最終更新: 2020年5月16日

最近、関西から上京したこともあって、新生活に期待と不安が入り混じる中、東京の歌について考えるようになった。くるりの「東京」や長渕剛の「東京青春朝焼物語」など上京を歌った楽曲に関してはやはり郷愁に駆られる思いが溢れるようになったと思えば、サニーデイ・サービスの『東京』を聴くと“そんなに悪くない街だよ”と優しく言ってくれているような気分になる。

その中で最も今私が曲の世界に振り回されているものが東京を中心に活動する5人組(内1人はサポート)ペンネンネンネンネン・ネネムズの1stアルバムとなる本作だ。宮沢賢治の童話から取られたその覚えにくい名前に相違なく、現実逃避的な浮遊感のあるドリーミーでサイケデリックなサウンドだ。メロディや歌詞からはたまのように坦々としながらも遊び心のあるフォーキーでポップな一面も伺える。神ノ口智和、藤井毅(共にVo,G)の声もわらべうたを歌うような牧歌的で幼児性のあるものであるがゆえについつい夢心地になっていくのだが、ふと歌詞を捉えると急に現実に引き戻され、曲に置いて行かれる。

“なんだってこの街はこんなにもぼくを放っておくんだろう
でもなんだかあたたかい気持ち/もはや歓迎されている気さえします”
と歌う「東京の夜はネオンサインがいっぱいだから独りで歩いていてもなんか楽しい」。1行目の寂しさには共感するが、2行目との矛盾に思わずびっくりしてしまう。日常のことを歌いながら、途中でトリップしたかのように私たちの理解を超えてしまってまた日常に戻る、サウンドだけでなくそんな歌詞の意味でもグルーヴを形成しているのだ。

東京のインディシーンにいるバンドはceroを筆頭に強固で整然とした世界を持つ印象があった。しかし彼らの音楽は聴く人の感情を弄ぶかのようないたずらな危うさが武器である。

【Writer】峯大貴(@mine_cism)