最終更新: 2019年1月29日


正直、聴く直前まで信じてなかった。レコーディング中の写真は、完全にリゾートで脱力モードだったし、そんなところであの”リバティーンズ”のアルバムができるのか?って。でもギターフィードバックから始まる冒頭曲「Barbarians」でその心配は一気に吹き飛んだ。カールとピートのギターの絡みっぷり!交互にボーカルをとってサビでユニゾンするイチャつきぷり!さらにはBメロでは、おそらくあえて意図的に「Can’t Stand me Now」のBメロを流用してくるというダメ押し。もうわかりました。これはまさしくリバティーンズです。

今作は「You’re My Waterloo」以外はすべて新曲になっている。もともとが未発表曲の再録だったのが、こうなったのはゲイリーからバンドへの絶対条件だったらしい。派手に展開していく曲はなく、全体的に抒情的な曲が多い。『リバティーンズ宣言』や『リバティーンズ革命』は曲単体を聴く印象が強かったが、今作はアルバム全体を聴いてイメージを掴むようなつくりになっている。聴き進めていくうえで、リバティーンズの良さをじっくり堪能できるようになっている。Carl Barrat And The JackalsやBaby Shamblesの近作があれだけアグレッシブだったことを振り返ると、今作の、一種”クール”に魅力を伝える指向は作為的ではないかとも思える。あるいは、それぞれのソロ活動で成長したからできた新しいアプローチだ。具体的に、今作で取り入れたアナログシンセの活用はカールがこれまで幅広い音楽性に試みたことだし、より叙情的な世界観を具現化させる演奏やフロウの取り方はピートが極めてきたことだ。その2つの成長の延長線上で今作が成り立っているという見方もできる。

ワンダイレクションやエド・シーランを手掛けるジェイク・ゴスリングをプロデューサーに起用したのも、よりリアルなライヴ感だけを目的にしていた昔の彼らではありえないことであったが、楽曲の魅力を引き出すことに重点を置いた今作では、この選択に至ったのも納得ができる。実際に幅広い趣向の楽曲がありながら、このアルバムは驚くほど1つにまとまっている。カールの「(この作品には)10年が必要だった」というコメントもあるように、今の彼らには変化を受け入れ、作品に転化できる素養が備わっているのだ。確かに「Don’t Look Back Into The Sun」や「Death On The Stairs」みたいな若さ溢れるキャッチャーな曲はないし、「Horror Show」や「May Day」みたいな疾走感あるパンク・ナンバーはないのだが、今までにないアプローチによる新鮮さで、リバティーンズであることの主張は今までのどの作品より濃く浮き上がっている。そして、「Gunga Din」のMVで存分に見せつけてくれた、異常なまでのイチャイチャっぷり。ここは知ってるヤツなんかいないんだからさ、ってばかりに無邪気にはしゃぐ4人の中年。完全にただの外国人観光客にしか見えない。あれを見ると、ロンドンから遠く離れたタイに滞在することで、ロックスター、リバティーンズでなければならない重荷から解放されたんだなあと思わせてくれる。バンドがもう1度やり直すにはピッタリの場所だったんじゃないだろうか。

2010年の復活を辿った映画『傷だらけの伝説』は不穏なエンディングで幕を閉じている。クライマックスのレディング・フェスティバルでの復活GIGをバックに、ネガティブなコメントが重なる。「カールは今でも自分のことを信じていない」と言うピート。「ピートとは一緒にもうやっていけない」と言うカール。コードやパートを忘れ、ヘラヘラ笑い、まるで気が入っていないカール。リハを無断欠席し、会うと不自然にテンションが高いピート。そして前述の「やっぱオレこいつ無理だわー」という顛末。60sや70sのバンドのようにエンタメに振り切って再結成できるほど老いてない。まだ30代前半だった2人にとって過去を再生する作業に対する憤りであったのかもしれない。一方でゲイリーは「新作を出さなければリバティーンズは終わる」とはっきり客観的なコメントを残している。フェスに出演し、ひたすら懐メロを演奏するだけのバンドはゴメンだということだ。2010年、いつのまにか”伝説のバンド”と呼ばれ、過去の英雄に追いやられてつつあったのは事実だった。時代に追いつく新譜を出さなければ今度こそ本当に終わってしまうことをゲイリーは危惧していた。

あれから5年後。新曲を引っさげて凱旋した先日のレディング。5年前とは比較にならないほど自信に満ち溢れ、生き生きとした表情で演奏する4人の姿があった。復活前のアップテンポな曲と新譜のエモーショナルな曲との相乗効果もあってライヴのセットリストも明らかに今まで以上に充実しているようだ。エンディングでゲイリーがマイクをとり「おれたちがリバティーンズだ!」と叫んだのも感動的だ。彼が支えたから今のリバティーンズがあるのだ。レディング後はなんとイギリス国内のクラブツアーも予定している。4人の団結力はなおも高まっているようだ。名実ともにリバティーンズは完全復活したのだ。これなら戦える。もう存分に暴れてください。

【Writer】ŠŠŒTJ(@indierockrepo)
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