最終更新: 2022年1月23日

どうにかして辻褄を合わせようと頭を悩ましている自分を馬鹿らしく思えたりとか、美しいのにどこか矛盾している点を見つけてしまって戸惑っている自分が滑稽に見えてきて。

アーティスト:小林祐介(Vo.、Gt.) インタビュアー:yabori 撮影:Masahiro Arita

-前回のインタビューの時には、ロックアルバムを作りたいって言ってましたよね。あの時思い描いていたものは作れましたか?
小林:思い描いていたものとは全然違うものになったんですけど、ロックアルバムを作りたいっていうところからスタートしたのが本当に良い風に転んだなって思いました。

-そうなんですね。何か転機があったのでしょうか?
THE NOVEMBERSっていうものの大元というか、元々自分は何に価値を置いて音楽や物を創ろうと思っていたのかという主題に立ち返るきっかけになったことが何回かあって。『zeitgeist』や『今日も生きたね』の反動みたいな感じとか、BORISやベンジー(浅井健一)と一緒にやったりというところからロックアルバムっていうモチーフに行きついて、ロックをテーマに曲を作ることまではできたんですけど、それをアルバムとして作品として世の中に残すっていうところまでは持続しなかったというか。結局自分が何かを世の中に残すってなった時に理由が必要になってくるんですよ。そこでふと思ったのが、ここ最近何年間か自分にとって何がリアルかとか、道徳とか豊かさとか、そういうものを凄く大事に考えてきたんですけど、それ自体が自分の可能性を高めてくれた部分と狭めていた部分があるなと思って。そこでロックアルバムっていうテーマに行きついて、元々自分達は美しいものや可愛いものとか綺麗なものが好きで、それをたまらなく表現したいっていってだけで。昔は意味や道徳とか何がリアルとかどうでもよかったなと思って。ただそれをしっかり考えなくちゃいけない状況を経て、「今日も生きたね」が自分の中でまとめになったっていうか。自分の考えていること…無常観って言ったらいいのかな。そのあと何か言うってなったら、『今日も生きたね』や『zeitgeist』のパート2にしかならないって思ったんですよね。僕自体、退屈が恐れているほど嫌いなので。だから何が自分にとって楽しいのかっていうのを考えて、ロックに行ったと思うんですよね。だから、美しさに準ずるっていうバンドが元々THE NOVEMBERSだったっていうところに遠回りしながらも、一周して、その経験自体良かったなって思いながら帰ってきたっていう感じです。

-ということは試行錯誤を重ねて、THE NOVEMBERSは原点である美というものに対して価値を置いてるんだなって分かったっていうことですよね。
そうですね。

-今回は美という大きなテーマがあって、その表現手法の一つとしてロックがあったというイメージでしょうか。
そうですね、ロックっていうのはあくまでモチーフのひとつというか。自分の中でロックから派生して、結局ノイズに辿り着きましたね。音楽的な意味でのノイズっていうものもあるんですけど、精神性とかあり方や出来事としてのノイズというものが、ひとつ大事なモチーフになったと思って。だからノイズと美しさにまつわる作品っていうお触書が自分の中でいちばんしっくりくるというか。

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-今回美というものがテーマということで、男性である小林さんがどうして美というものに価値を置くのか、教えてください。
なるほど。男性とか女性っていうところは、本当は関係ないってところもありますもんね。

-はい、もちろん。
自分がどうして美に執着するかって、実はよく分からないんですよね。自分の中で後から理由がついてくるような価値観や考え方ってあるじゃないですか。だから本当は理由よりも前の出来事として美っていうものがあるのかなって。子供の時の原体験でいえば、母やお婆ちゃんがお出かけをするってなった時に化粧をするんですけど、化粧をする化粧台にキラキラしたものがいっぱいあったんですよね。何か特別なお出かけをする時に、子供ながらにワクワクするじゃないですか。その時に必ずお化粧台で口紅を塗ったりアクセサリーを着けたりしていると、いつの間にかその行為自体が自分のワクワクと直接的に結びついてしまうと思うんですよね。お出かけしなくても化粧しているのを見るだけでワクワクしたりとかドキドキしたりとか。いつの間にか子供ながらに自分も隠れて口紅を塗ったりっていうのがあったのは覚えてますね。好きなアニメのキャラクターも男なんだけど髪が長いとか、人と違う髪の毛の色をしているものに自然と惹かれていったんですよね。幽遊白書で言ったら蔵馬ですね。

-懐かしい(笑)。
小学校低学年からそういう感じだった。女の子がキラキラの折り紙やキラキラしたキーホルダーを可愛いって言ってるのが羨ましかったんですよね。

-そういう憧れがあったってことですか。
憧れがあったんですよね、単純に。そういうところでの葛藤もあったので、余計に執着していったのかも。これが美しいと思うっていう意思表示ができない子供時代だったりしたので。長い時間かかった反動っていうのがあるのかなって思います。

