最終更新: 2025年9月17日
英国ロンドンが誇る8人組インディ・ロックバンド、caroline(キャロライン)。
今年2025年5月にリリースされた2ndアルバム『caroline 2』は前作『caroline』に引き続き世界的に注目を浴び、すでに年間ベストアルバムの確定も認めざる得ないほどの傑作だった。
言葉にすると陳腐になってしまうのではないかと不安になるくらいに最高のアルバムで、8人があの日あの時に鳴らさなければ聴けなかった音楽、彼らでないと作れなかった音楽であることは間違いない。
全体を通して即興性を大事にし、刹那的な美しさと儚さを聴かせる。混沌と調和が同居し、そのコントラストやグラデーションがグッとくるポイントだ。
今回は先日行われた初来日ツアー前日に、バンドメンバーのジャスパー・ヒェウェリンにインタビューを行った。
とにかく直接ジャスパーにこの作品にどれだけ感動したのか伝えられる喜びをかみしめながら改めてどのようにバンドが結成されたのか、
いかにして『caroline 2』が完成されたのか、そして彼のルーツやライブパフォーマンス時の精神性など訊いた。
時間が足りなくて訊きたいことをすべて訊けなかったのは残念だが、ジャスパーの実直かつ丁寧すぎる回答はcarolineの音楽そのものを表していて、彼が中心にいるからこそcarolineはcarolineなんだと確信したインタビューであった。
carolineの歴史とメンバー構成について

アーティスト:ジャスパー・ヒェウェリン インタビュアー:滝田優樹 通訳: 編集・校正:BELONG Media / A-indie
-滝田優樹:日本の音楽メディア、BELONG Mediaの滝田優樹です。あなたたちのことはデビューアルバムで知りました。同じくロンドンを拠点とするBlack Country, New Roadなどと共に、ロンドンを代表するバンドとしてデビューアルバムからファンだったので、今回インタビューできてとても嬉しいです。
ジャスパー:ありがとう。
-滝田優樹:早速ですが、インタビューを始めさせていただきます。私たちのメディアは、アーティストのルーツや音楽が生まれた背景を大切にしています。まず、carolineというバンド自体のことについて教えてください。あなたとキャスパー、マイクの3人による週に一度の即興セッションが原点だったと伺いましたが、そこから現在の8人体制になるまでの経緯を簡単に教えていただけますか。
ジャスパー:始まりは、僕とキャスパーがマンチェスターの大学に通っていた時に一緒に暮らしていたことなんだ。2人とも音楽が好きで卒業後、一緒にロンドンへ移った。当時は遊びのような感覚で一緒に演奏やセッションをしていたんだけど、9年ほど前に休暇で一緒に曲を書いたんだよ。その休暇が終わってロンドンに戻った時、2人で“これを真剣にやってみないか”って話すようになったんだ。マイクはティーンエイジャーの頃からの旧友で、子供の時に一緒にフォークミュージックのバンドを組んでいたことがあって、ミュージシャンとして非常に優れていたから、ギターを弾いてもらうことにした。最初は僕がドラムを叩き、キャスパーと僕の2人でポストパンクのような、とても荒削りなユニットをやっていたんだ。クリエイティブ面では満足していたんだけど、そこからメンバーを増やしていくことになる。
まず、ヴァイオリンのオリヴァーが加入した。彼は当初ベースを弾いていて、僕やマイクと同じく、とても古い友人だったんだ。キャスパーとマイクは知り合い程度だったんだけど、マイクのギターが素晴らしいから正式にメンバーとして迎えて、まず3人でファーストアルバムに収録されている「Dark blue」と「Good morning (red)」を書いた。僕がドラムを叩いたこの2曲を書いたのが、8年半ほど前のことだね。3人でボーカル、ギター、ドラムのパートを作って、そこにオリヴァーがベースパートを加えてくれたんだ。
