青年期の思い煩いに捕われて音楽に感情移入することは、果たして良いことだろうか。人並みの大人のフィーリングを持たずに甘酸っぱい気持ちを追いかけ続けることは、果たして恥ずかしいことだろうか。自意識を音楽に重ねあわせて胸掻きむしられるような思いに沈むことは、果たして賢くないことだろうか。そんな種々の思い悩みはとりあえず部屋の隅に放り出して、Boyishの2ndアルバム『Sketch For 8000 Days of Moratorium』を大きな音で聴いていると、とても淡い気持ちが沸き上がってくる。

ギターポップ/ネオアコの文脈を大事にした前作『Everything You Say』から、曲のキラキラしたポップさはそのままながら、他の様々な点で大きく変貌したこの作品。端的に目につくのは、歌が英詩から日本語詞に変わったことと、その轟音っぷりだろう。

日本語詞だけに限らず今作は、まるで洋楽のアルバムみたいだった前作と比べて様々な部分で、遥かに“邦楽ロック”な要素が増えている。インタビューにおいて「ネオアコバンドにアヒトイナザワが加入した」ようだと本人が語っていたが、その影響はドラムのプレイだけでなく、例えば随所に配置された「あっ、ここのリズム切り替わる感じとか、ここのキメのブレイクとか、あの日本のギターロックっぽいよね〜」って箇所に現れている。つまり、リズムの変化がソングライティングに食い込んでいる。

また、幾重にもレイヤーを重ねたギターやシンセの轟音は、まさに日本のインディーギターポップ界有数のウォールオブサウンドっぷり。この轟音の素晴らしいところは、どこまでも澄み渡っていくような質感が大事にされていながらひどくキャッチーでもあることと、アルバムタイトルにも通じるようなノスタルジックな感覚がダイレクトに音に表現されているところだ。

今作の代表曲のひとつである「スケッチブック」の、繰り返される美しくも切ない轟音。特に最後の歌の箇所が終わってから繰り返される部分は、普通の感覚なら二回くらいで曲が終わりそうなところを、その倍の4回も繰り返す(参考までに、Flipper’s Guitarのギターポップの名曲『カメラ!カメラ!カメラ!』はアウトロの繰り返しを3回行っている)。こういった部分に、轟音の中に湧き出た感情・感傷にいつまでも浸っていたい、という、今作のタイトルにもある“8000日のモラトリアム”に直結する、とてもドリーミーでかつ切ない思いを感じてやまない。

今作にはギターポップ/ネオアコは当然として、NUMBER GIRLも、The Pains Of Being Pure At Heartも、Phil SpectorもThe Beach Boysも、ドリームポップもシューゲイザーも、自然に取り込んだ上で淡く澄んだ音楽が綴られている。その一大ギターポップ図鑑ともいえる豊穣なサウンドは「放っておけば失われていくだけの何かを永遠の中に釘付けにしてしまうこと」(とある邦楽バンドのアルバムライナーより引用)にのみ捧げられている。それを子供じみた行為だと蔑むなら勝手にすればいい。ただぼくは今、その轟音さえも支配する静かにしかし激しいメロウさに、思いの果てで鳴らされる音楽に、8000日(今計算したら22年以上なのか…)だってそれ以上だって浸っていたいと、胸を痛めていたいと思っている。

【Writer】ŠŠŒおかざきよしとも(@YstmOkzk)

クロスレビュー相手のおかざきよしともくんは、僕が以前レビューしたKalan Ya Heidiのメンバーであり、BoyishとはDead Funny Recordのレーベルメイトになる。ならばと、この場を頂いた僕から、念押して言いたいのだ。今作は、傑作なのだと。

BUMP OF CHICKENやASIAN KUNG-FU GENERATIONやsyrup16gが初期の頃にえがいた<何者にもなれない自分>の自画像、アルバムタイトルにも表されているような「モラトリアムとそのスケッチ」という自慰的とも読み込めるテーゼを、渋谷系/シューゲイザー/ネオアコサウンドといった20年前のオールディなサウンドによって、そのままに焼き付けた一枚だ。

それがゆえに、<今の時代と共振した>云々といった音を本作から見つけ出すのはひどく難しい。強いて言えば、オールディなサウンドを成している一つ一つの楽器の音色が、現代のプロダクションやエフェクターを通し、ハッキリとした鮮明さにあふれているということだ。

間違いなく彼らが異質なのは、基本となるBPMがこの類のバンドにしてはやけに速いことではなかろうか。この些細な違いは、過去を振り返りすぎたがゆえに郷愁めいた言葉を紡ぐボーカルラインと、6人編成による必然的に抱えてしまうであろう重みのあるサウンドスケープを、より高圧的に仕上げてリスナーへと投げつける。「窓際の少女」「ハートウォームギター」「スケッチブック」「降り止まない夕立」と並び連なった佳曲は、彼らの裏にある暴力的な血筋を証明しているようにも見える。

渋谷系だのシューゲイザーだのネオアコだのといったサウンドが、いつからBPMが120前後じゃないといけないと決められた?、そんな囁きが聞こえてきそうなルール破りが今作のキモであり、名盤たらしめている。来年以降、間違いなく大きな台風の目になりそうだ。

【Writer】草野 虹(@grassrainbow)
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