最終更新: 2020年5月16日


ART-SCHOOLの約2年ぶりとなるフル・アルバム『YOU』が発売された。リード曲「革命家は夢を観る」は、ゲストに環ROY、 プロデューサーにASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文を迎えて制作されてはいるが、本誌BELONGが先にインタビューした際に答えたように、これまでエンジニアを務めたことのある三好敏彦氏も迎え入れて制作されている。

グランジから影響を受けた荒々しくも硬質なサウンドは「Go/On」「Driftwood」に、リバーブやコーラスといった空間系エフェクターを多用した柔らかいサウンドは「YOU」「intro~Hatesong」にと、硬軟を織り交ぜてバランスよく兼ね備えている。元来彼らART-SCHOOLの持ち味ではあったが、ここに来て新たに輝きを放ち、両極としてしっかりと捉えられるほどに明らかな違いを感じ取れる。

『BABY ACID BABY』と『The Alchemist』、この2年間で発表された両作を一つに凝縮したような今作の3枚と、以前の彼らとを隔てているものがあるととすれば、ボトムを支えるリズム隊ではないだろうか。木下理樹と戸高のギタリスト2人の直線的なカッティングとは対照的に、ルート弾き&8ビートに終始せずに、前のめりすぎずにタメを活かしてグイと引っ張っていくグルーヴ感は非常に頼もしい。

中尾憲太郎、藤田勇、桜井雄一というリズム隊のユニットが、木下の口から「自分の追い求めてきた音を再現してくれる人たち」としてあげられるのは、ART-SCHOOLが奏でられる歌の「幅」を確実に広げたからであろう。

こういった音の中で浮かび上がる詞は、これまでと同様に<喪失>がテーマだ。嘆き、恐れ、別れ、堕落、を歌い上げる声は、デビューから既に10年が過ぎた本作でも、未だに<喪失>しつづけていると唄っている。だが今作で木下が描く歌詞の主格は、「幼さ」という呪縛と限定を越え、まさに『YOU』という言葉が性別も年齢も全て包括して自分以外の誰かを指すように、より万人に開かれた言葉が並ぶ。 そうなってくるといよいよ彼らの姿に、丹念かつ正確に、<喪失>が伴う「何か」を捉えようとせんとする求道的な精神が浮かび上がって見えてくる。きっと彼らは、いつ卒業するとも知れぬ道の上で<喪失>を描き続けるのだろう。

【Writer】草野 虹(@grassrainbow)
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