最終更新: 2020年5月16日


ビンテージ感溢れた、いい感じにルーズなロックンロール。感情をこれでもかと揺さぶってくる規格外にダイナミックなボーカルが主導し、ドラマチックに曲を展開させる不思議な引力がある。BGMにしては存在感がありすぎる。見入ってしまうのも無理はない。そこにいた観客の多くが足を止め、話を止め、聴き入った。

The Districtsの「4th and Reobling」が流れていた。

先日の新木場STUDIO COASTのHostess Club Weekenderでの印象深い光景だ。バンド転換中、プロジェクター大画面にジャケットだけの質素な映像が映し出されていた。東京のいちイベント会場だけではない。The Districtsはすでに世界中で多くのロックファンを魅了している。

2009年、ペンシルバニア州のLititと言う小さな町で結成。2012年にBandCampで発表した13曲入り『TELEPHONE』が、The Black Keys等のリリースをするブルース/インディロックレーベル、Fat Possum Recordsの目に止まり、そこからの編集EP『The Districts』が2014年にリリース。SXSWのショーケースに対し、NMEは”SXSWを制したバンド”と絶賛。さらにレディングフェス、ロラパルーザに出演し、注目度は一気に急上昇する。直後のロンドンのライブはSOLD OUT。全米ツアーもSOLD OUT 続出となった。欧・米双方でまさにHYPE状態まっただ中の超大型新人だ(「TELEPHONE」も是非聴いてみてほしい。並はずれた潜在能力に思い知らされる)。

そして、満を持してリリースされた1stフル・アルバム『A Flourish And A Spoil』。プロデューサーはジョン・コングルトン。”音のマジシャン”として今最も注目され、St.ヴィンセントをプロデュースし、2014年グラミー賞「最優秀オルタナティヴ」に叩きこんだ敏腕プロデューサーだ。天才vs天才による作品。才能が対立し、凡作に落ち着いてしまうこともしばしばであるが、今作は間違いなく大成功だ。当たり前であるが、アマチュア時代の音源を編さんした前作EPをはるかに凌駕する完成度であり、計り知れないスケールアップを果たしている。

「4th and Reobling」は序章に過ぎなかった。アルバムを聴き進めていくと、さらにファンタジックな世界が次々と展開され、包み込まれてしまう。アマチュア時代とは比べ物にならないくらい楽曲がレベルアップしているし、本当にミラクルとも言えるサウンドワークだ。すべての曲が素晴らしいが、特にそれが堪能できる後半の「YOUNG BLOOD」。ジョン・コングルトンの目まぐるしいとも言える音使いが面白いほど効果的に決まり、曲がドラマチックに展開されていく様は爽快だ。The Districtsの潜在能力があったからこそと言えるだろう。これは是非良いサウンドシステムで聴いてほしい。

レーベルのホームページにはツアー用車内でのヤンチャな写真と共に、”The Districtsが我々のお金を使い込んで、びっくりするほど素晴らしいレコードを作りやがった”なんて紹介してる。少年たちが”アーティスト”としての向こう側へ踏み込んだ瞬間であるようにも思え、感慨深い。新人バンドにありがちな○○みたいなという表現はあえて避けたい。おそらくこれが時代を塗替え、新たなスタンダードになっていくはずだから。

【Writer】ŠŠŒTJ(@indierockrepo)

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