最終更新: 2020年5月16日

ロックファンにはお馴染みのブリット・アワードでは3部門ノミネート、英国とスコットランドのポップミュージックで最も栄誉あるマーキュリープライズと、

英国作曲家協会から作曲家へと与えられるアイヴァー・ノヴェロ賞をダブル受賞。

今から2年前の2012年、デビュー作を生み出したALT-Jに与えられたのは、新人バンドとしては前人未到の評価と栄誉だった。

英国からみて極東に位置する僕らの島国では、そこまで大きなニュースにはもとより、その実感すら掴むことは難しい。

The xxやArctic Monkeysらも成し得ていないといえば、なんとなく伝わるだろうか。

この後、下火になっていたイギリスのバンドシーンには活気が戻ってきた、それは彼らの影響の大きさを示しているようにも思える。

否が応でも高まる期待を両肩に乗せ、彼らの新作は生み出された。

今年1月にはメンバーが1人脱退、3人体制として制作された。<統制のとれた無秩序>とも表現できようバンドサウンドとアンサンブル、

フォーキーなギターリフが小気味良いリズム感で積まれていく快感と、

オーバーダブによって静謐さが漂うボーカルとコーラスが浮遊していくさまは、今作でも健在だ。

「曲をレコーディングする最後の段階で、音をたくさん重ねたよ。ライヴでどう再現しよう、なんて心配は全くしていなかった。」という言葉。

ゴシップが付きまとうマイリー・サイラスの「I’m a female rebel(わたしは女の反逆者)」というボーカルを組み込む挑戦。

これまでのインテリ風なインディーバンド臭さを消し去るいくつかの意図と共に、音楽的才気の迸りが今作には随所に封じ込められている。

ところで、今作の制作で頭を悩ましていた彼らにヒントを与えたのは、なんと我らが極東の島国にある古都、奈良なのだという。

「(奈良について)やりたいことをやらせる、といったことの比喩のように感じたんだ。それこそが僕らの持っている自由だと本当に思う」。

奈良について描かれた「Nara」を含め3曲、自分たちが持ちうる自由をしっかりと捉え直したことで、今作は生まれたのだ。

もしかして、彼らは前作からあまり変化はしていないのでは?とも思われるかもしれない。

だが元々が真似しがたく特徴的なサウンド、しかも彼らの後ろを追うはずのフォロワー・バンドは不在、そうなれば、

オルタナティブかつオンリーワンな存在として彼らの価値は高まるのは必然、今作はそれを後押しする一作であろう。

【Writer】草野 虹(@grassrainbow)
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