最終更新: 2020年5月21日


はじめまして。ライターの田中亮太と申します。縁あってBELONG Magazineで連載を持たせていただくことになりました。

この数年は国内の音楽について書く機会が多かったのですが、編集長たっての要望もあり、ここでは海外シーンについて、

今もっともホットな1曲をつまみに、みなさまに紹介できればと思います。よろしくお願いします。

初回に取りあげるのは、コートニー・バーネットの「Pedestrian at Best」。

いつのまにか片手をストロークしてるであろうシンプルにして強烈なギター・リフ、急き立てられているかのように矢継ぎ早に言葉を繰り出していくヴォーカルに、体温の1度や2度も上昇せずにはいられないロック・ナンバーです。

この原稿を読んでいただいてる時には、すでに今曲が収録されたアルバム『Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit』が発売されているはず。

白地のジャケットにアームチェアとカラフルなラグが手書きの簡素な4イラストで描かれたジャケットをどこかで目にされてるかも。

彼女はメルボルンを拠点に活動するシンガーソングライター。2000年代後半から地元で複数のバンドでの演奏やレコーディングに参加し、ローカルでの存在感を高めていたようです。

世界的に注目を集めるきっかけとなったのは、2013年に発表された「Avant Gardener」という曲。

サイケデリックなギター、ゆったりとしたリズムに揺られるように、眠たげな声がメロディを綴るスラッカーなポップ・ソングは、うららかな月曜日、ガーデニング中に呼吸不全を起こし、救急車に運ばれるというユーモラスな歌詞とあいまって、世界を席巻しました。

「Pedestrian at Best」は、「Avant Gardener」から1年のブランクを経て、発表されたアルバムのリード・シングル。ペイヴメントのいびつな凸凹さ、

ストーン・テンプル・パイロッツのダルなブルース感覚を想起させるという、90年代グランジィなアンサンブルは彼女の持ち味のひとつでしたが、ここまでハードなロック・サウンドに傾斜するのは想定外。

一聴驚いたものの、いわゆるインディ・クラブなどでもヘヴィ・プレイされそうな、そのキラー・チューンっぷりにぶっとばされたのでした。

歌詞に耳を向けると、「Avant Gardener」でのブレイク以降、急速な状況の変化を受けずにいられなかった彼女のフラストレーションが綴られているようです。

“あなたが好き/あなたが嫌い”と、パラノイアックな混乱で切りだされたリリックは、コーラスではフラストレーションを爆発させた叫び声で歌われます。

“私を台座に乗っけてみせなさい/がっかりさせてあげるから”と。

周囲からのこうあるべきという期待と、自らだけが知る心地よいあり方との摩擦。特に今の時期、多くの方が心を磨り減らせてしまってる原因かもしれません。

そして、「Pedestrian at Best」は、それらの写し鏡であり、激しいロック・サウンドは悩みを昇華させる糸口のひとつとなりえるでしょう。

あなたの望むべき私なんてクソクラエだと。アルバム名を振り返ると、その名は『Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit』。

つまり、”たまに座って考えてみる/ときどきは座ってるだけ”。そう、今曲での爆発を経て、コートニー・バーネットはまだのんびりと怠惰な自分を肯定している。それがとても感動的に思うのです。

『Sometimes I Sit And Think, And Sometimes I Just Sit』
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【Writer】

田中亮太
ライター。OTOTOY連載『隣の騒音』やsign magazineで執筆しています。春から上京します。