その後、「Skydiving onto the library roof」という曲を書いたんだけど、これがフリーインプロヴィゼーションの色が濃い曲だったから、インプロヴィゼーション的なドラムを叩くヒューに参加してもらうことになった。ちなみに、ベースで参加していたオリヴァーが「Dark blue」で初めてヴァイオリンを弾いてくれて、それ以降ヴァイオリン担当になったんだ。そして、オリヴァーの知り合いのマネージャーが紹介してくれたマグダに、一度ライブでヴァイオリンを弾いてもらったのが加入のきっかけでね。2本のヴァイオリンが交錯し合う感じがとても良かったから、彼女にも参加してもらうことになったんだ。
次に管楽器が必要だという話になって、トランペットを入れたいと考えるようになった。キャスパーが1歳の頃からの幼馴染であるフレディにトランペットを吹いてもらうことになったんだ。ただ、ドラムのヒューとフレディはアルバムの全曲で演奏しているわけじゃなくて、いくつかの曲に参加してもらう形だね。その後、サックスも入れたいと思って一度メンバーを加えたんだけど、ファーストアルバムは非常にミニマルな構成だったから、彼のサックスパートが一音しかなくて、“退屈でやってられない”って言って辞めてしまって。そんな時、Instagramで“もしフルートやクラリネット、サックスが必要なら声をかけて”とメッセージをくれたアレックスに加入してもらい、これで8人が揃ったんだ。それがちょうどコロナ禍の直前の話で、その頃にRough Trade Recordsと契約した。コロナ禍と契約が重なったことで、この8人でバンドとして固まる時間ができて、現在の8人体制になって5、6年になるね。
最新アルバム『caroline 2』の制作について
-滝田優樹:非常に詳しく教えていただき、carolineの歴史がよく分かりました。最新アルバムの『caroline 2』についてお聴きしたいです。アルバムのテーマは”同時多発的な状態や、非常に異なる要素たちが同時に存在する状態”とのことでした。私自身も聴いていて、8人それぞれが自由に演奏しコラボレーションする中での、混沌と調和の対比やグラデーションが最も胸に響くポイントで、まるで自然の摂理のようだと感じました。8人で調和を図る上で、特にレコーディングの際に心がけていることはありますか。
ジャスパー:曲を書くときは、まず僕かマイク、キャスパーの誰か一人がアイデアを持ち寄るか、3人で書き始めるんだ。そして、8人で演奏する前に、方向性や構成といった枠組みをその3人で決めてしまう。8人で実際に音を出す段階では、すでにある程度のパラメータが設定されている状態だから、スムーズに進められるんだと思う。最初は3人で始め、次に8人で演奏し、また3人に戻って編集する。そしてまた8人で演奏するというように、小さいグループと大きいグループを行き来することで、うまくバランスを取ってるんだ。
化学反応が生まれる楽曲制作プロセス
-滝田優樹:なるほど。最初のアイデアからイメージ通りに完成する曲と、8人で演奏することで化学反応が起き、予想外の方向に展開した曲の2パターンがあるかと思います。今回のアルバムで、イメージ通りに完成した曲と、8人で制作したことでイメージとは違う形になった曲を、それぞれ1曲ずつ挙げるとすると、どの曲になりますか。
ジャスパー:ほとんどの曲は、最初のアイデアやコンセプトからはかけ離れた形で完成するんだ。例外を挙げるとすれば、6曲目の「Coldplay cover」だね。この曲は、僕がずっと前に書いていたボーカルとギターのパートが元になっている。そこに、僕たちが持っていたアイデアを組み合わせたんだ。そのアイデアっていうのは、一つの家の中にある二つの部屋でそれぞれライブレコーディングを行って、その部屋の間をマイクロフォンが移動するというものだった。このコンセプトがこの曲にうまくはまって、そのため、この曲は最初にイメージしていた通りに完成したと思う。ただ、このレコーディング方法はとてもオープンなものだから、他の曲で試した時は、大抵の場合、最初のアイデアとは全く違う仕上がりになったね。
ライブパフォーマンスへの取り組み

