最終更新: 2020年12月6日
「なんでもかんでもビーチボーイズにすればいいんだから。同じに聴こえちゃうんだよな。」渋谷陽一氏がラジオでグチをこぼすほどに2010年は“サーフポップ”が流行っていた。シンプルでバブルガムポップな、どこかノスタルジックを感じるメロディに深めのリヴァーヴ。
前年のMGMT、ANIMAL COLLECTIVEのシンセポップ勢のヒット作が引き金となり、THE DRUMS「LET’S GO SURFING」、BEST COAST「Boyfriend」、そしてSurfer Bloodの「SWIM」がこのムーブメントの火付け役になった。Pitchforkは「ブライアン・ウィルソン meets ウィーザー」と絶賛し、彼らは”時のバンド”として華々しいデビューを飾った。
しかしその翌年には、先駆者的存在だったMGMT、ANIMAL COLLECTIVEがブームから離れるようにポップ色の薄いアルバムをリリース。冒頭のセリフではないが、世の中が”何か違うもの”を求める風潮になった2013年に、彼らはレーベルをインディから大手ワーナー社に移し、2ndアルバム『PYTHONS』をリリースした。”魔法”であったリヴァーブを(おそらく意識的に)封印。生音に近いサウンドと楽曲の魅力で勝負した意欲作であったが、メディアの反応は冷たかった。「前作ほどインパクトがない」と批評した。その後、”折り合いがつかなかった”という理由で、ワーナーとの関係は解消。
“脱落”と捉えられるかもしれない。この選択が正しいかどうかはわからない。でも、トップチャートに執着することだけがロックバンドのあるべき姿でないことも彼らは知っている。彼らが敬愛するThe Pixiesがそうであるように。Surfer Bloodの3rdアルバム『1000 Palms』は自主制作によってリリースされている。これは彼らがバンドの立ち位置を変え、リスタートを切った、記念すべきアルバムだ。今作も、彼らが敬愛するThe Pixies、Built to Spill、Pavement のUSオルタナティヴ・インディイズムを受け継ぐ、甘く切ない、キャッチーなメロディが満載だ。ただし、前作のように、展開の応酬のようなジャンクポップな曲は影をひそめた。一方でアルバム全体がソフトな音像になり、やさしい曲が増えた。(特に鳥のさえずりが心地よいエンディング曲「NW Passage」の脱力感は半端ない。)だからこそ、「Feast Famine」のアッパーさ、「Island」のエモーショナルな展開が余計に心に響く。”引く”ことで魅力を出しているのだ。全体的に肩の力が抜けてて非常に聴きやすく、何度もリピートしたくなる欲望を掻き立ててくれる。バンドを自主運営していく解放感というか、自由さが作品にも現れている。彼らの自然な部分が良い形で出たアルバムだ。
現在、リリースツアー中で忙しいSurfer Bloodだが、もうひとつ越えなければいけない課題を抱えている。バンド創設からのメンバーであったギタリストのトーマスが、闘病中なのである。「SWIM」のMV中で、ミニーマウスのコスプレに身を包み、憎らしい笑顔をこっちに向けていた彼だ。Twitterでは、連日ツアーの様子と同じくトーマスの闘病の様子と励ましの応援がアップされ、ツアー会場でも治療費のための募金BOXが設置されている。すごく大変な状況ではあるけれど、どのバンドよりもメンバーの結束の強さを感じるのはボクだけではないだろう。そして、バンドとしてより強い結束と、強い生命力が『1000 Palms』からも存分に感じられる。
【Writer】TJ(@indierockrepo)
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