最終更新: 2020年5月21日

貶してる訳じゃないいから正直に言おう。ぼくはこのシャムキャッツの最新作ミニアルバム『Take Care』を聴いていて、快い驚きと同時になぜか妙に寂しくて仕方がない。

そしてそれは、作品自体の作り込みによるものでもあるし、それ以外の部分のせいでもあると思えるのだ。どういうことか。

本作は、昨年リリースされては各方面より絶賛されたアルバム『AFTER HOURS』の続編として正式にアナウンスされ、そして実際にそうなっていると思う。『AFTER HOURS』はどんな作品だったか。それは、それまでのローファイ・ジャンク要素の強いやんちゃロックバンドとしての性質から距離を置き、よりメロウで空間的でグルーヴの効いたサウンドへの志向がひとつ(この辺り、所謂“東京インディー”シーンの花形バンドとして並列されることのあるミツメや昆虫キッズも空間的なサウンド志向を昨年のアルバムに反映させ、その結果が見事に三者三様なのは興味深いが、それはまた別のお話)。そしていまひとつが、歌中のストーリーの視点、それまでのけだるくも等身大めいた詩情が後退し、「この街」を乾いた筆致で描くことに注力したことだろう。

前置きが長くなって、ようやく今回の作品について。今作は「『AFTER HOURS』で大きく変わった部分」だけを取り出してより深化した、という印象が強い。先行公開された一曲目「Girl At The Bus Stop」や四曲目「Windless Day」の、サウンドのよりエコーが効いてマイルドな方向への変化もさることながら、何より夏目氏のボーカリゼーションの変化、キーが高くなり、ファルセットを多用した中性的なスタイルに、その音楽性・精神性の飛躍的な進化が感じられ、これまでになかった妖艶さが現れていて美しい。が、それが同時に妙に寂しくもある。

その変化の最たるものである三曲目「Choke」のアダルティックな哀愁のフィーリングに至って、この面倒な感情を強引に言い表せる言葉が浮かぶ。“大人になる”ということ。月並みな言葉であるけれど、しかしこれを徹底的に意識してかつ誠実に作られた作品、それもシャムキャッツの!今作で唯一以前までのボーカル・サウンドっぽさが色濃い最終曲「PM 5:00」でホッとできるかと思った束の間、飛び込んでくる歌詞はこうだ。

「とても静かに飲み込まれていく
虫も眠り 次は僕ら?
3、4年じゃ何も変わらないって
ひろちゃんの言ったとおりになった」

この曲は、今年のはじめに活動終了したかつての盟友・昆虫キッズに捧げられている。しかし何だろう、ここには労いとか、悲しみとかではなく、ただただ不安とむなしさばかり漂っている。「なんだかやれそう」などとがむしゃらに歌っていた時代は遠くなり、いつの間にか身に付けたクレバーさ・スマートさと、いつの間にか取り憑いていた平穏さ・無常観がキリキリと交差する地点に現在のシャムキャッツは立つ。視界はがらんと広く、色彩はふんわりと淡く、そして情熱は透き通っていく。それはこのバンドだけでなく、外からはどこかお祭りのように見えていた東京インディーシーンもなのか。それでも今はただ、この妙に他人事でないように感じられる、優しくて寂しくて心地よい音楽に流されていたい気がする。

【Writer】おかざきよしとも (@YstmOkzk)
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彼らの前作『AFTER HOURS』は、青春時代もロスタイムに入りながら何気ない日常を謳歌する20代の男女を歌った、みずみずしくもどかしく愛おしい作品であった。慣れない仕事を終え自宅に帰ると、自分より早く仕事から帰ってきた彼女が有り合わせのものでご飯を作ってくれている。明日にも仕事をたっぷり残しているし、上司には怒られるし気が重い。しかし今だけは彼女と最高に幸せな時間を噛みしめてまどろんでいたいんだ、というような気が弛む瞬間、感情の機微が描かれていた。

その続編にあたる本作は、そんな若者たちの何気ない日常の描写という点では同じであるが、大なり小なりの出来事を“何気ない”という言葉で片付けることを覚え、若者たちが成長しているように感じる。色々考え、くたびれた様子でバスを待っている女の子(「Girls At The Bus Stop」)、「今日はどんなことあったの?」と聞いても「なんもない」としか返さない女の子(「Windless Day」)。本当は深刻なことがあったのかもしれない。

決して隠すわけではなく愛する人には「いい日だった」と笑顔で言える、この何気なさ。ここに前作の様な、束の間の幸せに陶酔する姿はなく、清々しく目の前を見据えている。そう前作と同じくサヌキナオヤによってジャケットに描かれた女性の姿だ。

サウンド面としては心地よいリヴァーブギターを軸としたつくりにうかうかしているとさらっと終わってしまう。A-B-サビというポップ作法の曲構成にとらわれず、明確にパート分けを感じさせない構成・サウンド・メロディとなっているため、1曲の中で物語は推進せず、ただただ生活の一場面を切り取ることに徹しているのである。ただ大塚智之のベースが曲に躍動感のアクセントを与えているという役割分担は「たからじま」からのキャムキャッツ印と言えるだろう。

辛いことも楽しいことも色々あるけれど、たいていの日常は何気ない。『AFTER HOURS』の住人達は精神的に少し成熟しロスタイムも終了、それぞれの居心地の良い場所・生き方を見つけ始めている。

【Writer】峯大貴(@mine_cism)
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