ジャスパー:レコーディングしたものをライブで再現するのは常に挑戦だね。レコーディングされた楽曲は、様々なバージョンやテイク、場所の間を行き来するような作りになっているんだ。それをライブで完全に表現するのは難しいんだけど、制作した時の空気感は何とか再現したいといつも思ってる。例えば、1曲目の「Total euphoria」はかなりシンプルな作りだから、ライブでもそのまま表現できると思う。でも、最後の曲「Beautiful ending」は、多くのコラージュを用いた作品なので、そのコラージュ感を保ちながらライブでどう表現するかは大きな挑戦だね。自分たちがアルバムのために作った曲はとても気に入ってるから、それを何とかライブでも再現できるように挑戦しているんだ。
音楽的ルーツと影響
-滝田優樹:残念ながら最後の質問になりますが、改めてルーツについてお聴きします。carolineの音楽に影響を与えたアルバムと、あなた自身の演奏に影響を与えたアルバムを、それぞれ1枚ずつ挙げるとすると何ですか。
ジャスパー:American Footballは、ギターパートを書く上で参考になっているのは間違いないね。今回のアルバム制作に関して言えば、終盤に僕とマイクが7ヶ月間コンピューターでプロダクション作業をしていたんだけど、その時に最も聴いていたのが、Slauson Malone 1の『A Quiet Farwell, 2016–2018 (Crater Speak)』なんだ。このアルバムはポップミュージックをコラージュし、細かく分解したような作品で、このレコードに大きな影響を与えたと思う。
個人的な演奏については、時間が経つにつれて、僕はシンガーとしての役割が大きくなっている。ファーストアルバムではドラムとチェロを弾いていたけど、今はギターとボーカルを担当していて、時には楽器を何も持たずに歌うだけということもあるんだ。自分としては恐ろしい状況だと感じてるんだけど、そのおかげで自分の声を楽器の一つとして捉えるようになった。そういった意味で、ボーカルでは、Still House Plantsの歌い方に影響を受けてるね。彼女の深みのある声や低音の使い方がとても好きなんだ。特に最新アルバムの『If I Don’t Make It, I Love U』には非常に感銘を受けたよ。ギタリストとしては、Adrianne Lenkerの最近のソロアルバムにとても刺激を受けているね。
-滝田優樹:まだ聴きたいことはたくさんありましたが、時間となりました。本日はありがとうございました!
carolineアルバムリリース
2ndアルバム『caroline 2』
発売日: 2025年5月30日
収録曲:
1. Total euphoria
2. Song two
3. Tell me I never knew that (ft. Caroline Polachek)
4. When I get home
5. U R UR ONLY ACHING
6. Coldplay cover
7. Two riders down
8. Beautiful ending
9. _you never really get that far_ (Bonus Track for Japan)
10. Before you get home from the club bathroom (Bonus Track for Japan)
国内盤CD+TシャツセットをAmazonで見る
BEATINKで見る
carolineプロフィール


あなたの“好き”が、誰かの“扉”になるかも🎶参加はこちら⏩ https://discord.gg/fjzp9Hjt
ライター:滝田優樹
1991年生まれ、北海道苫小牧市出身のフリーライター。TEAM NACSと同じ大学を卒業した後、音楽の専門学校へ入学しライターコースを専攻。
そこで3冊もの音楽フリーペーパーを制作し、アーティストへのインタビューから編集までを行う。
その経歴を活かしてフリーペーパーとWeb媒体を持つクロス音楽メディア会社に就職、そこではレビュー記事執筆と編集、営業を経験。
退職後は某大型レコードショップ店員へと転職して、自社媒体でのディスクレビュー記事も執筆する。
それをきっかけにフリーランスの音楽ライターとしての活動を開始。現在は、地元苫小牧での野外音楽フェス開催を夢みるサラリーマン兼音楽ライター。
猫と映画鑑賞、読書を好む。小松菜奈とカレー&ビリヤニ探訪はライフスタイル。
今まで執筆した記事はこちら
他メディアで執筆した記事はこちら
Twitter:@takita_funky