最終更新: 2021年6月20日
今年のフジロックの「ROOKIE A GO-GO」に出演したHysteric PicnicがBurghに改名してデビューアルバム『テクノ・ナルシスのすべて』を先日リリースした。
一聴するとポストパンクというジャンルに括られてしまうサウンドの中に垣間見える昭和のアイドルを思わせる絶妙なポップさ。
それこそが彼らの最大の魅力ではないだろうか。だからこそBurghを1ポストパンクバンドだと言ってしまうには余りにもったいない。
それでは実際にフロントマンのオオウチソウは“ポップさ”についてどう考えているのだろうか。
目次
Burghとは
アーティスト:オオウチソウ(Vo,Gt) インタビュアー:桃井 かおる子 撮影:Takahiro Higuchi
-Hysteric Picnicというバンド名からBurghに名前を変更されたとのことですが、どうして改名されたのでしょうか?また、“Burgh” という英単語はスコットランド語で“自由都市”を意味していますが、このバンド名にはどのような意味が込められているのでしょうか?
オオウチソウ:結成当初と今では音楽性や、大げさにいうと美学が大幅に変わってきていたので、バンド名も変えました。まず名前自体の情報量が少ないこと。次に、何か視覚的に訴えるものがある文字の並びであること。この2点をみたす単語を探していて、見つけたのがBurghでした。
-2011年にオオウチさん(Vo,Gt)とヤマシタさん(Gt)の2人で始められたバンドが、現在のメンバ-構成になるまでのいきさつについて詳しく教えて下さい。また、2人から4人になってバンド内や音楽にどのような変化が生まれたのかも教えて下さい。
2011年から3年間くらいは2人でリズムマシーンやカセットテープを使って活動していたんですが、それに飽きてきて。それで、やってくれそうな友達にベースとドラムで入ってもらいました。全員中学・高校時代の同級生です。何回も演奏している曲でも、毎回はじめて演奏するように演奏したいと思っているのですが、やはり人間だけで集まって演奏したほうがそれには近づきます。自分にとって、かっこいいロックバンドとそうでもないロックバンドの差は“グルーヴ感”にあって。いや、グルーヴ感じゃないかな。グルーヴ感というとブラックな感じをイメージされるかもしれないですが・・・。もっと粗暴で衝動的なもの。ひとりひとりが好き勝手にやっているのに、なぜかまとまる瞬間のヤバさというか。そういうものを追求できるようになりました。バンドになってから。
『テクノ・ナルシスのすべて』
-アルバムタイトルの『テクノ・ナルシスのすべて』には、どのような意味が込められているのでしょうか?
人間の生き方、人間自身のなかに存在するもの、人間自身のうちに起きるものすべてです。
-今作はポストパンクでありながら、どの曲も軽快で聴きやすい印象を受けました。ポップなアプロ-チで作られているアルバムだと思うのですが、今作を制作する際に何か一貫して工夫したことやテ-マのようなものがあったのでしょうか?
自分自身ポップなものを聴いて育ってきたこともあり、最終的に“ポップ”に仕上げるということは一貫したテーマでもあります。
-今作のタイトルにも含まれている2曲目の「Techno Narcisse」は、収録曲の中でも特にダンスミュ-ジックらしく感じました。この曲は、他の収録曲とは違うアプロ-チで作られたのでしょうか?
基本的に曲は僕と山下で作っているのですが、この曲はギターリフと“テクノ・ナルシス”という言葉が同時に出来ました。1秒の時差もなく、同時に。
-4曲目の「Tonight」はメロディ-が昭和歌謡のようで、収録曲の中でもかなり異質に感じました。この曲はどのようなアプロ-チで作られたのでしょうか?
異質に感じられたのであれば、それはこの曲だけ結成当初に作られた曲だからかもしれません。シンプルだけど印象に残るメロディーを志向していたと思います。
-(上記に関して)例えば「Cult Pop」の歌詞にある“ポップ”や「tonight」の“トゥナイト”など、昭和のアイドル・ピンクレディの曲中の合言葉(UFO!など)を連想させるようでおもしろかったです。Bughの音楽は昭和のポップスから影響を受けている部分もあるのでしょうか?
