「BILLIE」


「BILLIE」において、二階堂和美は“アーティストの死”についても言及している。

肉体は一時的なものに過ぎないという考えを示し、それとは対照的に、芸術的創造こそが時間を繋ぐリンクとなり、作者が去った後も長く人々と繋がり続けるのだと語りかける。

本作でもう一つ心を打たれたのは、“コミュニティ”の存在だ。アルバムのいたる所で、音楽が集団的な体験として捉えられている瞬間がある。

これは、人生が定期的に突きつけてくる浮き沈みを生き抜く過程において、他者の関わりが必要であることを示唆しているように私には思える。

それは、マーチング・バンドや合唱隊を従え、死すべき運命を受け入れるように歌う「つながりあって生きている」や「うまれてきたから」といった楽曲に見て取れる。

あるいは、観客との掛け合いがライブ・パフォーマンスのような空気を生む「あうん」もそうだ。

二階堂和美はそこで、ごくありふれた生活の中にある些細な出来事のロマンを歌い、タイトルである「あうん」という言葉を、まるでマントラのように唱える。

このアルバムは、今年一年の始まりにおいて最高の伴侶となってくれた。きっと、この作品に触れようとする誰にとってもそうなると確信している。

私自身、このレコードを日常的に聴くお気に入りの一枚に加え、二階堂和美という存在を私のレーダーにしっかりと捉え続けておこうと思う。

彼女がまた戻ってきたいと願うその時、すぐにそこに居合わせることができるように。

二階堂和美アルバムリリース

オリジナルアルバム『潮汐』


発売日: 2026年1月21日
収録曲:
1. リトル・トラベラー
2. つけっぱなし
3. あれもこれも
4. 恋しがっているよ
5. BILLIE
6. つながりあって生きている
7. うまれてきたから
8. あうん
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二階堂和美アーティストプロフィール


二階堂和美は広島県を拠点に活動するシンガーソングライターである。透明感のある歌声と内省的な歌詞で知られ、日本のインディー音楽シーンにおいて独自の存在感を放つ。代表作『にじみ』以来、実に14年ぶりとなるオリジナル・アルバム『潮汐』を2026年1月21日にリリース。今作ではクラムボンの原田郁子を共同プロデューサーに迎え、キセルの辻村豪文、ceroの高城晶平、mina perhonenの皆川明といった豪華クリエイター陣がソングライティングに参加した。結婚、出産、寺の継職、死別といった人生の悲喜を経た今の二階堂にしか歌えない、慈しみに満ちた作品となっている。
オフィシャルサイト

ライター:RAM

アルゼンチン国立芸術大学で音楽作曲を学ぶ学生。文章を書くこと、音楽の発見、そして音楽を共有し関わることに情熱を注いでいます。また、ソフトウェア開発者としても働いています。
ウェブサイト:
Instagram:@ramcst

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