-同性愛者の人たちはそういう傾向があるって聞いた事がありますね。
そういう子供ながらにショックな事やエネルギーを必要とする出来事があったら、それに対応するための自分に成り代わっていくわけですからね。

-なるほど。そういう原体験があって今、美というテーマの作品ができたっていうことですよね。今回のアルバムは『Rhapsody in beauty』というタイトルですね。この“Rhapsody”の意味を調べてみたら、熱狂的な言葉という意味があるようですね。
そうみたいですね。狂詩曲とか。「Rhapsody in Blue」から着想を得てるんですけど。ただ僕もRhapsodyに詳しい訳ではなくて、単純に響きで元々始まったんですけど。民族的な物事や伝承していくべきことを歌とか詩で伝えていくっていう役割があったりするじゃないですか、Rhapsodyって。そういうものをひとつ自分の人生の中で、美しさにまつわるものとしてモニュメント的に残せたら素晴らしいんじゃなかろうかと、制作途中思うようになりましたね。「Rhapsody in beauty」って言葉が思い浮かんだあとから、そういうことを後追いで考えるようになりましたね。

-という事はまずタイトルありきでできたアルバムではないということですよね。
制作時からあったわけではないんですけど、真っ只中にポッと出てきましたね。

-それがいちばんしっくりきたってことですもんね。
そうですね。若干きわどいところがあるじゃないですか。ちょっとロマンチックすぎる甘い響きというか。それが凄く気に入ってるんですけど、どうなのかなって思うのも反面あって。それがいいんだって思うようになってからは制作がスムーズに進みましたね。

-僕はかっこいいと思いますよ。なかなかつけられないタイトルだと思うんですよ。このアルバム聴いて、タイトルに納得しました。
そう思っていただけたら嬉しいです。

-アルバムタイトルを直訳すると、美に対する熱狂的な言葉という意味でしょうか。
「Rhapsody in Blue」から引くと、”in Blue”は「ブルーノートによる」っていう音楽的理論、手法の”in”なので。だから今回の僕らで言うと美による、美しさっていうものを用いた、『美しさっていう手法による狂詩曲』っていう。

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-アルバムの各曲に対して美しさを出していったんだと思うんですけど、今回のアルバム聴いて、どの曲にも新しい発見があると思うんですよ。例えば7曲目「236745981」のサビのところは鍵盤が入っているんですかね?
あれはハープですね。煌めくようなハープを入れたいなと思って。The Flaming Lipsみたいですよね(笑)。圧倒的な轟音と、その中に微かに水面がキラキラするようなイメージできれいな音が混ざっていたらさぞかし素敵だろうなっていうことで実験的にやりました。

-今回の曲って一曲に一つは必ずフックが効いた部分があると思ってて。美による手法って言われていましたけど、一つの曲に一つの美意識(フック)が入ってるなって思ったんですよね。だからタイトルは曲とがリンクしている気がしますね。
自分じゃない人が聴いた時に、何かと何かが結びついて腑に落ちるっていう実感があるとすごく嬉しいんですよね。そういうのがあったりとか、めちゃめちゃ嫌われたりっていうのだったらいいんですけど、何とも思われないのが一番屈辱というか。散々ディスられたほうがいいですよね。

-そうですよね。それと今回のアルバムはリズム隊が強烈ですね。吉木さんのドラムはBLOC PARTY.を思わせるくらいで。ライブでも見たんですけど、一撃一撃がすいぶんと重くなりましたよね。
彼はDave Grohl大好きだし、身長も力もあるから、そこが良い風に転ぶと、カッコいいドラムになりますね。

-今回のアルバムは全体的にノイズが散りばめられていますよね。これはMy Bloody Valentineに通じる部分があると思いました。今回のアルバムを作る上で、参考にされたアルバムがあれば教えてください。
まずBORISですかね。あと、参考にしたっていう程ではないですけど、裸のラリーズとか。裸のラリーズの世界観はもともと大好きなんで、落とし込めたらなって。

-さっき言っていたThe Flaming Lipsもそうですか?
それは創り終わった後に、似てるなって思ったかな。さっき言ったMy Bloody Valentineのライブを去年見に行ったっていうのは大きかったですね。

-裸のラリーズは意外でしたね。
裸のラリーズは自分の中でのロックバンド像としては美しさというものの中では最高峰ですね。

-海外からの評価も高いですもんね。
そうですね。その辺は情報の伝わり方云々とかも含めて、ミステリアスだったりとか、東洋のヤバい奴っていう伝わり方が半端じゃなかったのかなって。

-前作は青木ロビン氏とコラボしていましたが、今回はバンドだけで制作されたんですよね。どうして今回は自分達だけで作ったのでしょうか。
言うなれば、前作「zeitgeist」の時にはバンドに対しての可能性云々っていうものが少し壁にぶち当たってた時期でもあって。自分は曲を創れるし作品は作れるけど、刺激が欲しいなとか、もっと面白いこと出来ないかなって時に、内と言うよりは外に目が向く瞬間が何回かあって。その可能性のひとつがプロデュースを入れるっていうことで。今一番誰と仕事をしたいかっていう時に、downy復活前ですけど、ロビンさんが今ならできるような気がするって、お互い「やってみようか」ってなって。3曲だけだけど入ってもらったのが僕の中で刺激になったっていうのが前作で。今作はロックアルバムを作りたいってなった時にプロデューサーを立てたりするよりも自分の盛り上がってる気分を純粋に表現したいなっていうのがあったんです。だから自分達だけでやろうっていうのがありましたね。吹っ切れてた感じはあった。