昭和のポップスは好きです。あのキャッチーな言葉の並びをAメロ・Bメロ・サビという構成で聴かされると、他では得られない恍惚感が得られますね。
-6曲目のインスト曲「950」以降は、それまでの流れと比較すると音やメロディ-に重みがあるように感じました。インストを挟んでアルバムの前半と後半で雰囲気を変えられたのはなぜですか?
個人的に1〜3曲目辺りにキャッチーな曲を乱れ打ちしてくるようなアルバムが好きなので、そんな感じにしました。
-今作は最後の「Manicure」でスパッとした終わり方をしていて、それが心地よく感じられる半面「えっ!?これで終わり!?」と、聴いていて少し驚くような終わり方をしているとも思います。アルバムの終わり方に何か工夫したことなどはありますか?
CDプレーヤーで聴いたときに、最後の曲が急に終わって、液晶に“29:00”と表示されるのは、いいなと。その“29:00”をみて、ふと我にかえる。ああ、29分たったんだな、と。
-どの曲も歌詞がユニ-クで、言葉で遊んでいるような印象を受けました。歌詞を書く際に、何かこだわったことなどはありますか?
バンド名の話とも被りますが、意味よりも響きとか語感の方が比重が重いかもしれません。演奏のスピード感に適した言葉の組み合わせを選んでいます。あと、紋切り型の言い回しは避けてますね。こないだテニスコーツのライブを観たのですが、さやさんは誰しもが普段の生活で使うような言葉だけで歌っているのに、メロディや歌声が合わさると、はじめてきくような新鮮な響きになるので、印象的でした。歌詞とメロディは切り離して考えるものではないですね。
-(上記に関して)歌詞を読まないと正直何と歌っているのか分からないですし、むしろ日本語ではないように聴こえると思います。なぜ、このような歌い方をされているのですか?
どの曲にもメッセージやストーリーがありますが、それは自分だけがわかっていればいいというか、特に誰かに伝えたいと思って歌ってるわけではないので。自分が一番歌いやすい歌い方で歌っています。
-ジャケットのイラストにある男性には、誰かモデルがいるのでしょうか?
先ほど答えた“テクノ・ナルシスのすべて”の意味と同じです。
-今作の制作期間中によく聴いていたアルバムがあれば教えて下さい。また、その作品から何かヒントなどを得られたりしましたか?
Arthur Russell『World of Echo』
Orcutt Bill『History of Every One』
https://www.youtube.com/watch?v=zgeGyhGUZ-k&list=PL8OLNhDAXlGt3swfg9Jx-3fJ4ZOlgmmTZ
Giuseppi Logan『Giuseppi Logan』
1音聴いただけで、“違う”ことがわかるようなレコードからはいつも鼓舞されます。この3枚、というかこの3人に関しては神秘の域なので、たぶん何もヒントは得てませんし、これからも得られないと思います。
-『テクノ・ナルシスのすべて』というこのアルバムを、どのような人に聴いてほしいと思いますか?
現実逃避をするすべての人に。
-Burghに改名される以前に海外でのリリ-スやドイツでのツア-など、国外での活動に力を入れられていたようですが、なぜ日本ではなく海外を拠点に音楽活動をされていたのですか?また、日本で活動するのと海外で活動するのとではどのような違いがありますか?
リアルタイムで少しでも繋がりたいと思えるようなバンドやレーベルが、海外に多かったからです。ライブに関していうと、海外の方が演者と客の距離感が近い気がします。フロアライブや家でのライブが多いですし。国にもよるかもしれませんが。
-個人的に気になることなのですが、以前のバンド名Hysteric Picnicの“Picnic”、そして今回の作品名の雰囲気、映画監督である岩井 俊二監督の作品を連想させているとしか思えません。もしかして、監督のことがお好きなのですか?もしそうであれば、Burghの音楽は監督の作品からも何か影響を受けている所があるのでしょうか?
それは完全に深読みですね。Burghの音楽に限らず私自身彼の作品から特に何も影響を受けていません。彼の映画監督っぽくない佇まいやいつまでも変わらぬヘアスタイルは唯一無二だと思いますが。