-アルバムを制作する前は吹っ切れてて、自分たちでやってみようって事ですね。
吹っ切れてても好きにやるだけじゃ作品にならないなっていうのがあって。
そこでじゃあTHE NOVEMBERSって一体なんなの?ってなって、美しさに準じるっていうモチーフというか元々の思想に再会して。元々ずっと美しいかどうかというのが大事な価値基準のひとつだったから、ずっと失ってたってわけじゃないんだけど、自分達っそういうバンドなんだなって再確認して。今まではいろんなテーマや意味があったものが美しく出来上がったというイメージだったんですけど、今回は美しさのために作ったものが美しかった、という感じ。

-Twitterで初心に返ったってことを言ってましたもんね。
そうそう。やってることが当時は何も考えてなくて天然でやってただけで、今回はいろんなことができるし、いろんなしがらみもあるんだけど、それを自力で抜け出したり振り払ったり、取捨選択したり。子供みたいに無邪気にはできないけど、相変わらず焦がれるものはあるんだなっていう。

-美というものを再認識した具体的なきっかけはあったんですか?
「今日も生きたね」のリリースですね。意味や道徳とか何が自分にとってリアルかとか、そういうものごとに執着した作品をここ2~3年出してたんですけど、さっき言った通り、それの集大成が「今日も生きたね」だったとして。それ以上何か作品にする時歌いたいのかってなった時に、一度意味を放棄したくなったというか。ただ美しいものが好きなだけのはずなのに、そこに意味が伴っていないと作品にできないかもしれないっていう足枷みたいなものを意味とかリアルに感じて。どうにかして辻褄を合わせようと頭を悩ましている自分を馬鹿らしく思えたりとか、美しいのにどこか矛盾している点を見つけてしまって戸惑っている自分が滑稽に見えてきて。そんなことに煩わしさを感じているくらいだったら一度棄ててしまいたいってなって。人にとっていいとか悪いとかどうでもよくて、自分のなかで美しいって思ったらそれ以上の理由はないっていうくらいの踏ん切りの付け方をして、今に至るっていう。だから美に改めてスポットを当てたのは反動ですよね。

-なるほど。そういう過程を経て原点に戻ってきたんですね。今日も生きたねは凄く大事な曲だと思うんですけど、今回のアルバムには入っていないのはどうしてでしょうか。
もの凄く大事な曲です。ぶっちゃけた話をすると、あれもアルバムに入れるっていう前提でアルバムの制作が始まったんですよ。でも、僕らの作品として世の中に出してるものって、それがその形で世の中に存在するっていう理由があるんですよね。僕らが「今日も生きたね」を世の中に残す理由としてシェアCDっていう形があって。2曲でひとつの世界っていう約束があって。そういう風にして出したものをアルバムに1曲だけ再収録するってなったときに意味がなかったんですよ、僕の中で。これが作品ですって出したシングル盤の価値を損ねると思ったので。シングルがアルバムに入るべきっていうのもただの慣例とか慣習じゃないですか。

-大事な作品でもあるし、ある意味独立した作品ってことですね。再度アルバムの話ですが、ロマンス(Romancé)という曲がありますよね。
実はロマンセって読むんです。ロマンスとロマンセって別の言葉で。

-そうなんですね。ロマンセってどういう意味ですか?
ロマンセはさっきの詩、狂詩曲とかの詩っていうものと繋がるところがあって。詳しくはネットで調べてもらったら解り易いんですけど。ロマンスってロマンチックであることの名詞形だったりするじゃないですか。で、ロマンセって詩の形態のひとつ。「Rhapsody in Blue」っていう曲の中でも詩っていう単語が出来てきたりするんですよ。だから詩っていうもの自体がモチーフとして素敵だなっていうのがあって。あと、裸のラリーズの曲で「黒い悲しみのロマンセ」っていう曲があるんですよ、それでロマンセって言葉があるんだっていうのを知ってたのもひとつのきっかけではありますね。

-前作の「Ceremony」に近い雰囲気ですね。オリエンタルな部分をもっと深めた曲調ですが、「Ceremony」の続きというイメージで作られたのでしょうか。
そこは全然考えてなくて。今回のジャケットが海のものがあるっていうところで、この曲自体、海がモチーフになってる曲なんですけど。船の歌を創れたらいいなっていうのがあって。イメージ的に言うとAOR(Adult-oriented Rock)風のコクトー・ツインズ。

-その切り口いいと思うんですよ。すごくかっこいい。
ありがとうございます。

インタビュー後半はこちら

『Rhapsody in beauty』

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